第3話 空が割れた日 11 ―のるかそるか―
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加速の余力も無くなって、ボッズーの羽ばたきの力だけで空に浮かぶガキセイギ、彼は足元を見て呟く。
「さぁ……のるかそるか」
太陽との距離は近い。ギラギラと強い日差しに照らされて、真夏かと思える程に暑い。
「アイツ等を大分置いてけぼりに出来たな。ボッズーのお陰だ。アイツ等の大きさが小指の先っちょくらいに見えるぜ」
「かなり飛んだからなボッズー。輝ヶ丘もあんなに小っちゃく見えるボズ」
「あぁ、LEGOみたいだな」
「いや、もっと小っちゃいボズよ……ってそんな例えなんていらないボズ。それより『のるかそるか』ってなんだボズ? さっき『逆転の切っ掛けを掴んだ』って言ってたじゃないかボッズー……って、お前まさか、こんな土壇場になってまた賭けに出るつもりじゃないよなボッズー? バグるは当たった、でもそんな何度も――」
「いや、出るぜ……」
「え?!」
あっけらかんと答えたセイギにボッズーは驚いた。
「おいおい、なんだよそれ! 賭けに出るなんてそんなの聞いてな――」
「だって、ボッズーが言っただろ。『自分自身を過信するな』って。切っ掛けは掴んださ、でも、こっからは俺の腕次第なんだ。掴んだ切っ掛けを生かすも殺すも、俺次第……緊張で胸がドキドキしてるよ。この世に絶対に決まった未来は無いからな。だから賭けだ。俺は自分自身に賭ける。んで、絶対にするんだ。決まってない未来を、俺が絶対にする。勝利を掴み取ってやるんだ」
セイギは大剣を構えた。
「自分自身に賭ける……ボズか?」
セイギの口調は静かだ。けれど、ボッズーには弱々しい声には聞こえず、否、その反対に雄々しく、力強い声に聞こえた。
この力強い宣言はボッズーの慌てた心に染み渡る。
この時、ボッズーは思った。
『やっぱりセイギを信じていて良かった』……と。
「なるほど……先走って悪かったボズ! そういう事ボズね。分かったボズよ。だったら俺もお前に賭けるボズ!! ……でも『賭け』って言葉よりもそれは『自分自身を信じる』って言葉の方が正しいんじゃないのかボズ?」
「ん? へへっ……そっか。まぁそうかもな! んじゃ、俺は俺を信じる!! 頑張んぜぇ、俺!!」
セイギは仮面の奥でニカッと笑った。
しかし、浮かべた笑顔はすぐに仕舞い、セイギは自分自身を落ち着けようと「ふぅ」と息を吐いた。胸の鼓動は高まっている。この後に取る行動は自分自身を生と死の狭間に立たせるからだ。失敗すれば死、成功すれば勝利。
だが、セイギは怯えない。彼の覚悟は決まっているからだ。例え、自分自身を生死の狭間に立たせる事になっても、己が"最善"と思える選択をセイギは取る。世界を守る為、その一心で。
「さて!!」
セイギは息を吐き終えると、ボッズーにお願いをした。
「ボッズー、ちょっと頼みがあるんだけどさ。今から俺の体を、上手い事アイツ等に向けてくれないかな」
それは、逆転に向けての準備だ。
「俺はアイツ等と真っ正面から討ち合いたい。だから、この格好じゃちょっとやり辛いんだ」
「ん? セイギの体をシードルに向ける……ボズか? あぁ、なるほど! お安いご用さ、俺に任せろボッズー!」
ボッズーはセイギのお願いに一瞬頭を捻るが、頼られた意味をすぐに理解した。
現在、セイギがシードルと対峙するには足元を見下ろさなければならないが、『任せろ!』と応じたボッズーはセイギを掴んだ手に力を入れた。ボッズーは前方に体重をかける。
「おおっと! そうそう、それそれ!」
すると、セイギの体が前のめりになり、上半身だけは真下から迫るシードルと"真っ正面"になれた。
この格好ではまだ戦い辛いとボッズーは分かる。ボッズーは更にセイギの背中から足を一度離し、少し下に伸ばしてセイギの腰を掴んだ。それから、今度は倒すのではなくセイギの腰を持ち上げる。腰が上がり、セイギの体は水平になる――これでセイギの全身が、下方から迫るシードルと"真っ正面"になれた。
「これでどうだボズ?」
「うん! へへっ、ばっちりだぜ! ボッズー、流石だぜ!!」
セイギは再びニカッと笑った。と、同時に大剣を握り直す。準備は万端だ。
続けて、真正面からシードルの群れを睨み、セイギは声を張り上げる――
「おい、のんびり飛んでんじゃねぇよバカヤローッ!! 俺は止まってるんだぞ、サッサと撃ってこいって!! それとも俺が怖いのか? そうだよな、命令された通りにしか動けない能無しだもんな!!おい、悔しかったら俺に向かってドデカイヤツを撃ってこ~~いッ!!!」
セイギの口から飛び出したのは、シードルに向かっての挑発であった。
これにボッズーは驚くも、最前までとは違って慌てはしない。セイギがふざけていないと理解しているからだ。
「撃ってこい……なるほどボズ。"アレ"をやるつもりなんだボズね?」
「あぁ、そうだ! その為にアイツらの弾丸が必要なんだ……って、おっと始まったぜ!」
セイギの挑発を受けたシードルの群れが一斉に震え始めた。
「さぁ、ほら、撃ってこい!!!」
セイギの再びの挑発。
応じる様にシードルの震えは増していく。
「来いッ……来いッ……」
現在、セイギに銃口を向けられているシードルは全体の半数程度、それ以外のシードルはバグってしまった酔っ払いだ。セイギに向けているつもりで他に銃口を向けている。
「さぁ来い……さぁ来い……さぁ、さぁッ!!」
シードルの震えと共にセイギの心拍数も上がっていく。
「来るか……来るかぁ!!」
セイギの手にはじんわりと汗が滲んだ。
そして、遂に――
ドォーーーン!!
シードルが攻撃を発射した。
「ヨシッ!! 来たぜぇ!!」
「来たボズぅ!!」
セイギに向かって飛んできた球体は、やはりセイギに銃口を向けられていたシードルが発射したものだけだった。その他の球体は散りゆく花弁の様に不規則に飛んでいく。
しかし、照準乱れて放たれた球体が仲間に当たる事はなく、セイギかシードルのどちらに神が手を差し伸べるのかは分からない……が、セイギは神にはすがらない。現在のセイギが信じているものは自分の力だけだ。
「ボッズー、しっかり支えててくれよ! 頼むな!!」
「あぁ、分かってるぜボッズー! 任せろ!!」
球体は高速で飛んでくる、小指の先ほどの大きさに見えていた攻撃があっという間に眼前に迫る。
「はぁぁぁ!!!」
セイギは大剣を振り上げた。
ギラギラとした太陽が背中を照らす中、高熱を発する球体が正面から迫り、頭が眩む程の暑さと熱さがセイギを襲う。まるで灼熱地獄に落とされた様だが、セイギは屈しない。迫る球体を真っ正面から迎え討つ。
「ドリャァ!!!」




