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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第2話 狐目の怪しい男 5 ―先輩……私の言う事を聞いてよ―

 5


 正義が勇気の家を訪れたその日、愛と萌音も会っていた。「桃ちゃんに頼みがあるの」と萌音が呼び出したのだ。場所は駅前にあるファストフード店『ミスターバーガー』、約束の時間は午後一時だった。


 しかし、愛は約束の時間に少し遅れてしまう。

 理由は自宅から駅前へと向かう道中で、ある物を発見したからだった。


「え……コレは……」


 "ある物"を見付けた場所は、ピカリマートの目の前を真っ直ぐに走る並木道だった。

 並木道の木々の一本一本に、その"ある物"は貼り付けられていた。


「何なのコレッ!!!」


 愛は木々に貼られた一枚一枚を、鬼の様な形相で剥がして回った。並木道の木の数は多い、百m程続く道の左右に植えられているのだから、百本以上はあるだろう。

 全てを剥がし終えるまでに、二十分は掛かった。それから愛は、急いで待ち合わせ場所へと向かったが、ミスターバーガーに着いた時刻は午後一時十分だった。


「先輩、ごめんなさい! 遅れてしまいました!!」


 萌音からは『二階の窓際の席に座ってるから着いたら上がってきて』と約束の時間ちょうどにメールが来ていた。


「ううん、大丈夫だよ。何かあった?」


「あ、いえ、あの、何でもないです! ちょっと着替えに時間かかっちゃって!!」


「そっか!」


 愛が駆け寄ると、萌音は微笑みを見せてくれた。愛はホッとするが、同時に道中で見付けた"ある物"への怒りも再燃する。


 ― こんなに優しい先輩なのに、あんな物をばら蒔くなんて、絶対に先輩に知られたくない……だって可哀想過ぎるよ、こんなの!!


 愛が見付けた物は新たな怪文書だ。

 リュックの中に押し込んだ百枚以上の怪文書を、愛は心の目で睨んだ。


 ― こんな物を作った奴を私は絶対に許さない!絶対にギッタギタのボッコボコにしてやる!!!


 愛が見付けた怪文書は、正義が山下佳代に見せられた物と同じであった。内容は――



『輝ヶ丘の住民は俺の言葉が嘘ではなかったと、やっと理解した事だろう


 今回の標的は九死に一生を得た


 しかし、本来であればあの女は俺の炎に焼かれて悶え苦しみ地獄に堕ちる運命だった


 では、次は誰が餌食になりたい


 死の運命は誰に振り掛かっても可笑しくはないぞ』



 ― 何が地獄に堕ちるだ、何が悶え苦しむだ……馬鹿にしやがって、私の先輩を馬鹿にして!ううん、先輩だけじゃない、輝ヶ丘の皆の事も、平和に暮らしたいって願ってる皆を馬鹿にしてる……私、絶対に許さない……!!


 愛は背負ったリュックの肩紐をギュッと握った。

 しかし、そんな愛を不思議そうに見ているのが萌音だった。


「………??」


「………」


「……桃ちゃん、どうかした? 座らないの?」


「……え? あっ!」


 萌音に駆け寄ってから、愛はすぐに固まった。怪文書と怪文書を書いた者への怒りを燃やしていたからだ。

 しかし、対する萌音からすれば、何故愛が立ったままでいるのか謎であり、はじめはあった微笑みも、今はキョトンとした顔になってしまった。


「あっ……と、何でもないです! 何でもないです!」


 そんな萌音に気付いて、愛は焦った。


「えっと、あ……私も何か買ってこようかな! お腹ペコペコだ! だからかな、ボーッとしちゃった!」


 愛は早足に階段へと向かった。


 ―――――


「そっか、休校になるんだ」


「はい……週明けからみたいです。先生からは、これからは不要な外出は避けるようにって」


「そっか、残念だね」


「はい……休校を視野に入れての会議をしていると、一応先生からは聞いてはいたんですけど。こんな突然、本当になるなんて、もうすぐ先輩達の卒業式もあるのに」


「それは、仕方ないよ。先生達も皆の安全を考えての決断だろうし、仕方ないよ」


「そうですけど……卒業式くらいはやってもらえないですかね?」


「どうだろうね。その時の状況次第だろうね」


 萌音と会う前。午後十二時頃、輝ヶ丘高校から休校を知らせる電話が掛かってきていた。萌音からの連絡が来た、少し後の事だった。


「輝ヶ丘を出ていく人も、また増えてるらしいですし……何か良くない事ばっかで」


「そうだね、行く当てもないけど、このまま輝ヶ丘に居続けるよりかはマシって言ってる人もいるらしいし。でも、最近は輝ヶ丘に住んでるって言うと新居の審査を通さない所もあるらしくて、輝ヶ丘から離れたくても離れられない人もいるって」


