第3話 閉じ込められた獲物たち 8 ―踊れ……踊れ……―
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『キツネのお面』が消えてからの輝ヶ丘は混乱を極めた。
駅前で赤い石を探す人々は年齢も性別もバラバラで、友人知人の集団ではなかった。彼ら彼女らの殆どは個人が個人の意思で動き出し、結果的に"集団"になっただけの人々である。
駅前に集まった理由も各々にあって、石を探す内に駅前に行き着いた者もいれば、『駅前で赤い石を探している人が大勢いる』と聞き付けてやって来た人もいた。たまたま駅前を通りかかった事で捜索に参加した人だっている。
だが、始まりは個々であっても、集団になってしまえば、自ずと指揮者が現れる。
今日の人物は、三十代半ばくらいの男で、彼は面識のない人々の中にいても、持ち前のリーダーシップを発揮できる男だった。
『キツネのお面』が現れる迄は、「頑張りましょう!皆で平和を取り戻すんです!」と皆に声を掛け、鈍臭いと言われてしまいそうな老人や子供が参加してきても、優しい口調でアドバイスをしていた。
しかし、『キツネのお面』が現れると、彼の様子は一変する。皆に向かって『あっちを探せ!』『お前はこっちだ!』と荒い口調で指示を出し、少しでも鈍い動きをする人物がいれば、罵声を浴びせていく。
彼の人格が『キツネのお面』が現れた事で変わってしまったというのではない。元々の性格が荒れたものだったという訳でもない。どちらかとすれば、本来の彼の性格は優しい口調で話していた時の方が近い。ならば何故、彼の様子は一変したのか。それは人間であれば理解が出来る筈だ。彼は焦っているのだ。そして、怒っているのだ。三億個もの石を見付け出さなければならない状況を苦難と捉えて焦り、苦難を強いてきた相手に対して怒っているのだ。
彼に対して『八つ当たりをするな』と言える人物は此処には居ない。皆がそうだったからだ。
駅前に集団が出来たのは二時間前。その二時間で見付けられた赤い石の数は二百個を少し超える程。
捜索を開始してから、石は続々と見付かり、誰もが石の捜索は順調と思っていた。だが、実際は三億に対しての二百でしかなかった。
総数から考えると、僅かな数であり、石を見付ける度に覚えた喜びも、謂わば"ぬか喜び"でしかなかった。
捜索に参加していた人々は皆、怒鳴り、または嘆き、自らの感情を露わにしていく。
更に、『キツネのお面』が現れるまでは、捜索する人々を傍観していた人も、捜索を開始していった。感情を露わにして、怒鳴って、嘆いて……。
怒鳴るだけ、嘆くだけであったならば、まだ良かった。人々の行動には暴力も加わっていってしまう。
それは雑居ビルの一階にあったコンビニの店舗内からも、赤い石が見付かってしまったからだった。
『キツネのお面』が現れるまでは、店舗や家屋に押し入ってまでも捜索をしようとする人はいなかった。しかし、感情を露わにする時、人間は常識を失くす。強盗かの様にコンビニに押し入り、捜索を開始した人がいた。
陳列されていた商品は床に散らばり、タバコの新フレーバーを宣伝する為の紙製の什器は紙屑にされてしまった。この暴挙を店員が制止するが止まらずで、店内は嵐に見舞われた後の様に滅茶苦茶にされてしまった。
最終的に、赤い石は発見された場所はバックヤードの中だった。幾つかの段ボールが置かれた場所で、段ボールの隙間に落ちていた。
コンビニに押し入った者は捜索している人々の全員ではない。十人にも満たない少数だった……だったが、石が見付かってしまえば、捜索する人々にとっては"正解"に思えてしまった。それまで店舗や家屋までは探そうとしていなかった人達も続々と続いていってしまったのだ。
コンビニの次はファストフード店、次は美容室、その次はパチンコ屋、その次は薬局、リサイクルショップ……と、人々の捜索は過激化していってしまった。
そして、人間は個性はあっても結局は似た者同士だ。駅前以外でも、過激な行動をとる人々が現れていった。決して全ての人ではない。ではないが、現れていってしまった。




