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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第三章 愛の英雄の誓い 編

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第1話 血色の怪文書 6 ―真田萌音―

 6


 山下商店に入店した萌音は『ただ上がらせてもらうのはカヨちゃんに悪いから』と幾つかの駄菓子を購入した。

 萌音も幼い頃から山下商店の常連客であり、山下佳代とも親しい。彼女は山下佳代を『バッチャン』や『お婆ちゃん』よりも更に気さくに踏み込んで『カヨちゃん』と呼んでいる。

 入店直後は"カヨちゃん"とも談笑し、萌音は上機嫌であったが、愛が怪文書を見せると、その表情からは笑顔は消え、駄菓子に伸びていた手は止まった。


「確かに……これは酷いね。それで、抗議文は? 桃ちゃん、考えてきてくれたんでしょ?」


「あ、はい!」


 萌音に問い掛けられると、愛の背筋は伸びた。


 萌音は昨日の内に、どの様な方法を使って怪文書に対抗するかを愛に提案していた。その方法は、フォロワー数の多い萌音のSNSに抗議文を載せる、という方法。

 憧れの人物からの提案は絶対だ。秘密基地からの帰宅後、愛はすぐに抗議文の作成に取り掛かった。


 一晩かけて書いた抗議文は、スマホのメモアプリに保存されている。「これなんですけど……」と緊張しながらスマホを差し出すと、「ありがと、ちょっと読ませてもらうね」と萌音はすぐに読み始めた。


「どうですかね……」


「う~ん、そうだねぇ」


 愛が書いてきた抗議文は『私は輝ヶ丘高校に通う高校生です。』と始まり、基本的に話し言葉を用いて手紙の様に書かれた物だった――


『現在、輝ヶ丘の町内において私たち住民を侮辱する文書が出回っています。私はこの文書を書いた人物に強い怒りを覚えています。王に選ばれし民が現れた今、この世界は経験した事の無い危機に陥ろうとしています。私は輝ヶ丘の一人の住民として、この文書を書いた人に問いたいです。世界中が危機に陥ろうとしている中で、誰かが誰かを蔑み、命を軽んじる発言をする必要はありますか? 今は世界中の皆で手と手を取り合い、助け合い生きていく、そう変わっていくべき時ではありませんか? 文書の中には『死ぬべき存在』という言葉がありますが、この世界に死ぬべき人なんていないと私は思います。先にも述べましたが、私はあなたに怒りを覚えています。しかし私はあなたの手も取りたい。あなたも考えを変えて、私の手を取って下さい。皆が笑顔でいられる未来を一緒に作っていきませんか』


「どうですか? なんか、言いたい事があり過ぎて、書いてる内に段々纏まりの無い文章になってきて、実際何を言いたいのか分かりにくくなってしまったような……」


 昨晩の愛は自分の文章力の無さに頭を悩ませた。

 怪文書を書いた人物に伝えたい事柄があり過ぎて、その全てを纏めようとすると文章がとっ散らかってしまい、更には書いている内に『相手にも何か事情があってこんな文書を書いたのかも』と妙に冷静になってしまったり、『事情が有ろうが無かろうが、酷い言葉を書き連ねた文書を書くのはやっぱり間違ってる!』と再び怒りが爆発したりと、考えも二転三転してしまった。


 出来上がった抗議文に自信はなかった。

『感情も抗議文も右にいっては左にいって、気が付けば斜め上に向かってしまった』と愛は思っているから。


 しかし、愛の抗議文を読んだ萌音は意外な反応を返してきた。

「いや、良いと思うよ」と、彼女は涼しげな目を細めて微笑んだのだ。


「変に纏まり過ぎてる文章よりも、こっちの方が桃ちゃんの気持ちが伝わると思うし」


「そうですか?」


「うん。桃ちゃんの怒りも優しさも伝わる文章だと思うな。これさぁスクショで良いから私に送ってくれない」


「はい、分かりました。でも良かった……変な文章で先輩にダメ出しされるかと思ってたから」


「ダメ出しなんてしないよ」


 萌音の優しい言葉を受けて、愛は安心した。

 愛は『先輩は天才だ!』と思っている。高校生ながらにニュースサイトに連載を持っている彼女は経験値も違う。『先輩が良いと言うのなら、良いのだろう』と愛は思えた。


「はい、スクショ送りました――」


 萌音からスマホを返されると、愛はすぐに抗議文の画像を送信した。


「ありがと。それじゃあ、桃ちゃんの文章に私の考えも添えさせてもらうね。あ、これの写真も一緒の方が良いよね」


 萌音は制服のポケットから自分のスマホを取り出して、怪文書を写真に収めると「それと、怪文書の写真を投稿しているSNSのアカウントも教えてくれる? 」とスクールバッグからノートを取り出した。


「その人達の写真も使わせてもらいたいから、連絡を取りたいんだ」


 小上がりの机は鉄板が敷かれた物であるが、もんじゃ焼きの注文が入らなければ普段は蓋がされている。萌音はその上でノートを広げてメモを取ろうとする。


「えと、全部ですか? それとも何個かに厳選します? 投稿してるアカウントは、けっこう数がありますけど?」


「あぁ~、それはねぇ」


「なんだい? もしかして、また二人で新聞を作ってるのかい?」


 愛の質問に萌音が答えようとすると、いつの間にやら小上がりの端っこに座っていた山下佳代が問い掛けた。

 最前までの佳代はレジカウンター――と謂うよりも帳場と謂うに相応しい場所で、お茶を飲みながらラジオを聞いていたのだが、八十歳に近付いても佳代の動きは素早いらしい。気付かぬ間に愛たちのすぐ近くに来ていた。


