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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第3話 閉じ込められた獲物たち 5 ―浸透―

 5


 英雄たちの秘密基地で一人ぼっちをくってしまった愛は、正義たちを探そうと山下商店に向かい、それから駅前に出て来ていた。

 駅前を行き交う人混みの中で、彼女は一人で怒っている。

 怒りを向けている相手はいつまでも出会えない正義達にではない、真田萌音に向かってであった。


「忘れてたって……ちょっと酷くないですか?」


「ごめん、ごめん、うっかりしてて」


「うっかりって……私、起きたら連絡下さいってちゃんと送ってましたよね?!」


「うん、送ってたよ。だからごめんね。許してよ」


「もう!!」


 愛は睨んでいる。駅ビルの壁面に設置された大型の街頭ビジョンを。

 街頭ビジョンに映っているコマーシャルには、男女のモデルが楽しそうにデートをしていた。女性の方は長い髪で少し面長、萌音に似てると謂える人物だ。右手に持ったスマホから聞こえる声が、愛にモデルを睨ませているのだ。


「私、先輩の事が心配で心配で……だから話がしたいって送ったのに、それなのに無視しないでよ!」


 萌音の身を案じているから、愛は怒鳴ってしまった。


 愛の心配は、萌音の記事が世間に浸透すればするほどに生まれてくるものだ。

 駅前の人混みの多くは赤い石を探している。否、秘密基地から駅前に来るまでに見た人の多くがそうだった。

 それは"浸透"を象徴する行動だった。道端に座り、側溝までも覗き込む人や、木を揺らし、または上り、葉の中までもを探す人や――数日前までならば"異常"と言われていただろう行動を大勢の人が取っていた。


 この行動は、皆が皆、平和を目指しているからだと愛は理解している。

 愛は怪文書への抗議文に『今は世界中の皆で手と手を取り合い、助け合い生きていく、そう変わっていくべき時ではありませんか?』と書いた。寒空の中で汗を流して、必死に石を探す人達の姿は、正に手と手を取り合い生きている姿であろう。


 しかし、皆の行動は、萌音の記事が無ければ起きなかった。萌音が伝えなければ、誰も赤い石を危険なものとは思わなかっただろうし、探し出そうとは思わなかっただろう。ならば《王に選ばれし民》からすれば、想定外の事態が起きている事になる。

 探し出されてはならない赤い石が見付けられてしまっているのだから。


 この事態を《王に選ばれし民》が黙って見ているとは、愛には思えなかった。

 赤い石を探す人達を見ては、『報復』という言葉が愛の脳裏には過ってしまう。

 自分が発信した主張に矛盾するとは思いながらも、萌音だけを想うと、赤い石の捜索を止めてほしいとも思ってしまっていた。


 だが、対する萌音は愛の心配を簡単に切り捨ててしまう。


「もう……心配って、桃ちゃんは本当に心配症だなぁ。その気持ちはありがたいよ。でも、昨日の内から蛭間さんと約束してたんだもん」


「だったら、私がメールした時にそう言って下さい。蛭間さんって先輩記者の人ですよね? また記事を書くつもりなんですか?」


「いや、記事に関しての話がしたくて蛭間さんと会ってた訳じゃないよ。大学に入ってからの話がしたくて。一応あの人、新人係だから。私のアドバイザー的な役割の人だから、色々打合せしないといけないから」


