第3話 空が割れた日 9 ―多勢に無勢なのか?―
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「そりゃ来るよな、六年前に知った未来だと光体、いやシードルは無数にいた」
「こりゃ、ザッと見て百体はいるぞボズ……」
ボッズーの目測に間違いはないだろう。でも――
「でも!! 相手にとって不足はねぇッ!!」
敵の数が増えようがガキセイギは吠えた。
仮面の奥の瞳に《正義の心》が煌々と燃え続けている限り、彼の中に『怯え』の二文字は浮かばないからだ。
「相手が何体いようが関係ねぇぜ! やる事は同じだ、アイツ等をぶっ倒す! それだけだッ!!」
敵の数が圧倒的に増えても、ガキセイギは弱音を吐きはしない。
「そうだなボズ!! やるっきゃないボッズー!!」
怯えないはボッズーも同じくだ。たとえ敵の数が莫大でも、勝利を目指して進むのみ。
「行くぜぇーーーッ!!!」
「行くぞボッズーーー!!!」
燃える闘志を胸に抱き、セイギとボッズーは敵の群れに向かって飛んだ。
―――――
……がしかし、新たに現れたシードルは先に現れたシードルとは違って、真っ正面から戦おうとはしてくれなかった。
「あ……おい! 逃げんなって!!」
セイギ達が近付いていくと、シードルの群れは砂鉄に同極の磁石を近付けた様にセイギ達から距離を取ったのだ。
だが、シードルの群れはセイギ達から逃げた訳ではなかった。セイギ達から距離を取ったシードルの群れは左右に散って円を作り、セイギ達を"籠の中の鳥"に閉じ込めたからだ。
「うわっ……クッソ!! 囲まれた!!」
「むむぅ……卑怯だぞボッズー!!」
罠だったのだろう。更に準備も万全であった。左右に散った時点でシードルの群れは攻撃の準備を始めていた。
そして、セイギを籠の中に閉じ込めると、群れは攻撃を開始した。
「うわっ!!」
「あっぶねボッズぅぅ!!」
最初に攻撃を仕掛けてきたシードルは三体。
ボッズーは急いで翼の形をスピード重視の《ビュビューンモード》から、本来の姿である二本の翼に変形させた――回避に適しているのは空を優雅に羽ばたける二本の翼の方だからだ――ボッズーは放たれた球体を上昇して避ける。けれど、シードルの群れは多い。百体はいる。続々と攻撃が放たれる。
ドドドドドドドドド………ッ!!!
百体は一斉にではなく、数体ずつ攻撃を仕掛けてきた。セイギとボッズーは避けて、避けて、避け続けた。が、避けても、避けても、自分自身の攻撃のタイミングは見付けられなかった。
何故ならば、シードルの群れには隙がないからだ。
シードルは球体を発射すると直後に僅かな隙を生むが、百体もいれば個々のシードルに隙が生まれても、他の個体が隙を埋めてしまうから――例えば、ここにA、B、Cのシードルがいるとする。最初に現れた四体のシードルとの戦いでは、Aが攻撃をする、セイギが攻撃を避ける、ここで生まれた隙にセイギが大剣を振るう……と出来ていた。だが、今回の戦いでは、Aが攻撃をする、セイギが避ける、Bが攻撃する、セイギが避ける、Cが攻撃する、セイギが避ける、ここでAの新たな攻撃準備が整い、攻撃をする、セイギが避ける、Bの攻撃準備が整い、セイギが避ける、Cの攻撃準備が……と、連鎖が続いていたのだ。
「うわっ……クソォッ!」
「やべぇボズぅッ!!」
「ボッズー、右だぁ!!!」
「今度は左ボッズーッ!!!!」
セイギとボッズーは縦横無尽に空を飛び回り攻撃を避け続けてはいくが、反撃には出れない。
避けるだけの時間が数分と続いた。
「もぉぉーーー! これじゃキリがないボッズー!!」
籠の中の鳥から脱せられずボッズーは叫んだ。
勇猛果敢にシードルの群れに立ち向かいに行っても、やはり百対二では多勢に無勢だったのだろうか。
更にシードルの群れはセイギ達が上昇すれば上昇し、下降すれば下降、前に進めば前方のシードルは後進、後方は前進……と、一定の距離を保ち続けた。
隙も生まれなければ、近付けもしなかったのだ。
「……」
攻撃が出来なければ敵の数も減らせられない、籠のバランスすら崩せない、セイギは唇を噛んだ。
ー ボッズーの羽ばたきにもキレが無くなってきてる……このままじゃ近い内に攻撃をくらっちまうな。逆転のチャンスを作らないと、でもどうすれば……どうすれば良いんだ!!
