第1話 大木の中へ 7 ―何故なのか……―
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「変身が出来ない?」
「うん……そうなの」
正義が首を傾げると、愛は腕時計の文字盤を叩いた。
「ほら、何も起こらないでしょ? 私と勇気くんは、腕時計を叩いても何も起こらないの……変身が出来ないの」
「……」
「……」
正義とボッズーは顔を見合わせた。
「せっちゃん……せっちゃんはどうやって力を手に入れたの?」
「え? いや……俺はぁ――」
『どうやって』と聞かれても正義は答えられなかった。
正義にとって英雄の力は当たり前に使えて、当たり前に手に入れられたものだったからだ。
正義は中学三年生の時に初めてガキセイギに変身した。初めではあるが、それまで変身が出来なかった訳ではない。それまでの正義は体がまだ幼くて、ボッズーから変身する許可を貰えなかっただけだ。
許可を貰えれば正義はすぐに出来た。出来てしまった。だから、愛の質問には答えられない。
「……」
「どうやら……お前は悩む事なく、力を手に入れたらしいな」
答えらない正義を見て、勇気は理由を察した。
察すると、正義からボッズーへと視線を移す。その顔は《願いの木》を戦力とする事が実質的に不可能と知った時よりも翳り、声は沈んだ。
「……ボッズー、俺は、いや桃井も、これまで何度も変身しようと試みたんだ。だが、一度たりとも出来なかった。だから俺は『約束の日に大木に行けば力を与えられる筈だ』、そうやって自分に言い聞かせて、いや……信じて、ここへ来た。しかし、現在でもその感はない――」
勇気も腕時計を叩いた。
「――ほら、やはりな。何も起きないだろ? 何故なんだ?」
「う……う~ん」
ボッズーは困った。想定外だったからだ。英雄に選ばれた勇気と愛が英雄の力を使えないなど、ボッズーにとっては有り得なかったから。
「ボッズーでも、分からない様だな……」
ボッズーからも返答が得られないと知ると勇気は悔しさに唇を噛み、項垂れ、呟く。
「じゃあ……どうすれば良いんだ」
勇気はまるで憎い者を見る様な目で腕時計を睨んだ。
勇気は今日まで、変身が出来ない不安を抱えて生きてきた。それでも、今日までは希望を持てていた。『約束の日が来れば』『大木へ行けば』……と。しかし、どちらも違っていた。約束の日が来ても力は得られず、大木へ来ても同じであった。
勇気は希望を失ってしまったのだ。
「勇気……ごめんボズな。何も分からなくて」
――勇気が項垂れると、ボッズーは勇気に近付いていく。
「こんな時に"ゾワゾワ"で何かが分かれば良いんだけど。肝心な時に働かない頭でごめんボッズー……」
「いや……ボッズーが謝る事ではないさ」
勇気は首を振るが、項垂れたままだ。
そんな勇気に、ボッズーも首を振る。
「いや、力になれない仲間ですまんボズ。愛にも謝るボズ。でもな、英雄を導く存在として生まれた俺だから言えるボズ。二人が選ばれし存在なのは間違いはないボッズー。だから、焦ってはいけないボズよ。今は英雄の力を使えないかもしれない、でも、二人も必ず力を掴める。今は焦るな、焦れば自信を失ってしまうボズからね。自信を失えば、英雄としての大事な"心"さえも失ってしまう可能性もあるんだぞボッズー」
ボッズーは勇気と愛を交互に見て言った。
その眼差しは真剣で、二人を励ます気持ちがあった。そして、危惧もしていた。『自信を失えば、本当に英雄にはなれなくなってしまうぞ』と。
「英雄として大事な心を、失くしてしまう……」
「そうボズよ、勇気。勇気には《勇気の心》、愛には《愛の心》だボッズー。二人の中に必ずあり、その"心"がキミ達を英雄に変えるんだボッズー。だから大事な"心"だけは失ってはいけない、失ってしまえば、その時は本当に英雄には成れなくなる……だから焦るな、自信を持ち続けるんだボッズー」
「そうだぜ、二人なら絶対に大丈夫だって!」
ボッズーの言葉を自分自身にも向けられた言葉だと聞いていた正義は、勇気と愛に近付いて二人の肩を叩いた。
