第3話 閉じ込められた獲物たち 2 ―ばら蒔かれた赤い石―
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愛はすぐにメールを送った。
送った文章は「先輩。今話できます?」「大丈夫なら五分後に電話します」、この二つだった。
しかし、萌音から返ってきた文章は簡素なもの。
「眠い」
「寝たい」
この二つだけ。そして、うさぎのキャラクターが『またね』と手を振っているスタンプが添えられていた。
「はぁ…… 眠いって、まぁ仕方ないか、さっきの記事がUPされてた時間って深夜三時くらいだったし」
萌音からの返事に肩を落としたが、愛はすぐに切り替えて『起きたら連絡下さい。待ってます。』と送った。
―――――
二時間経っても萌音からの連絡はなく、愛は暇を持て余していた。
そんな時だった。友人の瑠璃からの着信があったのは。
開口一番、瑠璃は言った。
「やっぱスゴいよ真田先輩は! 赤い石なんだって! 放火の犯人は!」
「うん。らしいね」
『犯人』とは少し違うが、愛はそこにはツッコまなかった。
輝ヶ丘高校の生徒には萌音の記事の読者は多い。特に萌音と関わりの深い生徒は全員読んでいると言っても過言ではない。勿論、瑠璃も読んでいる。だから愛は瑠璃が主語を使わずとも、萌音の記事を読んだのだと理解した。
続けて瑠璃は、愛がすぐに理解出来ない言葉を返してきた。
「なら、愛も一緒に行こうよ!」
「えっ、行く? なにそれ、何処に?」
「何処って言うか、とりあえず出てきて、駅前で待ち合わせしよう!」
「え……何で?」
電話を片手に首を傾げると、瑠璃は「探すんだよ!」と続けた。
「先輩が記事の中で言ってたじゃん! 一緒に戦いましょうって! 赤い石を探すんだよ! 果穂からはOKもらってるよ、勿論愛も来るよね?」
「え、ちょっと待って、勝手に決めないでよ」
「決めるよ、決める! 愛も何でも良いから検索してみなよ、町内で赤い石を発見したって人がいっぱい出てくるよ! つか、わたしの家にもあったんだから!」
「え?! 瑠璃の家に?」
「そうそう、ベランダにあったのをお母さんが見付けて――」
「本当……?」
予想していなかった瑠璃の発言に、愛の眉間には皺が寄った。
「本当だよ! ヤバいんだよ、マジで!」
「ヤバイよ……って」
赤い石が自宅に有ったのならば、瑠璃が言う通りにヤバい状況だ。だが、瑠璃の口調は明るく聞こえ、愛には『流行に乗っかれて嬉しい』と言っている様に聞こえた――そうではなかったと直後に分かったが。
「マジでヤバイんだって! 先輩の記事を読んでなくて何も知らなかったら、わたし死んでたかもしれない! それにね、わたしの家だけじゃなくて、他の家からも見付かってるみたい! 警察もいっぱい来てて、マンションじゃ、もう大騒ぎだよ! つか、愛もマジで調べてみなよ、マジで町内で見付かりまくってるんだから! ねぇ、一緒に探そうよ、このままにしてたら、みんな死んじゃうって……」
瑠璃の声は高く、どんな状況でも通るものだ。だが、『みんな死んじゃうって……』と口にした彼女の表情がどうであったかは、電話口でも理解できた。
いつもと変わらない瑠璃の早口を、嬉しがっていると勘違いしてしまった事を愛は後悔した。
「瑠璃……」
「お願い、一緒に探してよ。わたし、まだ死にたくないよ」
「う、うん――」
愛は『うん、分かった』と返そうとした。が、上手く言葉が出てこない。友達が被害にあっていたかもしれないという事実が、愛を震え上がらせていたからだ。
しかも、赤い石が生み出したと思われる真っ赤な炎を実際に目撃しているのだから、愛の震えは尚更激しかった。
「わ……分かっ」
やっと言葉が出てきそうになった。しかし、また止まる。
部屋の外からドタドタと階段を駆け上がる足音が聞こえてきたからだ。
音の重さから父のものであろうとすぐに分かった。そして、足音は部屋の前で止まった。
続けて部屋の扉が勢い良く開く――
「え……! ちょっとお父さん、勝手に入ってこないでよ!」
愛は言うが、父は聞かなかった。激しい足音のまま部屋に入ってくると、愛に向かって父は言った。
「愛……うちにも……有った……」
突っ掛かりながら告げた父の表情は、脂汗をかいた戦慄したもの。
父の手には有った、"ソレ"が、宝石の様な赤い石が。