セイギは考えた……考えて、考えた。考えに考えて、セイギは思い付く。
「ボッズー、まだまだ飛べるか?」
セイギはボッズーに問い掛けた。
「あぁ、勿論だボッズー!! そっちだって大丈夫か、集中を切らすなよ!! ほら、クルンっしろボッズー!!」
「クルン? ……あぁ、なるほど! ドリャッ!!」
ボッズーの合図でセイギはバク宙の様に体を回転させて上昇した。
後方から球体が飛んできたからだ――球体を避けながら、セイギは質問を続ける。
「ボッズー、もう一個聞きたい。英雄のスーツって宇宙とか行けんのか?」
「ふぇ? 宇宙? そんなの無理に決まってんだろ! 息が止まって死んじゃうボズよ!」
「そっか、やっぱ無理か ………うわッ!!」
上昇したところで罠が仕掛けられていた。
シードルはセイギがどんな方法で球体を避けるのかを予測していたのだろう、上昇したところにもう一発が飛んできた。
「あっぶねぇ! 当たるとこだったぁ!」
咄嗟に体を翻し、出会い頭の球体は避けられた。が、ボッズーの口からは弱音が出る。
「くぅ~~ムカつくぅ!! 埒が明かない、避けても、避けても続くボズ!! どうしたら良いんだボズぅ!!」
「そうだな、どうするか……宇宙が無理なら、じゃあ他に何があるかなぁ」
「もう、何言ってんだボズ!! 現実逃避すんな!! 集中しろって言ってるだろボッズー!!」
「いや、現実逃避じゃないって……あ、ボッズー潜ろう!!」
「ぺゅぅ!! じゃあ、何なんだよボッズー!!」
二人は再び空を潜って、飛んできた球体を避けた。
「いや、アイツらしつこくついてくるからさ、宇宙に連れてって呼吸を止められれば一網打尽に出来るかなぁって考えたんだよ、でも宇宙は無理か……あ、海って手もあるな! あっ、でもアイツらが呼吸してるかは分かんねぇもんなぁ~、やっぱ他の方法を考えた方が良いかぁ」
「んな事言ってる場合か! またアイツら追っ掛けてきてるよボッズー! あんにゃろめぇ~~」
鼻息荒くボッズーは吠えた。
二人は球体を潜って避けたが、シードルが下降して追い掛けてきたのだ。
「む~ん……あのさ、ちょっと気になるんだけど。アイツら自分で考えて行動してるのかなぁ?」
「え?! なんだボズぅ?」
「いや、アイツら俺達とずっと一定の距離を保ってるだろ? しかも距離だけじゃなくて高度もさぁ。俺達が上がったら上がって、下がったら下がって……って、なんか自分の意思ってより、そう設定されたからそう動いてるって感じしないか?」
「うぇ?」
「なんつーの? ほら、えっとーーー! ほら、アレだよ、アレ! アレみたい!」
「どれだボズぅ!!」
一ミリのズレも無かった二人の考えもシードルの止まぬ攻撃でズレてしまったのか。
ボッズーは『この男はさっきから何をブツブツ言っているのか……』と苛つき始めていた。
セイギの言葉の意味が分からなかったのだ。
「いやいや、まぁ良いや! 兎に角、アイツらは生物じゃねぇ! アレだ、ロボットだ……って思う! って事で、ボッズーもう一度だ! もう一度、ビュビューンモードに変形しろ!!」
シードルの実態は考えるだけでは掴めない。セイギは動き出すと決めて、ボッズーに指示を出した。
「ビュビューンモードのスピードで上昇すんだ! 宇宙に向かってぶッ飛べッ!!」
「だ・か・ら、宇宙は無理だって!」
「違う、違う、そうするつもりで上昇しろって事! ヨシッ、行くぞ!!」
「もう! 意味が分からないボッズー!!」
ボッズーはセイギが何を考えているのか分からなかった。分かりはしないが、優雅に羽ばたけて回避に適した二本の翼を、セイギの指示通りに《ビュビューンモード》に変形させた。
"上の翼"で風を吸収し、"下の翼"からジェット噴射が如く噴出させる。
《ビュビューンモード》はスピード重視、二人は風を切って上昇していく。




