第6話 勇気の心を武器にして 16 ―二人で一つのオムライス―
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「フハハハハハハハッ!!!!」
デカギライの高笑いが聞こえた。
それは、ピカリマートの屋上から――
「……そこか」
駐車場内を見回していたセイギは声が聞こえた場所を見た――驚きもせずに、ただ静かに。
「フハハハハッ!! 残念だったなぁ、またお前は失敗したんだ!! 言っただろ、俺は無敵だとッ!! お前の技をくらう直前に、分身をこの屋上に作っておいたのだ!! そして魂を移した、今はこの俺が本物の俺だッ!!! さぁ、どうする、またリンチに――」
「そうか……本物かボッズー」
『またリンチにされたいか?』と、セイギを罵倒しようとしたデカギライの背後から声が聞こえた。
「ん?」
罵倒を遮られたデカギライは振り返る。
振り返り、直後、デカギライの体は驚愕で固まる。
「なッ!! そ……それは!!」
何故ならば、己に向かって飛んで来る存在がいたからだ。
それは金色に輝くタマゴの殻。
デカギライはこの宙を飛ぶ不思議なタマゴの殻に見覚えがあった。タマゴの殻に包まれれば、己に何が起こるのかも覚えている。
だからデカギライは固まった。しかも既に逃げられない距離に居るのだ。殻の大きさも既に巨大で、デカギライの体をすっぽりと収められる程の大きさになっていた。
「残念だったなぁは、俺の台詞だよ。デカギライ、悪いけどお前の行動は全部予測出来てたぜ!!」
固まるデカギライに向かってセイギが言った。
セイギは予測していたのだ。ジャスティススラッシャーを放った後、デカギライがどう動くのかを――
「この前の戦いでも、お前は分身がやられている間にジャスティススラッシャーから逃げたよな。だったら『次の戦いではどうだ?』って俺は考えた……で、『次の戦いでも、同じ状況になればデカギライの本体は同じ方法を使って逃げるだろう』って結論を出した。だから俺はジャスティススラッシャーの大回転を百発百中で出せるように特訓したんだ。結構大変なんだぜ、重たい剣を振りながら回転するのって! まぁ、分身を本体に変えられるって進化は驚いたけどさ、でも……やっぱりお前は分身がやられている間に逃げたな!」
「なん……だと……」
デカギライは罠に嵌まったと気が付いた。
だが、もう遅い。タマゴの殻が左右に分かれ、デカギライを包み込んだからだ。
ボッズーの《俺のガチ本気モード》が作る檻は内部からの破壊は不可能。ならば脱出も不可能である。閉じ込められれば一巻の終わりだ。
「本体を炙り出したなら、後は捕まえるだけだ! どうだ、大成功だろ? だから残念だったのはお前なんだよ!!」
セイギはデカギライを指差した。
それから次に、自分自身を指差す。
「そして、お前にトドメを刺すのは俺じゃない。お前が分身をそうした様に、俺は始めから囮なんだ……"卵焼き"なんだよ。なぁ、ユウシャ!!」
「あぁ、その通りだ――」
「なッ……!!」
"黄金に輝く半透明のタマゴ"の中で、再びデカギライは驚愕に顔を歪ませた。
声が聞こえた場所は背後、デカギライが振り向くと屋上の反対側には二丁拳銃を持ったガキユウシャが立っていた。
「そして俺がチキンライス……貴様を倒す本命だッ!!!」
ユウシャは二丁拳銃をクルルと回転させ、それから銃を構えた。
気障な態度の後に取った戦闘体勢は最前までとは少し違っていた。今度の構えは二丁の拳銃を密着させて銃口を横に並べる形――しかし、ユウシャはすぐには発砲しなかった。ユウシャはレーザービームよりも"もっと特別な物"をデカギライにぶつけるつもりだからだ。
それは、ガキユウシャの必殺技と呼べるもの、
ボッズーが囁き教えた技だ。
「行くぞ……」
――銃口を横に並べると、ユウシャは引鉄を絞った。並べられた二つの銃口には一秒毎に力が溜まっていく。
一秒、二秒、三秒………銃口がゴォーッと大きく唸りをあげた。バキュームの様に周りの空気を取り込んでいく。
四秒、五秒、六秒………空気を取り込みながら銃が震え始める。始めは極々僅かに。
七秒、八秒、九秒………時間が経つ毎に震えは大きくなる。
「時は来たようだな……」
………十秒、上下に激しく揺れ動く二丁の拳銃が目映く光った。これが合図だ。
「ビッグバン……ブレイブッ!!!」
ドキューーンッッッ!!!
