―ありふれた日々―
「ねぇ桃ちゃん、さっきのお婆ちゃんの言葉、感動しなかった?」
「"輝ヶ丘は私の宝物だ"って言葉ですよね? うん、しました、しました!」
「めっちゃ良いよね、格好良くない?」
「格好良いです! めちゃくちゃ格好良いです!」
私は、一学年上の先輩である、真田萌音センパイと何度も何度も『格好良いね!』『格好良いですよね!』と言い合いながら帰り道を歩いていた。
「私もそうだなぁ~、輝ヶ丘は私の宝物だよ。だって、私達、生まれた時からずっと輝ヶ丘じゃん? 友達との出会いも、家族との想い出も全部輝ヶ丘と一緒だし、だから私にとっても輝ヶ丘は宝物、大切っ!!」
「あぁ~先輩! お婆ちゃんの真似はダメですよ!」
快活な笑顔を浮かべて胸を張った真田先輩を、私は茶化した。
「真似じゃないよ! 桃ちゃん、ヒドッ! 私は真面目に言ってんのぉ~~!」
「ごめんなさぁ~い!」
「何その謝り方、絶対謝る気ないじゃん!」
真田先輩は優しい人だ。私がどんな冗談を言っても、いつも笑って許してくれた。
この頃の私達は、まだ無邪気に笑えた。
だって、これは戦いが始まる前の出来事だから。せっちゃんもまだ帰ってきてない。《王に選ばれし民》が現れる一年も前の出来事だから。
「あっ、もうここか。桃ちゃんと話してるとすぐに時間が経っちゃうね。何でだろ? 疲れるからかな?」
分かれ道に立った時、先輩が笑いながら言った。
「えっ、疲れっ……もうっ! なんでそんな事言うんですか!」
「うそうそ、楽しいからだよ! んじゃ、暗いから気を付けて帰りなね、また明日ね!」
唇を尖らせる私の背中をポンっと押して、先輩は自宅へと向かう道を歩いていく。
私達はここでお別れ、でも明日にはまた会える。
「あ……もう、誤魔化して!」
「誤魔化してないよぉ、んじゃバイバイね!」
「はい、バイバイです!」
私達はさよならの意味なんて籠めずに『バイバイね!』と手を振った。
『バイバイね』なんて、今は嫌い。
『またね』って……言ってほしいから。




