第3話 閉じ込められた獲物たち 3 ―仲間に会いに行かなければ―
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― 嘘でしょ……うちにも?
赤い石を見せられると、愛は固まった。
体も、表情も。目だけがキョトキョトと動く。父の手に有る物が確かにそうなのか確かめたくとも、本能が避けるのだろうか、正面から見ようとしても視線を反らしてしまう。
「愛、大丈夫?」
電話口から瑠璃の声がすると、ハッと目が覚めた様に脳が動いた。
「ごめん、瑠璃。やっぱり私行けない、他に行かなきゃいけない場所が出来た……」
「えっ……」
緊縛からも解放されると、愛は告げた。
「でも、赤い石は探す。本当に。嘘じゃない。だから――」
瑠璃がガッカリするだろうと分かりながらも、二度目の「ごめん」を口にすると、愛は電話を切った。
言葉に嘘はない。愛には『行かなければいけない場所』が出来たのだ。
そして、瑠璃との電話を切ると愛は父に向かって言った。
「お父さん……ソレ、頂戴!」
「え……?」
驚く父の隙をついて、愛は手のひらの上から赤い石を取った。
「お……おい、ソレは危険な物なんだぞ。愛も知ってるだろ?」
「知ってるよ、だから私に頂戴。それより、お父さんもこの石の事を知ってるんだ。お父さんも真田先輩の記事を読んだの?」
愛が聞くと父は首を振った。父はニュースで知ったらしい。
「テレビのニュースでもやってるぞ、その石が町内で続々と見付かってるって」
「続々と……そんなに?」
「あぁ、かなりの数らしいが。でも、まさか家にもあるとは思わなかった。玄関からすぐの所に落ちててな」
父の返答に「そうなんだ……」と返しながら愛は考えた。『何故急に赤い石が見付かりだしたのだろう?』と。『昨日まではそんな騒ぎになってなかったのに……』と。
― 先輩の記事がスイッチになって皆のセンサーが敏感になったから? それとも昨日から今日にかけてばら蒔かれたの?
そんな事を考えながらベッドからおりると、対面にあるクローゼットに向かって歩いていく。
「おい、まさか出掛けるつもりか? 何処に行くつもりだ」
「う~ん……どうしよ、警察かな? この石を届けるよ」
愛はパーカーを手に取った。今日は寒さをしのげる服なら何でも良い。
「それなら、お父さんが連絡するよ。今は家から出ない方が良い、外出するのは危険だ」
……と、父は言うが、愛は聞く耳を持たなかった。愛には行かなければならない場所があるからだ。そこは警察署ではない。本当の場所は英雄たちの秘密基地だ。愛は赤い石を正義達に見せなければと考えた。町で起こっている現象も話さなければと。
だから愛は「良いから。大丈夫だから。私に任せて!」と父に反抗した。
「いや、でもな!」
「いいから、いいから!」
愛は手に取ったパーカーを肩にかけると、父の腕を取った。強く引いて、父を部屋の外へと引っ張っていく。
愛の力は強い。正義達がデカギライと決着をつけた日に勇気のボストンバッグを引き千切ってしまった程に。
「お……おい! ちょっ、待てっ!」
バタンッ……!!
父を部屋から追い出すと、愛はすぐに戻り、扉を閉めた。鍵も閉め、服を着替える。
服を着替え終わっても父は部屋の前にいた。扉を叩いて「外出は許さないぞ!」と言っていた。が、愛は聞かない。
出掛ける準備を整えると、今度は勢い良く扉を開いた。愛の自室の扉は外開きだ。扉の前にいた父は扉と壁とに挟まれてしまう。愛の力は強いのだ。
うずくまった父を可哀想と思いながらも、愛は急いだ。次の父の日には、感謝の言葉も、感謝の品もいっぱい送ろうと思いながらも、愛は急いだ。
玄関の扉を開くと、なにやら隣の家が騒がしかった。どうやら隣の家からも赤い石が見付かったらしい。一家四人が全員とも外に出ていて不安そうな顔をしている。
その四人を慰めている人がいた。
愛の母だ。
愛の家は建て売りだ。隣の家との距離は近く、お隣さんとも仲良くやっている。お節介の気がある母は特にである。
カレーはいつも多く作って分けに行くし、両親が忙しそうだと幼い娘二人を預かったりもする。
「お隣さんからも……」
愛は唇を噛み、眉間に皺を寄せた。
険しい顔で拳を握ると、秘密基地に向かって走り出す。秘密基地には正義が居て、力になってもらえると思っていた。しかし、
「あれ……いない」
秘密基地に到着すると、そこはもぬけの殻だった。
「どっか行っちゃったの?」
愛は秘密基地内を探して回ったが、やはり誰もいなかった。
愛と正義はすれ違ってしまったのだ。
彼女が到着する前に、正義は出発してしまっていた。ストーカー男の居場所を探る為に……。
―――――
「あったぞ!!」
輝ヶ丘の駅前を歩く正義は、背後から聞こえた男の声に驚いて、後ろを振り返った。
「また見付かったのか」
「昨日あんなに探して見付からなかったのになボズ」
正義が背負うリュックの中にはボッズーが居た。ボッズーはリュックの"口"からチラリと顔を出して辺りを見回している。
「俺達は探す場所を間違えちまったのかもな、燃えた後の所しか探さなかったから」
正義はミスターバーガーで買ったハンバーガーを一口頬張り、『赤い石があったぞ!』と口にした男を見詰めた。
「う~ん……そういう事なのかねぇボズ」
「そういう事なんじゃねぇのか? 悔しいけどさ。さて、ボッズーはそろそろ隠れてくれ。目的地に着いたぜ!」
そう言うと正義は、リュックを肩から外した。腹のところに持ってくると「お前はこれでも食って待っててくれ」と食べかけのハンバーガーをボッズーに渡し、リュックの口を閉めた。
すると、背後から笑い声がする。
勇気のものだ。
「ボッズーはアイスだけじゃなくてハンバーガーも食べるのか」
「そうだぜボッズーは雑食だ、何でも食う!」
勇気が白い歯を見せると、二人は立ち止まった。ストーカー男が勤めていたという相川塾に二人は着いた。