「だってさ、俺に《勇気の心》と《愛の心》を教えてくれたのは勇気と愛の二人なんだぜ。俺は知ってる、二人は特大の"勇気"と"愛"を持ってんだ!!」
正義は二人を励ました。
だが、
「えっ、俺が教えた?」
「私が?」
――勇気も愛も首を傾げてしまう。
正義の励ましは嘘ではなく、実体験をもった言葉だった。だが、二人には伝わらなかった。
しかし、正義はニカッと笑う。正義は確かに覚えているのだ。勇気に《勇気の心》を教わった想い出を、愛に《愛の心》を教わった想い出を。
「へへっ! 自分じゃよく分かんねぇか、でも本当なんだぜ! 確かに俺は、二人から教えてもらったんだ!」
「この俺が……いつ?」
「へへっ!」
勇気が問い掛けると、正義は勇気の肩に腕を回した。
「勇気のはなぁ、"山田の時"だよ!」
「"山田"……大分昔じゃないか」
「へへっ! でもそうなんだよ!」
「山田くん……それって、あの山田くんの事?」
勇気と同じく表情を曇らせていた愛だが、『山田』と聞くとほんのりと笑顔を浮かべた。
何故ならば、『山田』という名前は懐かしい記憶を思い出させる名前だったからだ。
「そうだよ、太っちょの山田だ! 暴れん坊でさ、誰かしらいつもイジメてて、勇気とも最初は仲悪くて――」
「うん、覚えてる。山田くんが関わってるって事は、せっちゃんが言いたいのは"あの時"の話だよね? それって何年前だっけ? 勇気くんが輝ヶ丘に引っ越してきた頃だから、九年前くらい? あの頃の勇気くんって、せっちゃんのこと『赤井くん』って呼んでたよね?」
「違う、そんな風には呼んでいない、確か……正義くんだ――」
愛の間違いを、勇気は咄嗟に訂正した。少し照れ臭そうに。
「おっ、その呼び方懐かしい!! もっかい呼べ、もっかい!!」
「うん、私も感動した。もう一回聞きたい」
「正義、やめろって……俺達は真面目な話をしていた筈だぞ、話題を変えるなって! 桃井、キミもすぐに乗っかるな!」
……と言うが、勇気の表情の翳りは消える。
正義が笑うと、愛も笑った、そして微笑ではあるが勇気も笑顔を浮かべられている。
そんな勇気を見て、希望にも笑顔が浮かぶ。
「三人とも仲良しなんだなぁ~、良いなぁ~!」
「だろだろ? あの三人は――いや、まだここには来ていない二人も加えて、五人は、昔っから仲良しなんだよ。一人が笑えば別の一人に伝染して、そしてまた別の一人に伝染する、そして気が付いたら五人が五人とも笑ってる……そんな奴らなんだボッズー!」
希望の肩に止まって、ボッズーも笑っている。
笑いながらボッズーは、勇気と愛に向かって問い掛けた。
「勇気、愛、二人とも笑えているなボッズー! 自分の心を信じるんだぞ、キミ達二人が英雄なのは間違いないんだボズ! 焦るな、自信だぞ、自信! 大事な"心"を陰らせる何かを二人は抱えていないだろボッズー?」
「う~ん……多分、大丈夫かな?」
「俺が、そんなものを抱えている筈がないだろ」
愛も勇気も笑顔を見せながら断言した。
「そうか、そうか、それなら大丈夫だボッズー!」
二人の返答にボッズーは安心する。
――しかし、勇気はこの晩、悪夢を見てしまう。勇気はもっと自分の心の中を見詰めるべきだったのだ。否定せずに、探すべきだったのだ。自分の心の中を見詰め、"何か"を探すべきだったのだ……すぐに気付けた筈だから。
《勇気の心》を陰らせる自分自身に。
第二章、第1話『大木の中へ』 完
第二章、第1話「大木の中へ」をお読み頂き誠にありがとうございます。
第二章『勇気の英雄の激誕 編』はその名の通り、青木勇気が英雄の力を掴み取る物語となります。
どうか、どうか……青木勇気を見守ってあげて下さい。
そして、次回の第2話「バケモノッッッッッ!!!!!」では、遂に《バケモノ》と呼ばれる存在が登場します。
お楽しみ……
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今後とも「ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!!」を宜しくお願い致します!!!!!