ユウシャは引鉄を完全に引いた。
轟音を響かせ、二つの銃口からは突風と共に蒼白く輝く二本の光が放たれる。
目映い光は渦を巻きながら直進し、やがては一つになり、直径一m程の蒼い球体へと変わった。
「な……何でこの俺が負けッ――!!!」
デカギライの叫び声が輝ヶ丘に響く。
目映い球体――《ビッグバンブレイブ》――はデカギライを捕えた"黄金に輝く半透明のタマゴ"に向かって飛んでいくと、僅かの間、輝ヶ丘の人々に夜空に浮かぶ月の灯りを見失わせた。
"黄金に輝く半透明のタマゴ"が大爆発を起こし、金色の光を発生させたからだ。
タマゴから発生した金色の光は、赤色の英雄と青色の英雄の姿すらも金色に見せる程に強力なものだった。光が輝いていた時間は僅かなときであったが、光が消えると次には炎が残った。この炎もすぐに消えて無くなる炎であるが、普通ではない不思議な炎だ。黄金色をした炎なのだ。
メラメラと燃える黄金の炎に囲まれている者が一人……それは人間。まるで赤子の様に体を丸めて、人間が眠っていた。
「人間に戻った……という事か」
二丁拳銃をホルスターに収めたユウシャは男に近付いていった。
男は静かに眠っている。その姿を見下ろして、ユウシャは呟く。
「憎らしい男だ……何人もの命を奪いやがって。さて、どうするか」
ユウシャは夜空を見上げた。
――バケモノになった者が人間に戻ると、目を覚ますまでに二十四時間を要する。
デカギライから"人間"に戻ったリーダー格の男が目を覚ます時、彼は警官に囲まれているだろう。男が人間に戻った直後、「ピカリマートの屋上に、バケモノだった男が居る……」と輝ヶ丘警察署に一本の電話が掛かってきたからだ。
―――――
「なぁ正義」
「何だよ勇気?」
戦い終わった英雄二人は、秘密基地のある輝ヶ丘の大木に向かって歩いていた。
彼らの数歩先には戦い疲れて眠ってしまったボッズーを抱いて、桃井愛が歩いている。
正義と勇気がデカギライを倒したすぐ後に、彼女もピカリマートへと到着したが、現在は敢えて正義と勇気の二人と距離を取っている。戦いが終わった後の正義と勇気が醸し出す雰囲気は『伝えたいけど伝えられない事がある』……こんな感じの少しモゾモゾとした雰囲気で、この雰囲気を感じた愛は親友同士を二人きりにさせてあげようと思っていた。
愛の気遣いが報われたのは、ピカリマートから離れて暫くしてからだ。
輝ヶ丘の中心部にある並木道に入った時、勇気が口を開いた。
「正義、今回は……本当にすまなかった」
星々が煌めく夜空を見上げ、勇気は伝えた。
「へ? 何だよ急に?」
「いや……お前の元へ行くのが遅くなってしまったから……」
二人は肩を並べて歩いているが、お互いの顔は見れていない。勇気は空を見上げ、正義は平穏を取り戻した故郷の町並みを見ている。
「へへっ! 別にぃだぜ。それなら俺はありがとうだ!」
正義の顔に浮かぶのはニカッとした笑顔だ。でも、勇気の顔は見れない。頭を掻きながら感謝の言葉を伝えるだけ。
「いやぁ〜〜俺さ、 一人でももう少し出来るかと思ってたけど、全然だめだった! まだまだだった、一人じゃなんにも出来ねぇ!」
「そんな……」
「いんや、マジだぜ。勇気が来てくれて良かったぜ!」
正義は友達として戻ってきてくれた勇気とやりたい事があった。伝えたい言葉もある。でも、少し恥ずかしい。だから勇気の顔は見れない。
しかし、やらないまま、伝えないままでは、きっと後悔すると正義は分かっている。
「んでな……えとなぁ」
正義はガシガシと頭を掻くと、傷だらけの右手を下げた。それから意を決して"ジャンケンのグー"を作る。
「やっぱり持つべきものは友達だな! だからさぁっ――ほい!!」
