第1話 血色の怪文書 16 ―現れた敵―
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赤い英雄はワタシを睨みながら立ち上がった。いや、仮面をつけているから実際のところ、ワタシには彼、おそらく"彼"であっているだろう――の表情は分からない。でもワタシが彼ならば、ワタシはワタシを睨むだろうし、きっとそうだ。
それから、彼はこう言った。
「あんた、その手に持っている物は何だ?」
彼の語気は荒くない。しかし、偉そうな口振りだった。ワタシは腹が立った。だから、
「フッ……」
ワタシは彼を鼻で笑ってやった。小馬鹿にしてやったのだ。すると、
「何を笑っているんだボズ……」
今度は英雄の仲間が喋った。鳥のくせに喋っている。気持ちの悪い生き物だ。
「ボッズー、落ち着け……まだこの人がバケモノとは決まってない」
赤い英雄は仲間を制止した。イメージ的に気持ちの激しい奴だと思っていたが、意外と落ち着いたヤツらしい。そして英雄は、花壇の前に貼られた立ち入り禁止のテープを乗り越えて、ワタシに向かって歩き始めた。
「アンタが持ってるのって、アレだよね? いま話題の怪文書……違う? 何でアンタがソレを持ってるんだ? 拾ったの? それとも――」
その後の言葉はワタシ自身に言わせたいのか英雄は黙った。この感じもムカつく。質問をしている立場なのに偉ぶるにも程がある。
だからワタシは言ってやった。
「そうだよ、これはワタシが書いた物だ」
ワタシが言ってやると、一瞬英雄の足は止まった。驚いたのだろう、笑える。だが、仮面に隠されていて顔は見えない。非常に残念だ。しかし笑える。
「そうか……」
英雄はボソリと呟き、再び足を進めた。
「じゃあ、もう一個質問。あんたはこの事件を起こした張本人?」
前言撤回。やはり腹が立つ。英雄はワタシの発言に驚いている筈なのに、冷静な口調のままじゃないか。苛つく。虫酸が走る。
だから言ってやる。
―――――
「そうだよ……憎かったら捕まえてみろ!!」
男はニヤリと笑うと、突如セイギとボッズーにに背を向けた。
「あっ! 逃げるなボズ!!」
「ボッズー、ビュビューンモード行けるか?」
走り出した男から視線を反らさぬ様にしながら、セイギは走り出した。その手は腕時計に伸ばされる――叩かれた文字盤からは、白い翼の大剣が飛び出す。
「勿論いけるボズよ! やってやる!!!」
ボッズーはセイギの質問に答えながら《ミルミルミルネモード》を解除して、《ビュビューンモード》へと変形する。
「ほぉ……英雄のクセに人間のワタシに刃を向けるのか」
「何が"人間"だボズ! 《王に選ばれし民》に魂を売ったくせに!!」
ボッズーは四本に分かれた翼の"上の翼"に風を取り込み始めた――が、しかし、
「フフフッ……無駄だ。ワタシはお前達と争うつもりはない」
「じゃあ何で来たんだボズ!!!」
「それは、可笑しな真似をしている奴等を見付けたからさ!!」
高笑いを上げた男は、持っていた怪文書を投げ捨てた。
「うわっ!!!」
投げ捨てられた怪文書が風に吹かれてボッズーの顔面に張り付く。
男はその隙に、灰色のジャケットに手を入れた。
ポケットの中からは小瓶が出てくる。手のひらに隠れる程の小さな瓶だ。花の種に似た灰色の粒が入っている瓶だった。
「お前等の相手はコイツらだ! 行け、ダーネッ!!」
男は瓶の蓋を開け、灰色の粒を辺りにばら蒔き始める――
「なんだボズッ!!」
「うわっ! ダーネって、コイツらの事かよッ!!」
灰色の粒は地面へと落ち、形を変えた。
粒から変化した姿に、セイギとボッズーは見覚えがあった。ソレは膝を抱えた人間の形をしているが、昼間に戦った木の怪人だと二人は知る。
「コイツら、ダーネっていうのか!!」
ダーネの数は一目では数え切れない程に多く、セイギとボッズーは一瞬にして取り囲まれる形になってしまった。
「ギギ……ギギギ……」
膝を抱えていたダーネは立ち上がる。
ギギ……と鳴きながら、セイギとボッズーに迫ってくる。
