第1話 血色の怪文書 13 ―英雄会議―
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正義達は怪人の群れを一掃した後、怪人を操っていただろうバケモノの捜索にあたったが発見は叶わなかった――火事に怪人、異常が起こり過ぎた住宅街には人々が溢れていたからだ。
バケモノに人間の皮を被られてしまえば、ボッズーの《ミルミルミルネモード》をもってしても、人間か人間を棄てた者かの区別はつかない。『異常事態に恐怖する人々の中に、バケモノの力を持つ者は紛れてしまったのではないか』と思いつつも、新たなバケモノの特徴すら知らない正義達は悔しさに拳を握って退陣するしかなかった。
しかし、正義達は敵を逃がしてしまったからといって立ち止まる者ではない。
彼らは秘密基地に集まり、会議を始めた。
その場には愛も居る。愛は暗澹とした雰囲気の萌音と離れたくはなかったが、秘密基地には英雄に選ばれた者以外の入室は許されない。愛は萌音が目を覚ますと『もう大丈夫』と思えるもう一つの場所である山下商店に彼女を連れていき、自分は秘密基地へと来たのだった。
そして、愛は萌音が狙われた理由であろう"不思議な石"の事を正義達に話した。
「それじゃあ愛は、その"不思議な石"を真田先輩が見付けたから、木の怪人に狙われたって思ってるのか?」
「うん、せっちゃんは違う考えなの?」
正義は頭を掻きながら、切り株のテーブルの周りをグルグルと落ち着きなく歩いている。"頭を掻く"は正義が思考を巡らせている時の癖だ。この癖は幼少期から変わらぬものであるから、正義が納得をいっていないと愛はすぐに察した。
「う~ん……違う考えっつーか――」
正義はガシガシと髪の毛を掻き回す。
その姿に愛は首を捻った。
「だって木の怪人は『お前を許さない』って。明らかに先輩を狙ってきてたよ……」
「うん、そりゃあそうなんだろうな。真田先輩を木の怪人……つか、《王に選ばれし民》は狙ったんだ。それは俺もそう思う、だから俺が考えてるのは、"どっちが始まりなのかな"ってトコだよ!」
「どっちが始まり?」
正義の発言に愛の首は更に捻られた。
「正義……分かりにくい言い方をしてやるな」
「そうだボズよ、説明が下手くそなのはお前の悪い所だぞボズぅ!」
首を90°近くにまで捻ってしまった愛に、勇気とボッズーが助け船を出した。
「桃井、正義が言いたいのはな、真田先輩は石を見付けたから狙われたのか、それとも《王に選ばれし民》の標的にされたから自宅の前に石を置かれたのか……『どっちが始まりなのか?』という意味だ」
「そうそう、そういう意味だボズよな?」
ボッズーに聞かれると、正義はコクリと頷いた。
「うん、そういう意味であってるよ。何でそんな疑問を持つかっつーと、今朝に見付かった新たな怪文書の文面には『我が王――』ってあっただろ? だから怪文書は《王に選ばれし民》と関係している人物が書いた物……いや、もっと言えば、今回のバケモノが書いた物の可能性が高いって俺は思うんだ。んで、真田先輩が書いた怪文書を批判する記事はかなり広まった、それを怪文書を書いた張本人が知らない筈がないだろ? ってなると自分の考えを――怪文書を批判する人物を、バケモノに選ばれるような野郎は始末しようとするんじゃないかなって俺は思うんだ」
この正義の主張に、愛は『先輩の書いた記事には私の抗議文も載ってるよ? だったら私も――』と反射的に言おうとしたが、すぐに気が付いた。萌音の記事には、愛の抗議文は匿名で載せられていたと。
気が付いた愛は首の位置を元に戻し、喋り続ける正義を見詰めた。
正義は未だ、頭を掻いている。
「――だから俺は『どっちが始まりなのかな?』って考えちゃうんだ。けど、やっぱ真田先輩が狙われた方が先だって考えた方がすんなり来るんだよな」
「確かに、そう考えた方が普通なのかもね」
「だろ?」
愛が同意すると、正義は一瞬だけ立ち止まってニカッと笑った。それから又、歩き出す。
「やっぱ、怪しげな石が真田先輩の自宅の前にあったのは、真田先輩が狙われていたからなんだよ!」
「俺もそう思うな……思うが、じゃあ石の役割はなんだと思う?」
勇気が問い掛けると、正義の手は更に騒がしく動き始める。
「それなんだよなぁ……次はそっちを考えねぇとだ。石は木の怪人を発生させる為の物だったのかな?」
「木の怪人を……どうだろうな」
勇気は腕を組んだ。
その眉間には皺が寄る。
「――さっき桃井は、真田先輩と一緒にいた理由を『石を見せてもらう為に真田先輩の家に向かっていたから』と言っていたよな? という事は、石は真田先輩の自宅にあったという事になる……だが、怪人が出てきた場所は家の中ではない、桃井の背後だ。ならば、炎の方って事はないか?」
「炎の方……」
愛は眼前で見た真っ赤な炎を思い出した。
「そういえば先輩は、石の色は真っ赤で、宝石みたいに煌めいてたって言ってたよ」
結局、萌音が見付けた石を愛は見せてはもらえなかった。実際に見る事は出来なかったが、赤く煌めく石となると、想像してみると、不思議な石は炎を思わせる石だと思った。
「赤色って、確かに炎っぽいな。石は発火装置だったのかもしれねぇな!」
頭を掻き回す正義の手がやっと止まった。
と、同時にグルグルと歩き回る足も止まる。
「きっとそうだ、石は発火装置なんだよ!」
「証拠はないがな……」
と勇気が言うと、「だったら調査をしに行くだボッズーよ!」と、切り株のテーブルの上に座っていたボッズーが、正義の肩まで飛んでいく。
「調査? 真田先輩の家にか?」
「いんや、違うボズ!」
正義の肩に止まったボッズーは、正義の質問に首を振った。
「調べる場所は深夜に放火された場所だボズよ! 愛の先輩の家に石があったのは確かなんだろボズ? だったら他の場所を探して、そこから石の欠片でも出てきたら、石が発火装置って推理の状況証拠にはなるんじゃないのかボッズー?」
「なるほど、確かに!」
「まぁ、石が《王に選ばれし民》に関係した物だって考えも、俺はもうちょっと慎重に結論付けたい所だけどなぁボズぅ」
ボッズーは『慎重に――』とは言いながらも、「まぁ他の場所からも石が出てくれば、そっちもほぼ確だけどなボズぅ!」と正義の肩から飛び立った。
「調査は人の居ない時間の方がやり易いから、やるのは深夜にしようボズ! だから行くのは俺と正義だ! 正義、今日は長い一日になるだボズよ!! 後でしっかりと仮眠を取るだボズ!!」
ボッズーは透明なバリアの張られた天井に向かって飛び、日の暮れた空に頭をぶつけた。




