第1話 大木の中へ 2 ―大木の中へ―
2
「おぉ……!!」
「なにこれぇ? エレベーター??」
扉を通ると、勇気と愛は更に驚いた。
扉の向こうがエレベーターになっていたからだ。しかし普通のエレベーターとは違い、灯りは無く、暗くで狭い空間である。が、体が浮き上がっていく感覚はあり、二人はエレベーターだとすぐに分かった。
「これは……大木の中を上がっているって事か」
勇気が呟いた直後、『チーンッ!』 と音が鳴り、エレベーターは止まった。
「おぉ……止まった」
エレベーターが止まると再び扉が現れる。今度は入った時とは反対側に。また別の扉だ。
扉は独りでに開く。これは普通のエレベーターと同じである。横にスライドする形で開いた。
開いた扉の先からは煌々とした明かりが差し込まれ、勇気はまた「おぉ……」と唸った。
「ようこそ! これが《英雄たちの秘密基地》だボッズーよ!!」
「これが……基地」
小さな翼で羽ばたきながら秘密基地の中へと入っていくボッズーに続いて、勇気も愛も基地の中に足を踏み入れた。
「わぁ~暖かい!」
エレベーターの中は外気とさほど変わらずで寒かったのだが、基地の中は暖かかった。
暖房機器の暖かさとは違う。春の日差しの様な自然な暖かさだ。
「えっ、ちょっと待って! ちょっと待って! なにこれっ!! スゴい、スゴい!!」
愛は数歩進むと突如興奮し、瞳を輝かせて基地の天井を見上げた。
「ほらほら、勇気くん見て!」
「ん? あっ……!」
愛が天井を指差すと、勇気は驚いた。
「おぉ……空が見えるな!」
そうだ。愛は天井を指差した筈であるが、その指の先には屋根が無かった。あるのは空だ。朝から続く晴天が勇気達を見下ろしていた。
「ねっ、スゴくない? 屋上庭園みたい!」
「あぁ、凄いな……だが、これだと雨が降ったら大変だぞ」
この勇気の反応に「心配無用だボッズー!」とボッズーは笑った。
「勇気、見てろボズ!」
ボッズーはふわりふわりと、空に向かって飛んでいく。
そして床から五メートル程の高さまで行った時、ボッズーの頭はコツンっと何かにぶつかった――それでもボッズーは笑う、自慢気に腕を組みながら。
「空が丸見えだと、確かに雨が降ったら怖いボズな。でもでも、大丈夫なんだボズ。だって、ここにはバリヤーが張ってあるからなボッズー! だから、雨が降ろうが、槍が降ろうが、大丈夫なんだぞボッズー!」
腕組みをするボッズーは、コンコンと"バリアー=見えない壁"を頭でつついた。
「しかも、このバリアーはミサイルさえも跳ね返す代物だボズ! なんてったってここは秘密基地だボズからな! 敵の攻撃も防げる場所じゃないとねボッズー!」
「バリヤーか、それは凄いな……だが、空が見えるという事は、外からも丸見えじゃないのか? それじゃあ、秘密とは――」
「勇気は心配性だボズねぇ~! 『秘密とは言えない』、そう思うよなボッズー! だけどソレも心配無用だボッズー! このバリアーはマジックミラーと同じなんだボズ、基地の中から外が見えても、基地の外からは見えない様になってるんだボズ! 秘匿性ばっちりだボッズー!」
ボッズーは鼻を鳴らした。
そんなボッズーに「なるほど……」と勇気は返して空から視線を落とすと、今度は約二百平米はある基地の中を見回し始めた。
「見えない壁、バリアーか……まるでSF映画の世界に入った気分だ。それにしても、基地と言うからもっと無機質で物騒な感じだと思っていたが、少し意外な雰囲気だな」
この言葉に愛が同意する。
「うん、木に囲まれてて、森の中にいる気分になるね!」
秘密基地の中は空が見えるだけでなく、もう一つ不思議な部分があった。
木が生えているのだ。それは一目では数え切れぬ程の本数。百を優に超える木々が、隙間僅かに密集して基地内を囲んでいるのだ。
