第1話 血色の怪文書 3 ―桃井愛、鍛えてます!―
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「せっちゃんと先輩を出会わせる会でもセッティングしようかなぁ」
正義達と別れた夜、愛は一人で公園にいた。
「あ、でも、暫くしたらせっちゃんは転校してくるのか。なら、やらないでいいか……」
公園で一人、ボソボソと呟いている。
場所は山下商店の近くにある、幼い頃によく遊んだパンダ公園……ではなく、通称『駅前公園』と呼ばれている輝ヶ丘駅近くにある公園だった。
動物の形をした遊具が多くあり、子供の遊び場という印象の強いパンダ公園よりも、駅前公園は広く、輝ヶ丘を訪れた人を迎え入れる様に大きな花壇もある。
遊び場とするよりも憩いの場といった印象の強い駅前公園に、愛は独り言を呟く為に来た……否、違う。駅前公園には180センチ程の背の高い鉄棒があるのだが、愛の目的はこの鉄棒にあった。
愛は約束の日である2月15日に向けて、予てからジョギングや筋トレを行っていたのだが、勇気が英雄の力を手に入れてからは『私も勇気くんに追い付かなきゃ!』という気持ちを強め、運動のメニューを強化させているのだ。
走る距離は五キロ延ばし、筋トレのメニューには懸垂も取り入れた。
駅前公園に来たのはその為だった。背の高い鉄棒で懸垂を行う為である。
しかし、始めたばかりの懸垂はあまり上手くはいっていない。
どんなに頑張っても二回しか出来ない。
昨夜は三回目に届くあと少しの所で惜しくも落ちてしまった。
「よぉし、今日こそ三回目を成功させるぞ!」
ホームセンターで購入した滑り止めの付いたグローブを両手に嵌めると、真田萌音と正義の出会いを想像するのではなく、自分自身が果たすべき目標に愛は集中し始めた。
集中すると『今日こそ』の想いで、鼻息は荒くなる。瞳はギラつき、気合いは満々になる。
「トリャッ!!」
愛は跳び上がった――鉄棒に勢い良く跳び付き、全身に力を込める。
「ぐぬぬ……き、キツッ!!」
一回目は軽くいけるとタカを括っていたが、そうは問屋が卸さなかった。愛は一回目から苦戦するが、
「ぐっぱぁっ!!! い……いっかいめ、成功!!!」
何とか一回目は成功。続けて二回目に挑戦する。
「ぐ……ぐぐぐぐぐ……」
二回目は一回目よりもキツく感じる……
「ぐぅぬぬぬぬぅ………ヨシッ!!!」
キツイながらも二回目も成功させた、次は三回目、本日の本命だ。
「今日……こそっ!! さ……三回目をぉぉ――」
愛の鼻息はますます荒くなる、顔は歪み、シワだらけ、この顔を誰かに見られたら『スーパーマ◯オのドッ◯ンだ!』と驚かれてしまうだろう。
桃井愛は十七歳だ。少女であるにも拘わらず、可憐な顔を捨ててまでも、勝ち取りたいものは懸垂運動の三回目。為せば成る、為さねば成らぬ何事も……歪めた顔が三回目を連れてくる。
「ぐぐぐぐぐぐっ………」
あと少し、あともう少し。
少し錆び付いた鉄の棒を額が超えた。次は目だ、それから鼻だ――っと、その時だった。
少し強めな風が吹いた。その風は火照った体を心地よく冷やしてくれる。
風の応援を受けて鼻も超えた。次は口、残すは顎だけになる、
ピューー………ペタン!
風に運ばれて、何かが飛んできた。それは愛の顔面に張り付き、目を塞ぎ、鼻の穴も塞いだ。
「え? うわっ! なにこれ? じゃ、邪魔!!」
愛は混乱し、生きる為の本能が発動する。三回目の成功を目前にして、鉄棒から手を離してしまった。
「痛たた、もうなにこれ!!」
尻餅をついた愛は、顔面に貼り付いた"何か"を剥がした。
「ん?」
すると、それは一枚の紙だと分かった。大きさはA4サイズ程で、真っ白な紙だった。しかし、"赤"が目に飛び込んでくる。
「なに……これ?」
白い紙には赤い文字で文章が書かれていた。
白に赤はよく目立つ、読もうとしなくとも色と共に文字が目に飛び込んでくる。
「はぁぁぁぁぁあ????」
直後、懸垂をしていた時と同じく愛の顔は大きく歪んだ。愛の心は怒りに染まり、本来ならば可憐な筈の顔を歪ませのだ。
風が届けた紙には悪辣な文章が踊っていたのだから――




