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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第2話 狐目の怪しい男 2 ―狐目の怪しい男―

 2


『輝ヶ丘の住民は俺の言葉が嘘ではなかったと、やっと理解した事だろう


 今回の標的は九死に一生を得た


 しかし、本来であればあの女は俺の炎に焼かれて悶え苦しみ地獄に堕ちる運命だった


 では、次は誰が餌食になりたい――


「『――死の運命は誰に振り掛かっても可笑しくはないぞ』……か」


 佳代から渡された新たな怪文書を机の上に置き、正義は湯呑みに手を伸ばした。

 怪文書の挑発的な内容を読み、正義の心には怒りが湧いてしまったのだ。


「ふぅ……」


 熱いお茶を飲んで心を落ち着かせると、正義は対面に座る山下佳代に向き直る。


 ――正義は佳代に叩き起こされたあと、山下商店へ来た。傷付いたボッズーを『妹の華から預かってた人形が汚れちまった! バッチャン、ちょっと居候させてもらってる勇気ン家に行かせてくれ!』と言い訳をして秘密基地へ連れていくと、それから来た。その理由は不思議な石の捜索を邪魔した男が何者であるのか話してもらう為だ。


「ねぇ、バッチャン?」


 山下商店の小上がりに胡座をかいて座る正義は、ポリポリと頭を掻きながら佳代に向かって問い掛ける。


「バッチャンは、あの眼鏡の男をストーカーだって言ったよね? あの人はいったい何をしたんだ? バッチャンは何であの人がストーカーだって知ってんの?」


 質問を連発したあと、正義は伝えた。

「俺は、あの眼鏡の男が怪文書を持っていたのを見たよ」と。小上がりの机の上に束になって置かれた怪文書を指差して「バッチャンが見付けたコレが多分、ソレなんだ」とも。

「怪文書は自分が書いたって言葉もあの男から聞いた、自分がこの事件を起こした張本人だって言葉も――」と。


「だから俺はあの眼鏡の男が何者なのか知りたいんだ」


 正義が伝えた情報は、正義を叩き起こした直後に佳代が聞いてきた質問への回答にもなるものであった。


「そうかい……」


 矢継ぎ早に伝えられて脳に負荷がかかったのか、佳代は最前の正義と同じく熱い茶を啜り「ふぅ……」と息を吐く。そして、湯呑みを机の上にコトリと置き、佳代は呟いた。


「正義ちゃんにあの男がストーカーだって話したのは私の間違いだったね……」


「え、間違い??」


 正義が聞き返すと、佳代はコクリと頷く。


「うん……だって、知ってどうするつもりなんだい? あの男は危険だよ、関わっちゃいけない人間だよ」


 佳代は男の情報を話した事を後悔している様子を見せ、「正義ちゃんが興味を持っちゃうとも考えずに自分の気持ちに任せて話しちゃうなんて、歳だけ取って私は馬鹿な女だよ……」と項垂れた。


「そんな事ないよ」と正義は言うが、佳代は首を振った。


「正義ちゃんは男を捕まえようとしてるんじゃないのかい? ダメだよ、そんな危ないマネをしちゃ……」


「しないよ、俺、しない!」


 頭を掻き、正義は嘘をついた。


「俺、マジで興味があるだけ、ストーカー男の事を知りたいだけだよ、危ないマネはしないよ!」


 正義の嘘は続く。正義は"危ないマネ"をするつもりだ。ストーカー男がバケモノならば、英雄として戦わなければならないから。


「それに、知っておけば皆に『こんな危ないヤツがいるんだ』って注意も出来るでしょ……?」


 正義の嘘は佳代を安心させる為の嘘ではあるが、嘘は嘘でしかなく、『幼い頃から世話になってるバッチャンに申し訳ない』と心が苦しくなっていく、正義の声は段々と小さくなっていく。


 だが――


「本当かい?」


 項垂れていた佳代が顔を上げた。

 正義に問い掛け、佳代は正義の瞳をじーっと見詰めてくる。


「正義ちゃんの目は、悪い子の目じゃないね」


「え、悪い子の目?」


 正義が聞くと、佳代はまた頷いた。「私は子供の目を見れば、その子が悪い事を考えているのか、良い事を考えているのか分かるんだよ」と言う。


「分かったよ……私は正義ちゃんを信じる。正義ちゃんの目は良い子の目だからね。『危ないマネはしない』その言葉を私は信じるよ」


「本当に……?」


『正義ちゃんを信じる』

 この言葉に正義の罪悪感は増した。しかし、ストーカー男の情報は得たい。正義は胡座から居住まいを正すと、神妙な表情になって、語り始めた佳代の言葉に耳を傾ける。


 ―――――


「この話は愛ちゃんにも秘密にしているから、あの子も知らない話なんだけど、あの男は萌音ちゃんの友達……同級生のアヤカちゃんって子をストーカーしていた男なんだよ」


 佳代は少し冷めてきたお茶で喉を潤し、語り始めた。


「あれは二年前になるね……萌音ちゃんとお友達のアヤカちゃんが、毎日ウチに来ては、この小上がりで何やら内緒話をしていたんだよ。人の話を盗み聞きするのは良くないでしょう。だから私は、見て見ぬふりをしていたんだけど、ある日ね、二人が店に入ってくると私に携帯電話の画面を見せてきたんだ。そこには眼鏡を掛けた目の吊り上がった男の写真があった……二人はその写真を指差して言うんだよ、『この男が山下に来たら、絶対に中に入れないようにして』って。でも、そんな事をお願いされても困ったよ。いくら幼い頃から知っている萌音ちゃんのお願いとはいえね、理由も知らないのにそんな事をしたんじゃ、お客さんを選ぶ事になるでしょう? だから私は理由を聞いてみた――」