「コイツらの相手をしても無駄だ! ボッズー、俺の背中に来い、飛ぶんだ! 男を追い掛けっぞッ!!」
セイギは素早い判断を下した。
ダーネの出現に一瞬慌てたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「そうだなボッズー!! 雑魚よりもバケモノが本命だボッズー!!」
すぐに冷静になれたのはボッズーも同じである。セイギの指示を聞き入れたボッズーは、『来い』と呼ばれた背中に向かって飛んでいく。
「ホホホホホホホホォ~~♪ そうはいきませんよぉ~~♪ 小鳥さんぅ~~~~♪♪」
だが、邪魔が入る。
「この声はッ!!」
「芸術家ボズッ!!」
芸術家の声が聞こえたのは二人の左方向上空だ。二人は素早い動きで声がした方向を見る――が遅い、二人が顔を向けた瞬間、ボッズーに向かって高速の"張り手"が飛んできたのだ。
「!!!」
叩かれたボッズーはあらぬ方向へと飛んでいく――
「ボッズー!!!」
突如上空に現れたのは《王に選ばれし民》が現れた日に、セイギとボッズーが戦った巨大な手だった。
「あぁ、もう!! 邪魔だッ!!」
セイギの近くには既にダーネが群がってきていた。ダーネを斬りながらセイギは言った。
「ちきしょう、また"その手"を使ってきたか!!」
この言葉を姿を見せぬ芸術家が笑う。
「ホホホホホォ~~♪ 『その手』とは上手いですねぇ~~~♪ "手段の手"と"私が作り出した手"をかけているんですねぇ~~♪ 分かりますぅ~~♪」
「ふざけんなッ!! 偶然だ、そんな冗談を考える余裕はこっちには無ぇッ!!」
セイギに群がるダーネの数は多い。
大剣を振り回して斬っていくが、セイギの足は止まってしまった。逆に男は走り続け、公園の出口に近付いていっている。
「ちきしょう……このままだとマジで逃げられる! くそぉ、邪魔だって言ってんだろッ!!」
セイギは大剣を振るうのを止めた。代わり一番近くにいたダーネの頭を掴み、「フンッ!!」と地面に向かって押して、無理矢理に屈ませる。
「ドリャーーーッ!!」
次にセイギが取った行動は跳躍だった。
無理矢理に屈ませたダーネの背中を踏み台にして、空に向かって跳んだのだ。
「昨日は俺が勇気に蹴られたからな、今日は俺がやってやるぜぇ!!!」
「ホホホホホォ~~♪ そうはさせないぃ~~♪♪」
再び芸術家が笑う。
セイギは群がってくるダーネ達を飛び越える為に跳躍したが、空にはボッズーを弾き飛ばしたばかりの巨大な手があった。巨大な手は今度はセイギに向かって飛んで――
「邪魔すんなッ!!!」
――来る前にセイギが大剣を振るった。
「来ると思ってたぜ、攻撃がワンパターンなんじゃねぇのか!! 芸術家ぁーーッ!!!」
巨大な手を弾き飛ばしたセイギは仮面の奥でニヤリと笑う。セイギは読んでいたのだ。『芸術家の作った巨大な手は必ず自分の邪魔をする』と。だからセイギは飛んだ瞬間に大剣を構えて、『何処から飛んでくる?』と視線を走らせていた。
「俺をナメるなよ!!!」
「そうだぞボズ!! 俺達をナメんなボッズー!!」
セイギが巨大な手を弾き飛ばした直後、弾き飛ばされていたボッズーが復活して飛んできた。
「さぁ、セイギ! 行くぞボッズー!!」
そして、ボッズーはセイギの背中に掴まった。
「頼むッ!! アイツを逃がすな!!」
「ほいやっさ!!」
ボッズーは再び、上の翼に風を取り込んだ。
「さぁ、一気に飛んで男を―――え?!」
ビュビューンモードのジェット噴射を作る為に、ボッズーは空中で一瞬だが動きを止めた。その時だ、目にも止まらぬ速さで前方から飛んできた物があった。
「アレは……"火の玉"か?!」
それは巨大な火の玉である。
「クソ……ッ!! 次から次へとッ!!!」
セイギは飛んでくる火の玉を斬ろうと大剣を構えようとする――が、間に合わない。構えきる前に火の玉はセイギとボッズーに迫り、
「グワァーーーッ!!!」
「うわーーーーっ!!!」
二人を火達磨にしてしまった。
第三章、第1話 「血色の怪文書」 完




