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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第2話 狐目の怪しい男 9 ―萌音と佳代の約束―

 9


 萌音が腕を組むと、佳代は「ダメだよそんな事……」と表情を曇らせた。


「え? なんで?」


「なんでじゃないよ。危険だからに決まっているでしょ。第一、萌音ちゃんは一度襲われているじゃないか、もっと危険な目にあったらどうするんだい……」


「だからだよ。危険な奴等がいるから、私は戦うの。私はそういう人間になりたいの。危険人物がいるからって、相手から逃げていたんじゃ、相手の思う壺になるだけでしょ?」


 萌音が「 私はそんなの嫌だよ」と続けると、佳代は「でも、相手は人間じゃないんだよ。危険だよ、頑固するよりも自分の命を大事にしないと……」と返した。だが、萌音は聞く耳を持たなかった。


「もう……カヨちゃんは心配性だなぁ、大丈夫だって」


「いいや、大丈夫じゃないよ。あのね、これはね、萌音ちゃんがもっと不安になると思って黙っていようと思っていた事だけど……私ね、今朝に見たんだよ。萌音ちゃんも知っているだろ? 私が朝の散歩に駅前公園まで行くの、その時に見たんだよ」


「見たって何を?」


「ストーカー男だよ。あの男がまた輝ヶ丘に戻ってきているんだよ……」


 佳代は、自分の身に危険が迫っている事を萌音に自覚してほしいと思い、この事を伝えた。しかし、萌音は首を傾げてしまう。


「ストーカー? それってアヤカに付きまとってた男のこと? そいつが戻ってきたからって、どうしたっていうの?」


「どうしたって……萌音ちゃんねぇ、あの男が最後に何て言ったのか覚えてないの?」


「そんなの勿論覚えてるよ」


 萌音はまた首を傾げて、「覚えてるけど、それがどうしたの?」と返した。


「カヨちゃん、あのね、私は《王に選ばれし民》と戦うって言ってるんだよ? ストーカーなんて全然関係なくない? それに、あの男がまた私の周りに現れても、私は相手にしないし、無視するのが一番だし!」


 萌音は強気な表情で「ストーカーなんでどうでも良いよ」と言うと、スマホを取り出してSNSを開いた。


「それにさ、アヤカだって彼氏出来たんだよ。見てよこれ、めっちゃイケメンだし、めっちゃ体育会系って感じしない? この人、絶対頼りになるよ。何かあってもアヤカは彼氏が守ってくれる筈だし、私は私で、端くれだけどジャーナリストとして、もしもまたストーカーに狙われてもペンで戦うから! カヨちゃんは何も心配しなくて大丈夫、私達はあの頃の私達とは違ってんの、心配しないでよ!」

 

 そう言って萌音は、右手の親指を立てた。そして、話題を変える様に大きな溜め息を吐く。


「つかさぁ、アヤカの奴ヒドくない?こっちが取材とかで忙しくしてる間に、段々付き合い悪くなってきてるなぁって思ってたら、いつの間にか彼氏作ってたんだよ! 私にも分けろよぉ~~って思うんだけど!」


 萌音は「悔しいぃ〜!」と言いながらも快活に笑うと、佳代が机の上に置いたもんじゃのタネが入った器を手に取った。


「私も大学に入ったら絶対に彼氏作ってやる! アヤカの彼氏よりも絶対にカッコいい人でさぁ……って怒ったら、お腹ペコペコ。あれ? あ、カヨちゃん。これ、鉄板熱くなってないよ、スイッチどこだっけ? あぁ、ここか――」