「そうなんですか、それって差別じゃ――」


 愛も萌音も暗い表情になっている。暗い会話をしようと思っていなくても、最近の輝ヶ丘では明るい話題は無いに等しく、高校の休校の話から自然と続けてしまった話題も笑顔になれるものではなかった。


「《王に選ばれし民》の標的が、輝ヶ丘の住民だけだと思ってる人達も多いみたいですけど、そんな事ないんですよ。奴等は世界の破滅を望んでいるんですから」


「世界の破滅、そう言えばピエロが言ってたもんね。『人類を滅ぼす』……みたいな事を」


「そうです……今は輝ヶ丘に現れているだけで

《王に選ばれし民》の牙は世界中に向けられています。私のクラスメートにも自分達だけが狙われていると思ってる人もいるけど、実際は違う。だからこれからは、世界中のみんなで手を取り合って戦っていくべきなんです」


 明るい会話をしたいと思っていても、何も思い付かず、愛は続けるしかなかった。揚げたてのポテトも萎びてしまう。


「手を取り合ってか。桃ちゃん、この前の抗議文でも同じ事言ってたね。そうだよね、そうしないとね。そう言えばさ、私がお世話になってるサイトの先輩がね『王に選ばれし民をテロ組織と認定して政府主導で動くべきだ』って記事を書いてたよ。《王に選ばれし民》は人間ではないから既存の法律をそのまま則ったんじゃ適用出来ないだろうから、拡大解釈するか、新たに適用出来る法律を作るべきだって。そうすれば危険が迫っている場所には避難勧告が出せるし、自衛隊の出動だって要請出来るしって。こういう意見を出すのも、手を取り合って戦うって事になる?」


「あ……なります。力で戦うだけが戦いじゃないと思うし」


「そうだよね。政府がまごまごして動かないなら、私達が意見を出しても良いよね。もしかしたら、それが平和に向けて風穴を開ける事になるかもしれないし、まだ新米とは言え、私も記者の端くれ、色々仕掛けていこうって思ってるよ。見ててね、桃ちゃん、私の活躍!」


 萌音はハンバーガーを一口頬張り、唇に付いたソースをペロリと舐めた。


「先輩、元気が戻ってきてるみたいですね?」


「うん、いつまでも落ち込んでちゃいられないし。私はそんなに弱くないしね。あ、でも、昨日はごめんね。取り乱しちゃって」


「あぁ~~、やめてくださいよ! 顔を上げて下さい、先輩が謝る事じゃないんですから! バケモノのせいですから!! 全部はバケモノのせい!!」


 ……と愛は言うが、


「いや、バケモノもそうだけど、私も先輩として情けない所を見せちゃったなって思うし! ああいう時は先輩として、私の方が桃ちゃんを守らないとなのに」


「いや、そんな……それより、良かったですよね。昨日の、あのとき、ルキくんもソラくんもまだ学校から帰ってくる前で」


 答えながら愛は思っていた。『先輩の台詞は本来なら、私の台詞だ』と。『英雄として、私が先輩を守るべきだったのに……』と。


「そうなんだよ、お母さんもパートに出ている時間だったから、誰も巻き込まれずに済んで良かった。新しい家も父が見付けてくれたし。風見の方になるから、学校までは少し遠くなっちゃうけどね。前の家なら、自転車で五分。今度は十五分以上……ちょっと不便だけどさ、まぁ無いよりかマシだね! 桃ちゃんも遊びに来てよ、小さい家だけどさ!」