「あ、お婆ちゃん……えとね、新聞じゃないんだけどね」


「カヨちゃん、ちょっとこれ見て」


 音も立てずに近付いてきた佳代に驚きながらも愛は答えようとしたが、その前に萌音が動いた。

 萌音は怪文書を手に立ち上がると、佳代にソレを手渡した。


「ふふっ……なんだい?」


 手渡された物が怪文書とは知らない佳代は『カヨちゃん』と呼ばれて嬉しそう。朗らかな微笑みを見せる。


 萌音はその美貌や大人びた見た目に反して、人の懐に飛び込むのが上手いタイプだった。佳代にも敬語を使わずに話し、その距離感を佳代も気に入っているらしい。が、萌音が手渡した怪文書に目を落とした直後、佳代の表情は曇ってしまう。


「えぇ……何だいこれ? 酷い事が書いてあるね」


「でしょ? それさ、桃ちゃんが発見してくれたんだけど。現在(いま)、輝ヶ丘の至るところにばら蒔かれてるらしいの」


「こんな物がかい?」


 愛も萌音も頷くと「酷い事をする人もいたもんだねぇ」と佳代は悲しそうに呟いた。


「お婆ちゃん……」


 佳代の悲しむ顔を見て、愛の心には怪文書を見付けた時と同じ度合いの怒りが湧き上がる。

 唇はむんずと結ばれ、拳は握られた。

 そして萌音の顔を見ると彼女の顔も険しいものになっていた。少し怖いくらいの表情だ。


 萌音の表情が険しく変わった理由は、愛ならば分かる。

 萌音の怖いくらいの険しい顔は、真剣に物事に取り込む前の"いつもの癖"だからだ――であるから、直後に萌音が発した言葉は愛が予想した通りのものであった。


「桃ちゃん、私もう出るわ。カヨちゃんのこんな悲しい顔を見たら、居ても立ってもいられなくなった。さっさとコレを書いた人間に抗議したい。さっき言ったアカウントは、桃ちゃんがピックアップしたものを五個くらい送ってくれる」


 萌音はスマホを見せながらそう言うと、机の上に置いていたノートやペンをスクールバッグの中に仕舞った。


「あ、はい!」


 愛の中で、目ぼしいアカウントは『厳選します?』と問い掛けた時には既に決まっていた。

 すぐに送信しようと、愛はSNSを開く――

 

「それから、記事を上げるのは明日か明後日の夜まで待って。今、私の頭の中にある構成だと取材も行わないと弱いからさ。SNSに上げたらすぐに桃ちゃんにメールするから、そしたら拡散協力もお願いね!」


 萌音は長い髪を撫で上げて、スクールバッグを手に取ると、愛と佳代に「バイバイね!」と手を振って店を出ていこうとする………が、萌音がガラガラと引き戸を開けたすぐ後に、愛は「あっ!」と叫んだ。


「先輩、ちょっと待って! 自転車の鍵、忘れてます!!」


 萌音を見送ろうと立ち上がった愛は、最前まで萌音が座っていた小上がりの畳の上に小さな鍵を見付けたのだ。

 愛はその鍵を拾い、すぐに萌音を追い掛けた。


「あぁ~、ごめん、ごめん」


「ごめんじゃないですって、もう何度言ったら分かるんですか、忘れ物と落とし物には気を付けてくださいよっ!!」


 振り返った萌音に愛が注意をすると「分かってますぅ」と萌音は苦笑いを浮かべ、ペコリと頷く――


「もう、そうやって笑って誤魔化して!」


 萌音は大人びた見た目をしているが、忘れ物や落とし物が多いタチだ。

 そんな萌音を注意する愛だが、その顔には笑顔が浮かんでいる。

 萌音が大好きな愛だ。萌音の欠点と言える一面でさえも、愛にとっては愛おしいと思えるものだった。


「そうだよ、萌音ちゃん。自転車の鍵だったから良いけど、もっと大事なものだったら大変だよぉ」


 佳代もそうだった。萌音に注意をしながらも、怪文書を読んだ直後に曇った顔が明るく戻っていた。萌音を愛おしいと思う証を浮かべている。


「確かに、命までも落としたらヤバイもんね! そいじゃ!!」

「あっ……変な事言わないでくださいよ、先輩!!」


 萌音は悪い冗談で場を誤魔化し、愛の手から『そいじゃ!!』と鍵を取ると、自転車に跨がり去っていく。


 ―――――


「桃ちゃんは良い文を書いてくれた。あとはそれを活かすも殺すも私の実力(ちから)次第だ、私も気合いを入れないと……」


 自転車を走らせてから暫くして、真田萌音は独り言を呟いていた。

 いまの彼女の顔は、怪文書を読んで表情を曇らせた"カヨちゃん"を見た時と同じになる。


「記事の構成は既に出来てる。あとは形にするだけ。それが一番難しいんだけど。兎に角、徹底的に取材をして記事に臨場感を出さないといけないな。それから、あとはどれだけ広められるかだ……あっ、そうだ、この方法なら!!」


 萌音は妙案を思い付いた。

 思い付くとすぐに自転車を止め、彼女は電話をかけ始める。


「あ、蛭間さん? 真田です、お疲れ様です。あの、次回の連載に関して相談がありまして………はい、ちょっといつもと違う感じになるんですけど、高校の後輩から記事になりそうな情報を貰いまして――」


 萌音が電話をかけた場所は自分が連載を持つ『toR.NEWS』の編集部だった。

 萌音は掛け合ったのだ。『怪文書へ抗議する内容を自分の連載記事として出しても良いか?』と。


 そして翌日の夜、『toR.NEWS』のトップ画面に萌音の記事がアップされた。

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