「じゃあ、もう終わったんですよね? 今は何処に居るんですか? 会いたいです、私も先輩の記事に関してアドバイスがあるんで、聞いて下さい!」


「桃ちゃんが私の記事にアドバイス? 何だろ、気になるなぁ……あっ、て事は記事を読んでくれたんだね? どうだった?」


 スマホから聞こえる萌音の声は嬉しそうだった。萌音は自分の記事が読まれる事を心底嬉しいと感じる人間なのだろう。しかし、この嬉々とした声で、愛の怒りは更に増した。


「感想は会ってからにさせてください、私は何処に居るのかって聞いてるんです」


「何処って、そっちは何処にいるの? 私は駅前に居るよ、さっきまで蛭間さんと駅前のファミレスに居たから」 


「えっ! 駅前……そうなんですか?」


 駅前ならば愛もそうだ。愛は辺りをキョロキョロと見回す。

 赤い石を探す人達が多過ぎて、見付けられないが。


「うん、桃ちゃんも来てみなよ! 石を探してくれている人達がいっぱいいるから!」


「そうなんですか、実は私も――」


「 私も捜索に加わろうかなぁ!」


 愛は『私も近くに居るんです』と伝えようとした。が、その瞬間……暗闇が辺りを包んだ。


 ―――――


「うわっ!!」


「なんだ!!」


 電車が大きく揺れ、隣り合わせに座っていた正義と勇気の肩がぶつかった。


「な、なんだ、めっちゃ揺れたぞ……」


 正義の左側は空席だった。正義は横倒しに倒れた。その時だ、「ただいま強い揺れを感知しました。緊急停止信号を受信した為、停車致します」と簡素なアナウンスが聞こえた。


 電車は止まり、正義は起き上がった。胸に抱いたリュックがゴソゴソと動く。


「正義、揺れだけじゃないぞボズ、聞こえなかったか……今の音が?」


「音……?」


「そうだボズ、外を見てくれないかボッズー」


 人前でのボッズーは、人形のフリをするか、リュックの中に隠れている。今日は秘密基地を出てからリュックの中で大人しくしていたが、自力でリュックの口を開き、話し掛けてきた。

 ボッズーに命じられた正義は窓の外を見ようと体を捻るが、視線を窓へと向けるその前に「あっ……!」と吐息が聞こえた。


「正義、見ろ!」


 正義よりも先に、隣にいた勇気が電車の外を見ていた。

 勇気は電車の進行方向とは逆を指差している、輝ヶ丘がある方向だ。


「おいおい……どうなってんだよ、アレ!!」


 正義も勇気が指差す方向を見た。


「何があった、何なんだボズ?! さっき爆発音みたいな音が聞こえたけど――」


 ボッズーは人間よりも聴力が鋭い。正義にも勇気にも聞こえなかった音が聞こえたのだろう。

 だが、正義と勇気の目に映るモノは爆発を連想させるモノではなかった。輝ヶ丘の方向にあったモノは、白く巨大なモノだった。まるでドームの様な白いモノだ。


 ―――――


 ― 夜が来た……


 愛はそう思った。


 まだ昼間、夜には早過ぎる。だが、爆発音が聞こえたと同時に空が黒く染まった――爆発音と空が黒く染まった原因は別と愛は知っている。彼女は駅の改札口から噴出される黒煙と駅の構内に見える真っ赤な炎を目にしているからだ。駅の中で爆発が発生したのは明らかだった。愛は思った、《王に選ばれし民》の破壊行為が始まったと。


 ― でも……何で"夜"に?


 しかし、瞬きの一瞬で時間を飛び越えてしまったのではないかと錯覚してしまいそうになる現象の所為は分からなかった。


 愛は空を見上げた。


 ガ……ガガ……


 すると、ノイズの様な音が聞こえた。

 それは、愛を見下ろす駅の街頭ビジョンから聞こえた音だった。


 ―――――


「正義、アレは……手だ。巨大な手が輝ヶ丘を包んでいる」


「何だとボズ!!」


 ボッズーはリュックの中から顔を出した。勇気の発言を聞いて、隠れている場合ではなくなったと思った。

 現在の電車内では、タマゴの様な、鳥の様な奇妙な生物が動いても誰も気が付かなかった。乗客の皆が輝ヶ丘に起こった異変に驚き、窓の外を見ているからだ。


「そうだな勇気、アレは芸術家が作る"手"だ。筆で作るヤツ……」

 

 正義はボソリと呟くと、赤いダウンジャケットの袖の中に隠していた腕時計を露出させる。


 正義の目に映る白いドームの様なモノは、勇気の発言通りのモノだった。

 このモノを、正義が目にするのは三度目だ。一度目は空が割れた日に芸術家に襲われた時、二度目は輝ヶ丘の駅前公園でストーカー男に出会った時、そして三度目が今だ。


「芸術家のヤツが出やがったのか――」


 三度目であるが、これまでの"手"とは違う箇所があった。それは大きさだ。今度の"手"は巨大である。丸まっていると輝ヶ丘を包み込めてしまっている程に。


「アレに殴られたら一溜りもないボズよ……」


「そんなの想像したくもねぇよ」


 ボッズーの発言に頷きながら、正義は窓から離れた。


「そうだな……」


 勇気もそうだ。立ち上がり、窓から離れる。


 他の乗客達は皆、輝ヶ丘方面を覗ける場所に集まっていた。反対側の座席の方には誰も居ない。だから出来た。正義と勇気は腕時計の文字盤を叩いた。

 叩かれた文字盤からは目映い光が放たれて、窓から離れていった二人を気にもしなかった乗客達も驚いた顔をして振り向くが、光の出所が正義と勇気の腕時計とは誰も気が付かなかった。光が放たれた後に赤と青のタマゴが出現し、少年二人を包み込んだ事にもだ。

 何故ならば、皆が振り向いた時には居たからだ。赤と青の英雄が、そこに立っていたからだ。

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