第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 9 ―ボッズーが見付けた奇妙な物……―
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セイギが来た道を戻ると、パトカーのすぐ近くにはボッズーが居た。
「ボッズー、何を見付けたんだ?」
「こっちボズ! ついてきてボッズー!」
セイギを待っている間にボッズーは自分を取り戻したのだろう。表情からは焦りは消えて、落ち着いた顔付きになっていた。
「さっきはごめんボズな、俺も混乱してしまって……」
「いや、気にするなよ。それで、何を見付けたのか話してくれよ」
「うん、それがな、ミルミルミルネで山の中を見てたら、布みたいな物が何枚も落ちている場所を見付けたんだボズ……」
「布?」
「そうボズ。でも、そこに下りてみたらそれは布じゃなくて、服だったんだボズよ!」
「服だって……?」
「そうボズ。服ボズ……さぁこっちボズよ!」
ボッズーはカラーコーンが点々と倒れる下り道を途中で逸れて、林の中へと入っていった。
「林道の外は傾斜になってるから、滑らない様に気を付けてなボズ!」
「おう、分かった――うわっ!」
セイギは軽く返事をしたが、すぐにボッズーの注意が本当だったと知った。林道を外れたすぐ先は斜め45度に近い急傾斜だった。
「おっととと……」
セイギは最前に『気を付けて』と言われていたから何とか踏み留まれたが、危うく転げ落ちそうになってしまった。
「何やってんだボズ、気を付けろって言っただろ」
「あ……あぁ、ごめん」
白い目を向けられたセイギは、それからは周りの木を伝え伝えに掴まって慎重に傾斜を下りていった。
「ん、これか? さっきボッズーが見付けたの?」
傾斜を下り切ると、平坦な場所に出た。そこではカラーコーンが一つ転がっていた。
「そうボズよ。一個だけ転げ落ちたんだなボズ。良い目印になってくれただボズよ。でも、目印は目印でしかないボズ。それよりもこっちボズ。少しだけ歩くからなボズ」
セイギはカラーコーン指差していたが、ボッズーは興味なさげにチラリと見ただけ。すぐに視線を外した。
それからボッズーは空中を歩く様なスピードで飛んで、山の中を進み始めた。
進み始めて数分後、ボッズーは止まった。
ボッズーが止まった場所は、目印になる物も何も無い場所だった。木が生えているだけだ。しかし木々も密集しているのではなく一定の距離をもって点々と生えている。空から見たのならば、ここも『歯抜け』に近い状態で見えただろう。
「それか……ボッズーが言ってたの?」
ボッズーは背の高い木の前で止まったのだが、空中に浮かぶボッズーの足下には青い服が落ちていた。
セイギはボッズーに近付き、落ちている服を見下ろした。
服は脱ぎ捨てられたかの様に乱雑に落ちていた。辺りに人影はない、ただ服があるだけ。
「そうボズ……コレだボズ」
「う~ん……これって、どう見てもアレだよな?」
セイギは含みを持たせた言い方をすると、腕時計の文字盤を叩き、大剣を腕時計の中に戻した。
両手を空にしたセイギは、屈み込んで服に向かって手を伸ばす。
「うん、そうだボズね、これはアレだボズ。制服だボズね」
「警官の……」
「制服ボズ」
セイギとボッズーは一つの言葉を二つに分けた。
「あ……帽子もあるな、拳銃もだ」
制服を手に取ると、その下には警察官が身に付けるべき物の一式が揃っていると分かった。靴さえもある。
「場所的に考えると、検問をやってた人の制服って事かな? それにしても、何でこんな脱ぎ捨てたみたいに……」
「分からんボズ。それが分からないから気持ち悪いだボズよ……」
「う~ん……そりゃそうか。で、さっき何枚もあるって言ったよな? 他にもあるのか?」
「うん。こっちボズ」
ボッズーはセイギを手招きしながらまた別の場所へと移動した。
「ほら、アレだボズ」
ボッズーが指差した場所には、最前に見た物と同じく脱ぎ捨てられた様に服が落ちていた。それもまた警官の制服だ。
「これだけじゃないボズよ。ほら、あそこにも、そこにも、あっちにも――」
ボッズーは指をさし続けた。
ボッズーが指をさす全ての場所に制服はあった。
「変だな……」
「変だろ?気持ち悪いだろボッズー?」
「あぁ……」
セイギは頷き、人差し指で頭を掻いた。
掻きながら、近くの制服の前に座る。
「う~ん……」
と、セイギは制服を手に取り、ポケットを探り出す。
「あ……あった」
「何がだボズ?」
「ほら、財布だよ」
セイギは制服のズボンから二つ折りの財布を取り出してボッズーに見せた。
「制服を置いて、靴も履き替えて、何処かに行った……いや、まぁ、まずそんな事がある訳ないんだけど、そうだと考えても、流石に財布くらいは持っていくと思うんだよな」
「まぁ、そうだろうなボズ」
「それにコイツがあるのが一番不自然だ」
セイギは拳銃を手に取った。
「警察が拳銃を置いてどっかに行くって事ないだろ? それにこれ、ホルスターから外されてるよ。さっき見たのもそうだった。もしかしたら、他のもそうかも」
「あ……本当だ。でも、ホルスターから外されてるって事は、使ったって事ボズな?」
「あぁ、それか使おうとしたか。まぁそれはどっちでも良いか」
セイギは大きな溜め息を吐いて、頭を掻いた。
「どうしたんたボズ?」
「ん? う~ん、なぁ?」
セイギは『なぁ?』と言い、一拍の間を置いた。頭を掻く手とは反対の手では拳銃に付いたコイル式のストラップを弄っている。視線もボッズーから外してストラップを弄る指を見詰め始めた。
「……近くにさ、黒いコートは落ちてなかったか? レザーっぽいやつ」
「黒いコート? そんなのは見てないぞボッズー」
「そうか……」
またセイギは一拍置いた。拳銃をそっと制服の上に置く。
最前の一拍も、この次の一拍も、セイギが次の言葉を言うべきか言わざるべきか迷っているから生まれたものだった。だが、セイギは言葉を口にした。
「なら……勇気はまだ無事って事だな」
「勇気は?」
「あぁ……」
セイギが何故言おうか言わざるか迷っていたのか、それは頭に浮かぶ眼前の状況の答えを認める事が嫌だったからだ。しかし認めなければ次には進めないと決断し、セイギは言った。次の言葉もそうだ……
「多分……この人たちはバケモノにやられたんだよ」




