第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 7 ―捜索開始―
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腕時計から聞こえてきた勇気の声は尋常ならざるものだった。
言葉一つ話さず荒い息遣いだけではあるが、その息遣いは、生きたまま身を引き裂かれる様な苦しみ、痛み、恐怖の渦中に勇気がいると感じさせ、正義すらも震わせた。
「勇気……いったい何が……」
しかし、正義は震えたままでいる男ではない。
恐怖する者を助ける為に、己を奮い立たせられる男だ。
「希望、ごめん……俺、行かないとだ。おじさん、それじゃあまた……また、来ます!!」
腕時計から聞こえてきた声に唖然としていた二人を残し、正義はマンションを飛び出していく――
―― ―― ―
「本当にこの辺で合ってるのかボズ?」
「あぁ、その筈だ!!」
希望のマンションを飛び出してから数分後、ボッズーと共に赤井正義は輝ヶ丘の空にいた。
否、現在の彼は"赤井正義"ではない、《正義の英雄 ガキセイギ》である。
そして、赤い仮面に隠れた瞳は鋭く尖っている。
希望の叔父から聞いた『化け物』の話と、勇気から届いた尋常ならざる声は、新たな戦いの始まりを予感させたからだ。
「筈って、本当に大丈夫なのかボズ?」
「あぁ、俺を信じろ!!」
勇気から届いた通信は、勇気の声を聞かせただけですぐに切れてしまった。勇気に何が起こったのかは分からない。
ガキセイギは何としても勇気を見付け出そうと捜索を開始していた。
「墓参りに行く時、勇気はいつもこの道を使って行くんだ!!」
捜す場所は《輝ヶ丘の大木》の立つ山から、勇気の父が眠る十文字寺がある風見の山に向かって走る林道である。ガキセイギは知っていた、勇気が墓参りに行く時には風見の町内を通らずにこの林道から直接風見の山へと入ると。
「何でお前がそんな事を知ってるんだボズ?!」
「昔からそうだったからだよ。俺達と大木の近くで遊んで、そのままアイツは母ちゃんと墓参りに行くって時もあったんだ。そん時と変わってなければ、多分――あっ!! ボッズー、アレ見ろ!!」
喋っていてもガキセイギの目は鷹の目だ。『アレ見ろ!!』と叫んだセイギは、目下に見える林道を指差した。
「ん? 何処ボズよ??」
「ほら、アレだよ! 木の並びがちょっと歯抜けみたいになってる所! 下の道がよく見える場所があるだろ!」
「え、歯抜け?? 歯抜け……歯抜け……あぁ!! アレか!!」
空から山を見ていると、一見すると緑一色だ。山中に生えた木々の葉が目隠しとなり、目を凝らさなければ林道までは見えない。が、緑の目隠しの中には木と木の重なりの度合いによってポツリポツリと穴が空いている様に見える場所が幾つかあった。だが『歯抜け』と表現出来る程に大きく空いた場所は一ヶ所しか無かった。
セイギが指差す場所はすぐにボッズーにも分かった。そして『歯抜け』の場所は他の場所とは違って目を凝らさなくても林道の全貌がよく見える場所だった。
「分かったか? 分かったならよく見ろ、あそこの林道、煙が立ってないか?」
「煙? ……あぁ、本当だボズ? なんだ、焚き火かボズ?」
「いや絶対違うって、誰もあんな道のド真ん中で焚き火なんかしないぜ……ボッズー、今すぐあの場所に下りてくれないか」
「うん、OKボッズーよ!」
セイギに命じられたボッズーは一気に高度を下げた。すると、煙の出所が見えた。
「あれは……車? 車が燃えてんのか?」
「うん、そうみたいだなボズ……」
二人の目に映ったものは車だ。林道の中央に止まった一台の車からメラメラと炎が上がっている。
炎上する車を見付けたボッズーは更に高度を下げていき、車から少し離れた場所にセイギを下ろした。
「これって事故った感じじゃないよな? やっぱりバケモノが――」
車は横転するでもなく、木にぶつかるでもなく、ただ林道の中央で燃えていた。周りには誰もいない。ただ車が燃えているだけ。セイギはこの状況に首を捻った。
「ん?」
辺りを見回していると、セイギはもう一つ気になる物を見付けた。
「あれは……カラーコーン?」
車の後方、数メートルいった先には緩やかな下り道があった。そこに、赤と白の縞模様をしたカラーコーンがあった。一つではない、数個が点々と転がっている。
「何でカラーコーンが山の中にあるんだボズ? 工事……じゃないよなぁ?」
ボッズーが首を捻ると、セイギは首を振って返した。
「いや、工事じゃないな。 なぁボッズー、この車が何か気が付いてるか? この車、パトカーだぜ」
車を近くで見ると炎々と燃える炎の中にパトランプがあると分かった。車がパトカーだと知ったセイギは「あ、なるほど」と呟く。
「カラーコーンに、パトカーか……」
セイギはカラーコーンの所まで走っていく。
点々と倒れるカラーコーンの最後の一個は下り道が終わった平坦な場所にあった。そして、最後のカラーコーンのすぐ近くには四つ足の看板が倒れていた。この看板を見付けて、セイギは「やっぱりな」と呟き、看板を立ち上がらせる。
「ボッズー、見ろ! こういう事だ!」
セイギは振り向き、ボッズーに看板を見せた。
そこに書かれた文字は『検問中』――
「あのパトカー、多分この場所で検問をしてたんじゃないか?」
「検問……?」
「あぁ、希望を誘拐したリーダー格の男が逃げ出したって話をしたろ? 多分、その捜索の為にやってたんじゃないかな?」
「う~ん……なるほど」
「んで、そこにビンゴでアイツが現れた! んで、パトカーを襲った!」
セイギは炎上するパトカーを指差した。
それから腕時計を叩く、文字盤が開くと中からは白い柄が飛び出した。
「やっぱり……勇気はバケモノに遭遇した可能性が高いな。バケモノになったリーダー格の男に――」
柄を引き抜くと、セイギの手には白い翼の大剣が握られる。
「ヨシッ! ボッズー、とにかく勇気を捜し出そう! いや、勇気だけじゃないな、勇気の母ちゃんも、ここで検問してただろう警察の人もだ! バケモノにやられる前に急ごう!!」
「そうだボズね、ここには死体も怪我人もいない、まだ誰も襲われていない証拠だボズ、襲われる前に急がないとなボッズー!」
ここでセイギとボッズーは二手に分かれる事にした。地上と空の両面から捜索した方が良いと判断したからだ。
「ボッズー、何か見つけたらすぐに腕時計に連絡を送れよ! 頼んだぞ!!」
飛び立っていくボッズーに向かって腕時計を見せたセイギは、
「それじゃあ、俺はどの道を行くか……」
と頭を掻いた。その視線は倒れたカラーコーンに注がれる。
「カラーコーンの全部が、尖った頭をパトカーがある方向に向けてんな。って事はパトカーはカラーコーンを薙ぎ倒しながら走ったって事かな? んで、バケモノはパトカーを追っ掛けて、ブッ壊した……なら、バケモノが行ったのはこっちの道か」
カラーコーンが頭を向ける方向をセイギは指差した。それは山の登り道、輝ヶ丘の山から風見の山へと向かう方向だ。
「道幅は狭いし、バケモノから逃げるなら逆を行く人はいないよな……なら、勇気達が行ったのもこっちの道だよな!」
セイギは勇気達が取っただろう行動を推理し、指差す方向を捜索すると決めた。
行く道を決めたセイギは勢い良く駆け出していく。




