第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 6 ―その時、正義の瞳が真っ赤に燃えていた―
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『目は口ほどに物を言う』
正義の顔……否、瞳を見て、希望はこの諺を思い出した。
何故ならば、正義の瞳には真っ赤な炎が宿っていたからだ。
この炎は、恐ろしい敵にも立ち向かっていく勇敢さと、愛するものを守る為にどこまでも強くなろうとする覚悟と、絶望の淵に立たされても希望ある未来を夢見続けられる胆力と、儚く小さな命でも慈しみ守ろうとする優しい気持ち、この五つの心を併せ持つ《正義の心》が燃え始めた証だった― ―
「希望のおじさん……今言った話、俺にちゃんと話してくれませんか?」
「は……話……?」
「そうです、誘拐犯のリーダーは化け物の姿になったんですよね?」
「あ……あぁ」
正義に聞かれると、希望の叔父は頷いた。
そして、立ち上がる。正義を警察に突き出そうと押さえ付けていた筈なのに。
「おじさん、やっと正義さんを信じてくれたんだね!」
叔父が見せた変化を、希望は理解出来た。
昨日の希望も、叔父と同じだったからだ。
誘拐犯に囚わてしまい絶望の淵に立っていた時、希望は見たのだ。『俺は味方だ』と笑い掛けてくる正義の瞳の奥に真っ赤な炎を。
だから希望は、すぐに警戒心を解く事が出来た。『この人は味方だ』とすぐに理解出来たのだ。
「信じた……うぅ、うん」
希望の叔父は、甥に曖昧な返事をすると額にかいた汗を拭いた。それから、正義と希望に背中を向けて項垂れる。
「アカイ……セイギくんと言ったね、どうやらキミは、悪人ではないようだ」
「あっ、信じてもらえたって事っすか? 何でかよく分かんないけど、良かったっす!」
正義が笑顔を浮かべると、希望の叔父はコクリと頷いた。
「私も、何故だかは分からないが、キミの目を見ていると、そう思えた」
「俺の目、ですか?」
起き上がった正義は、胡座をかき、頭を掻いた。心の炎は自然と燃え上がるものであり、『キミの目を見て』と言われても正義自身には分からない物だからだ。
「おじさん、疑う方が変なんだよ。だって正義さんは僕のヒーローなんだから!」
希望は項垂れる叔父に近付いて、その背中を叩いた。
叩かれた叔父は「ヒーロー……そうか、ヒーローか」と納得した感のある言葉を繰り返すと顔を上げた。それから、正義に向き直る。
「アカイくん、本当にすまない事をしてしまった。愚かな間違いを犯した私を、どうか許してほしい」
風船の様に丸い腹が本当に風船であったならば、きっと破裂してしまっただろう。そんな勢いで、希望の叔父は正義に向かって頭を下げた。
「えっ、いや、そんな、やめてくださいよ! おじさん悪くない、俺だって怪しかったったす! 言葉が足りないからいつも変なヤツに思われて――」
……と、正義は慌てたが、希望の叔父は断固として謝り続けた。
そして――暫く頭を下げ続けた希望の叔父は「あっ……」と口にすると頭を上げた。
「そうだ、化け物の話……だったよね?」
希望の叔父は思い出した様に言った。
「あっそうです、そうです、俺、その話が聞きたいんです」
正義が答えると、希望の叔父は「それなんだけど、申し訳ないが……」とまた謝った。
「私も警察から聞いただけなんだよ、だから詳しい訳ではないんだ」
「いや、それでも大丈夫です、知ってる事だけでも教えてほしいんで」
希望の叔父が『化け物』に関しての話を始めると、正義はニカっと浮かべていた笑顔を仕舞った。希望の叔父の言葉を一つでも聞き漏らしてはならないと真剣な眼差しになり、眉間には微かな皺も寄った。
「知ってる事だけ……か」
「はい、お願いします」
「そうだね、私が知っているのは、誘拐犯のリーダーを護送中だったパトカーが突然爆発したという事と、炎上しているパトカーからリーダーの男と目される人物が逃げ出したという事。それと、逃げる際に男が人間的ではない化け物の様な見た目に変化していたという証言がある事……ただ、これだけかな」
希望の叔父は正義が真剣になる理由を知りはしないが、正義の真剣さは分かった様子。厚い肉が覆った顎に手を置いて、ポツリポツリと『知っている事』を正義に伝えた。
話を聞いた正義は「う〜ん……」と呟き、やはり髪の毛を掻き回し始める。ぐちゃぐちゃとクルクルと掻き回して脳を回転させると「あの、これは分かりませんかね?」と聞いた。
「 化け物の様な見た目ってどんな感じだったかは聞いてませんか、例えば、色……とか、そういうの」
「色……色ね……」
希望の叔父の手は顎から離れられない。
正義は考え事をする時に髪の毛を掻き回すが、希望の叔父は厚い肉が覆った柔かい顎を触りたくなるのだろう。
暫く考えた末、希望の叔父は「確かぁ……」と口にした。
「『白い姿の化け物』と警察は言っていた気がするな」
「白ですか……アイツ等の色だ」
正義は希望の叔父に質問をしながら《王に選ばれし民》の特徴を思い出していた。ピエロも魔女も芸術家も騎士も、それぞれが奇異な格好をしていたが共通している部分もあった。それは"色"だ。ピエロ、魔女、芸術家の三体の肌は白過ぎる程に白く、色を塗る前の塗り絵の様な白さだった。
「全身を鎧で包んでいる騎士は黒かったけど、魔女のローブも黒かった。騎士の素顔を見れば、やっぱり他と同じで白過ぎるぐらいに白いのかも……白はアイツ等の特徴で間違いないよな。こりゃ、やっぱり《バケモノ》出てきたのかも。ボッズーが言ってたもんな《バケモノ》は悪意を持った人間や動物を変化させた存在だって。あのリーダー格の男がバケモノに選ばれたのかもしれねぇ……」
ボソボソと独り言を呟いた正義は「ヨシッ! こうなりゃ動くしかねぇな!」と言うと、勢い良く立ち上がった。
「おじさん、めっちゃ助かりました! ありがとうございます!」
正義は希望の叔父に感謝を伝え、「へへっ!」と笑った。
「あっ……お役に立てたなら良かった!」
正義を英雄と知らぬ希望の叔父は何の役に立ったのかまでは分からないだろうが、そう答えた。
「へへっ……ん?」
だが、希望の叔父の笑顔が見れて正義の笑顔も更に咲いた時だった、正義の腕時計から目映い光が放たれたのは。
「あれ、これって……?!」
薄暗いエントランスを照らした光は青白い光だった。
「青い光……って事は、勇気か?」
腕時計の文字盤から灯る光の色は六色ある。正義が仲間に通信を送れば赤色が灯り、白い光が灯ればボッズーが送ってきた証拠。桃色は愛。青ならば、勇気だ。
「どうしたんだろ……つか、もしかして――」
勇気が通信を送ってきたと確信した正義は胸騒ぎを覚えた。
正義は思い出したのだ。父親の墓参りに行く勇気に『気を付けろよ』と言っていた自分を。『《王に選ばれし民》が現れたいま、何処で何が起こるか分からない』と警告していた自分を。
胸騒ぎに急がされた正義は、殴る様な勢いで腕時計の文字盤を叩いた。
すると、
「ハァ……ハァ……ハァ……」
荒れた息遣いが聞こえてきた――