 愛は「あ、はい! もちろんです!!」と答えた。それから、暫く経って、二人の会話は本題に入った――



「先輩、そういえば私に頼みたい事って何ですか?」


「あぁ~~、そっか、そっか! それだよね!」


 萌音はハンバーガーを片手にスマホを操っていた。『桃ちゃんに見せたいめちゃくちゃ笑える動画があるんだ』と検索をしていたからだ。

 愛の質問に萌音の手は止まる。萌音が見せたかった動画がどんな内容のものだったのか、愛が知る機会は失くなった。


「さっきのさ、手を取り合ってって話にも繋がるんだけど、桃ちゃんに手伝ってほしい事があるんだよね」


「手伝ってほしい事ですか?」


「そう、私、自分が襲われた理由は、敵側の脅しだって思ってんの。『テメェ余計な事してんじゃねぇよ』みたいな、『テメェ抵抗してきてんじゃねぇよ』的な?」


 萌音は『テメェ――』の所を野太い声色に変えて喋った。


「私さ、そんな脅しには絶対に屈したくないんだよね。だから、今回の事件をちゃんと記事にしたいんだ」


「記事……ですか?」


「そう、敵が脅してくるって事は、敵の不利益になる事をしたって証拠でしょ? じゃなかったら、わざわざ襲いに来ないだろうし。だったら私は、もっともっとやってやろうって思う! 《王に選ばれし民》と戦うんだ! 英雄と違って、剣じゃないけど、私らしくペンを使ってね!」


「いや……でも先輩……」


「だから桃ちゃんにはね、私が書いた記事の拡散に協力してほしいの!なるべく多くの人に読んでもらう為に!」


「いや……でもね、先輩」


「なんだぁ? さっきから『でも、でも』って? 桃ちゃんは反対なの?」


 萌音は首を傾げた。


「あ、いや……反対って言うか。手を取り合って戦うべきって言葉に賛同してくれたのは嬉しいんですけど……」


「じゃあ良いじゃん、意見一致じゃん! 私、桃ちゃんの言葉にますますヤル気が出ちゃったんだから!」


「いや、でも、今回の事件に関しては先輩は大人しくしていた方が良いんじゃないですか?」


「何で? やだよ、私がやらなくて誰がやるの?」


「でも……先輩は襲われたわけだし。まだまだやるって、それじゃまた――」


 愛は後悔した。自分の発言が萌音を焚き付けてしまったと思った。


「だから、私は脅しには屈したくないの! 知ってるでしょ? 私ってジャーナリスト志望だよ、マジでペンで戦う人になってやろうって思ってんだから! それが今から"脅されて引き下がる人間"になってどうするの?」


「いや、でも……」


「英雄の人が言ってたよね、『正義の心で悪を斬る』って、だったら私は『正義の心で文を書く』そんな感じだよ! あっ、因みにね、さっき今回の事件をちゃんと記事にしたいって言ったけど、私が襲われた時の事はもう記事にしてるから!」


「え……もうですか?」


「うん、桃ちゃんが来る前にサイトにUPした!」


 そう言って萌音は、テーブルの下に置いたスクールバックを手のひらで叩いた。スクールバッグには萌音が愛用しているタブレットが入っている。


「次はね、ソラが見付けた"あの石"の事を広めるつもり。私の推理だと、アレはきっと火事を起こす為に必要な物なんだよ。だからさ、その事を皆が知れば、事件を未然に防げるんじゃない?」


「う……うん。でも、それは警察の仕事じゃないですか? まずは警察に――」


「警察には昨日ちゃんと言いました! 『それは有力な情報だ』って言ってくれたけど、その情報って今日報道されてた? されてないでしょ? 多分それは確証が無いからだよ、でもそれじゃ遅いの! だから私がやる! 石に関する記事はまだ出来てないから、出来たら連絡するね! 桃ちゃんもちゃんと読んでよね、でぇ読んだら、拡散をお願いします!」


「えぇ……ちょっとは私の言う事聞いてくださいよ」


「聞いてるよぉ。聞いてるけど、私の意思は岩よりも固いのです!」


 萌音はニコリとした笑顔を浮かべて、ハンバーガーの最後の一口を頬張った。まるで陽気な曲に乗っているかの様に体を左右に動かしながら。


 萌音は、自分が書いた記事が事件を動かす未来に既に行ってしまっているらしい。最悪の未来の予想などせず、希望のある未来しか彼女には見えていないのだろう。


「さて、ビッグバーガーでお腹いっぱいになったし! 桃ちゃんにもお願い出来たし! そろそろ私は行こうかな! 意欲が湧いてる内に一気に取りかかりたいしさ! んじゃ、桃ちゃんバイバイね!!」


「え……あっ、ちょっと! 先輩!!」


 席を立った萌音は足早に去っていった。

 愛が呼び止めても振り向かず、足を止めようとはしてくれなかった。

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