 萌音は机の側面に付いているスイッチに手を伸ばす――が、


「ダメだよ……」


 スイッチを捻ろうとする手を、佳代が止めた。


「え……なんで? それじゃもんじゃ食べれないじゃん」


「そうじゃないよ。さっきの話の続きだよ。私は、あのストーカー男はペンで戦えるような相手じゃないと思うけどね……」


「え? 何それ? なんで?」


「あの男が普通の人間じゃないからだよ」


「えっ、なにそれ? 普通の人間じゃない?」


「……」


「え? ちょっと、なんで黙っちゃうの?」


「どうしようかね……」


「……どうしようって何? 何か知ってるなら教えてよ、自分から言い出したんじゃん」


 佳代は唇を噛んでいた。話し出したものの、自分が知っている情報を与えれば、萌音を止めるどころか逆に乗り気にさせてしまうとも思えたからだ。


「取材の役に立つかもしれないしさ、情報は多い方が助かるんだ。ねぇ、何か知ってるなら教えてよ」


 萌音はまだ熱くなっていない机の上に乗り掛かり、佳代に向かって前のめりになった。


 この仕草に、佳代は自分の失敗を悟った。


「いや……やっぱり黙ってる事にするよ。萌音ちゃんには、その方が良いみたいだ」


「えぇ、何でよ? 言ってよ! 逆に怖いんだけど!」


「私は萌音ちゃんのやる気に火を点けたくないんだよ……ほら、どいて」


 佳代は萌音を押して机の上から下がらせると、鉄板を隠した蓋を退かして、火を入れる為のスイッチを捻った。


「この話はすれば、萌音ちゃんは更に危険に踏み込もうとする気がする……何も言わなきゃ良かったよ」


「えぇ……ちょっと待ってよ。ズルいじゃんそれ」


「狡くないよ。それよりもんじゃを食べなさい。そして事件に関わるのをやめなさい」


「やめないよ。カヨちゃんが何を言っても私の考えは変わらないよ。私だってプライドがあるし、私には私の生き方があるから」


「本当に頑固な子だね……」


「頑固だよ。頑固じゃないとやってられないよ」


「そうかい……じゃあどうしたら良いかね」


「カヨちゃんこそ頑固だよね」


 二人は睨み合った。最前までの仲の良い雰囲気が嘘の様に。


「私は、萌音ちゃんが危険な目にあってほしくないだけだよ」


「その気持ちは嬉しいけどさ」


「"けど"って何だい? 私は年長者としてあなたを止めたいのよ」


「もう……マジで頑固だなぁ、カヨちゃんは……」


 萌音はそう言うと、頭を振り、机の上に置いていたコーラに手を伸ばす。

 一口飲み、それから熱を冷ます様に額に瓶を当てる。


「もう、カヨちゃんとは喧嘩したくないんだけど」


 萌音は呟くと「それじゃあ……ううんと、そうだな」と考え始まる。


「分かった、分かったよ。もし、もしもだよ、本当に危険な目にあいそうになったら、その時はどんなに良い記事が書けそうでも、その時はやめるよ、約束する」


「本当かい?」


 佳代は聞きながらも、その声にはまだ怒りが残っている。

 対する萌音は大きな溜め息を吐き、「本当は嫌だけどね、でも約束する」と答えた。


「カヨちゃんと喧嘩するのは嫌だし、カヨちゃんの頑固さよりも、私の頑固さの方がちょっと柔らかいみたいだから。カヨちゃんの優しさを無下にする程、私はまだ大人じゃないみたいだし」


「何だいその言い方は」


 佳代の声からは怒りがまだ見える。だが、表情は少し和らいだ。「やれやれ、手の掛かる子だ」と呟きながらも「萌音ちゃんは約束を破る子じゃないのは知ってるからね、信じる事にするよ」と萌音の頭に手を伸ばし、軽く撫でた。


 撫でられた萌音の表情も和らぐ。安心したのか彼女は微笑んだ。


「ありがと、カヨちゃん……でもね、カヨちゃんには分かっててほしいな」


「何をだい?」


「私が大丈夫って思える理由は、カヨちゃんがいるからだって事を!」


「私? 私が何かしたかい?」


「したって言うか、するって言うかさ」


「何だいそれ?」


「あのね、もしも、私がピンチになったら、その時はカヨちゃんが助けてくれる。そんな気がするんだ。ほら、それこそストーカーに襲われそうになった時みたいに!」


「えぇ……何を言ってるんだい? あの時は私じゃなくて、萌音ちゃんが私を守ってくれたじゃない、私は何もしてないよ」


「何もって、したじゃん。ここに逃げ込んだ私を助けようとしてくれた。普通はあんな事しないよ。普通、逃げちゃうよ。だから、それだけで私の心は助かったの」


「そうなの? でも、次はそうはいかないよ。《王に選ばれし民》が相手じゃ、流石の私も尻尾巻いて逃げちゃうよ」


 そう言って佳代は朗らかに笑った。


「えぇ! 逃げないでよぉ~~! じゃあ、じゃあ、もしも、カヨちゃんに英雄みたいな力があったら?」


「そしたら勿論助けるさぁ」


「ほらぁ!」


「でも、無いだろ。無い話をしてもしょうがないよ」


「もしだよ! もし!」


「もしね、もしもがあったらね」


 佳代は萌音に対して子供をあやす様に答えた。

 萌音は既に十八歳であり、成人だ。春には大学生になる。しかし、佳代は幼い頃から萌音を知っている。佳代にとっては、彼女はまだまだ子供、幾つになっても可愛い存在に変わりはなかった。


「あぁ~~そうなってほしいなぁ~! そしたら、私も完全に安心して取材が出来るし!」


「もう……そういう事じゃないだろう? 元から危険に飛び込まないのが一番なんだから」


「はいはい、分かってますよ! でも、約束してね、"もしも"が本当になったら!」


「はいはい、分かりましたよ、約束します」


「うわぁ! カヨちゃん、サイコぉ~~!」


 萌音は子供の様な無邪気な笑顔を見せて、佳代に抱きついた。

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