 佳代は話している内に汗をかいたのか、エプロンを手のひらで擦る様に触り、それから再び一口だけお茶を飲んだ。


「すると萌音ちゃんが教えてくれたんだ。『この男はアヤカちゃんをストーカーしている男なんだ』って。この言葉に私はビックリしちゃってね、しかもその男はアヤカちゃんが通っている塾の講師だって言うからもっとだよ」


「……塾の講師?」


 佳代は「そうだよ」と頷き、「ほら、駅前のビルにある相川塾だよ。正義ちゃんが小さな頃からある塾だから分かるよね?」と聞いてきた。


「あぁ~、同級生の頭の良い奴が通ってた気がする!」


 ……と正義が答えると、佳代はまた頷いた。


「そうそう、合格率も高くて、昔から良い評判しか聞かない塾なんだよ。だから私は『そんな塾の先生がストーカーなんてするのかい? 先生なんて優秀な人の筈でしょう?』って聞き返しちゃってね。でもね、高校の前で何度も待ち伏せされたりとか、一日に何度も電話が掛かってきたりとかって被害を、アヤカちゃんは受けていたんだ。その話に私はゾッとしちゃってね」


 佳代は、萌音が見せたストーカー男の写真は、萌音自身が待ち伏せしている男を隠し撮りしたものだとも教えた。


「――アヤカちゃんとストーカー男は、生徒と講師の関係といっても、特に親しかった訳でもないんだって。でも、授業が始まる前に一回だけ、たった一回だけだよ、ゲームの話をした事があるんだって。そこであの子も悪いんだけど、連絡先を交換しちゃったんだってさ。『またアドバイスをお願いします』って。でも、たったそれだけだよ。それだけなのに男は勘違いをしたんだろうね」


 正義は「なるほど……」と相槌を打ちながらも考えた。『俺だったら勘違いしてたかな?』と。が、『流石にゲームの話をしただけじゃ勘違いしねぇか』とすぐに結論が出る。

 そんな疑問を正義が浮かべている間に佳代の話は進んでいく。


「アヤカちゃんの携帯電話には、留守番電話も残されていてね。聞かせてもらうと、『二人っきりで会いたい』とか『どうしたの? 電話に出て』とか、ストーカー男は自分が嫌がられてるなんて全く気が付いていない様子でね。気味が悪かったよ。だから私はアヤカちゃんに言ったの、『困ってるなら塾の偉い人に相談したら?』って。でもね、アヤカちゃんは『ダメだ』って言うんだ」


「ダメ? 何で?」


 首を傾げた正義に「相川塾には上位クラスというものがあるらしいんだよ」と佳代は教えた。


「上位クラス? それって他のクラスよりも特別って事?」


「そうらしいよ。学力を認められた人しか入れなくて、他のクラスよりも良い勉強が出来るらしいんだ。当時のアヤカちゃんは、そのクラスに入れたばかりだったんだって」


「そっか、でもそれが何で偉い人に相談するのがダメに繋がるの?」


「私も気になってね、訳を聞いたら、その上位クラスの講師がストーカー男なんだってさ。だからアヤカちゃんは『相手は国立大に現役生を何人も送れる優秀な講師、自分はやっと上位クラスに入れただけの生徒、塾がどっちを大事にするのかは考えなくても分かってる』と結論付けちゃってたんだよ」


「塾に訴えたら、塾は男を取るだろうってアヤカさんは思っちゃってたんだ」


 正義は頭を掻き、「なるほどなぁ」と呟いた。


「そうみたい……そんな事にはならないよと、私も話したんだけど、あの子はそう思い込んでた。あの子には行きたい大学があったからね、塾は辞めたくなかったんだよ。だから、どうにかならないかと、萌音ちゃんに相談していたんだ」


「アヤカさんは何で真田先輩に? 二人は仲良かったの?」


 正義の相槌に似た質問に佳代は頷き、「仲が良いのもあるし、元々萌音ちゃんは皆に頼りにされる子だからね。自ら相談役を買って出てる場面も多かったんだ」と答えた。


「そっか、それでその後はどうなったの? 塾にも言えないなら、アヤカさんが我慢するしかなかった?」


「いやぁ、そのままにはしないよ。話を聞いたからには私も相談に乗る事にしてね、知り合いの刑事さんに話をしに行ったんだ」


「バッチャン、警察に知り合いがいんの?」


「伊達に長生きはしていないからね、昔この店に通っていた子なんだよ――"子"って言っても今は四十を越えているけどね。その子に、私と萌音ちゃんとアヤカちゃんの三人で、相談に行ったんだ」


「そっかぁ、それで? 男は逮捕された?」


「ううん」


 佳代は首を振った。


「そこまではならなかった。ストーカーっての難しいんだね。待ち伏せとかがあっても、すぐには逮捕は出来ないみたい。ただ、警察も警告をしてくれてね。その影響で結局は、ストーカー男は塾を解雇になったし、アヤカちゃんの前から姿を消したんだよ」


「やっぱり塾も男を取りはしなかったんだ」


 ……と正義は安心し、茶を啜ろうとするが、


「でも、今度は萌音ちゃんなんだよ」


「え?!」


 続けられた佳代の言葉に正義の動きは止まった。

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