「そうボズね! まるで森の中みたいだボズね! でもな二人共、天井が無いのに驚くならこっちもだぞボッズー。実はな、この基地には壁だって無いんだボッズー。壁の代わりに、この木が生えてるんだボズよ! んで、こうやって木と木の隙間を覗けば、側面からも外が覗けるんだボッズー!」
ボッズーは下降すると、木と木の間に顔を突っ込んだ。
「勿論、ここにもバリアーが張られているから、外から見られる心配も、攻撃を受ける心配もないだボッズー!」
「木と木の隙間から外が、あっ本当だ」
愛はボッズーの真似をした。近くの木に走り寄って、木と木の間に顔を突っ込んだ。
「あっ!」
それから、気付く。
「ねぇ、ボッズー? これって本物の木じゃないでしょ! 見た目は本物の木にそっくりだけど、触り心地がプラスチックみたい! 大木の中に木が生えてるなんて変だと思ったけど、これってイミテーションなんだ!」
「おっ、気が付いたか、そうだぞボッズー!」
愛が木と木の間から顔を出して聞くと、同じく隙間から顔を出したボッズーが頷いた。
「桃井、本物な筈がないだろ、木が生えてるにしては地面に土が無い。これでは木が生える訳がないな」
勇気は足元を指差した。
基地の床面は何処を見ても年輪模様を描く木床で土は無かった。
「おぉ~二人ともさすが英雄だボッズーね! 洞察力が素晴らしいボズ!!」
ボッズーは木々の秘密に気が付いた二人に拍手を送ると、基地の中央にあるテーブルに向かって飛んでいく。
このテーブルもまた不思議な形をしている。切り株の形をしているのだ。
サイズは英雄が五人揃って囲めば丁度良い大きさ。その上にボッズーは下りた。
「それともう一個、壁代わりの木には秘密があるぞボズ。さっき俺達はエレベーターを使って基地に入ったなボズ。その時、自動ドアを通ったよな。その自動ドアが、この木なんだボッズー!」
「ん? この木が、ドア……」
勇気は振り向く。
「あっ……確かに、通った筈のドアが何処にも無いな」
「腕時計を大木の幹に当てると、基地に通じる扉が出現するとさっき教えただボズね。その場所は三百六十度どこからでもOKボッズー! でぇ、扉が出現すると同時に、内部を囲む壁代わりの木の内の一つが――扉を出現させた場所の真上にある木だボズね、それが自動ドアになるんだボズよ!」
「なるほど……」
勇気は呟いた。その顔には苦笑いが浮かぶ。
「大木には子供の頃から慣れ親しんできたつもりだったが、こんな秘密が隠されていたとはな……」
「うん、ビックリ!」
勇気と愛の二人は言うが、ボッズーは「驚くにはまだまだ早いボッズーよ!」と言う。
「大木の中にはまだまだ秘密がいっぱいだボズ! まぁその話をする前に、勇気、とりあえず正義をこのテーブルの上に寝かせるんだボズ。そろそろ腕が疲れてきた頃だろボッズー?」
ボッズーは切り株の形をしたテーブルを、アヒルそっくりの足でコンコンと叩いた。
ボッズーが叩くテーブルは正義が優に寝られる大きさがある。
勇気は「疲れてはいないけどな……」と言いはするが、ボッズーの言葉に甘えた。
「それにしても、良く寝ている。俺達が長々と喋っていてもコイツは起きる気配さえ見せないな」
正義を切り株のテーブルに寝かせると、勇気は天使の微笑みを浮かべた。
「あんなに頑張ったんだもん。いっぱい寝かせてあげようよ」
愛は優しい眼差しを眠る正義に向けた。
「で、ボッズー。『病院よりももっと良い場所』と基地に入る前に俺達に言ったよな? それはどういう意味なんだ。さっき『驚くにはまだ早い』とも言ったが、ここには正義の体を癒せる何かがあるのか」
「うん! それはなボッズー!!」
ボッズーは言おうとした、"ゾワゾワの記憶"で知っていた情報を……が、
「それなら僕が教えてあげる!!」
ボッズーが言う前に誰かが喋った。
それは勇気でも、愛でもない誰か。
「誰だ……」
「え?!」
勇気と愛は声がした方向を見た。すると、そこには"男の子"が居た。