作ったグーを正義は勇気に向かって突き出した。
「これからもヨロシク頼むぜ!!」
「正義……」
「へへっ! ほら!!」
正義はグーを上下に動かす。催促だ。
伝えたい言葉、『これからも友達としてヨロシク』と正義は自分なりの言葉で伝えられた。でも、やりたい事は勇気が応えてくれないと叶わない。
「ありがとうか……それは俺の台詞だよ。そして宜しくも俺から言いたい言葉だ」
勇気は正義の気持ちが嬉しかった。一度は友情を捨てようとした自分を、受け入れてくれる正義の優しさが。そして勇気もやりたい事があった。どのタイミングでやろうかと考えて考えて、考えた挙句に気が付けは勇気は夜空を見上げていたのだ。
だから勇気は、チョキを出す。
「うわっ、へへっ! 何だよそれ、違うだろ! しかも負けてるし!!」
……と正義は言うが、勇気の方は見ていない。
でも、勇気が何をするのかを正義は分かっていた。
何故なら、二人は同じ過去を思い出しているから。
幼かった頃の、大切な想い出を。
「あ……そうか、そうか、じゃあこっちだな」
勇気が出したものは今度はパーだった。
これも正義は分かっている。だから正義は言うのだ。"あの日"勇気が言った言葉を。
「へへっ! 違うぜ! 知らないのか? 拳と拳を合わせんだよ! 友情の――」
「もういい、よくそんな台詞まで覚えているな!」
勇気は笑って言うが、勿論彼も覚えている。
「へへっ! お前こそ!」
二人の気持ちは同じだ。
「ははっ! まぁ、そうだな……」
「おいおい、ほら! 次だよ、次! ガツンだろ! ガツン!」
正義はもう一度グーを動かす。
催促しながら、少し照れながら。
「ははっ! そうだった……じゃあ、行くぞ」
「おう!!」
「「オリャッ!!!」」
拳が合わさると、二人はやっと相手の顔が見れた。正義は傷だらけ、勇気は疲れ切った顔だ。でも二人は笑い合う。
勇気は思った。
― コイツと出逢えて良かった……
二人の気持ちは同じだ。
正義は思った。
― お前との友情は永遠だ!
二人の気持ちは同じだ。
「なぁ、勇気? 腹減らね?」
「ん? 腹?」
「うん、これからみんなでオムライス食いに行こうぜ!」
「いや、今から基地に行って魔法の果物を――」
「いいんだよ、オムライス!」
「いやぁ……」
「でもオムライス!」
「ははっ、分かったよ!」
「オムラぁ~~イスッ!」
「ラぁ~~イス!」
「へへっ!」
「ははっ!」
『ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!!~世界が滅びる未来を知った俺達五人はヒーローになる約束をした~』
第二章 『勇気の英雄の激誕 編』 完
第三章 『愛の英雄の誓い 編』へつづく
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『愛の英雄の誓い 編』あらすじ
闇に包まれた輝ヶ丘――黒い炎を操る不気味な狐が暗躍する。
『輝ヶ丘の住民は人類の為に犠牲になるべきだ。
死ぬべき存在を護る必要はない。
英雄などと名乗る無能な奴等は今すぐ出ていけ。』
狐目の男によって、血色の怪文書が輝ヶ丘にばら蒔かれた。
怪文書を見付けた桃井愛の怒りは爆発するが、未だ彼女は英雄の力を持たぬまま。
しかし、力が無くとも彼女は、幼き頃から通う駄菓子屋の店主『お婆ちゃん』こと山下佳代と、憧れの先輩でありアマチュア記者としても活躍する真田萌音の協力を得て"悪"に立ち向かおうとする。
……が、悪魔は残酷な犠牲者を用意する。
愛の涙は明日への希望となるのか、それとも絶望へのカウントダウンか。
敵の策略によって輝ヶ丘を追い出されてしまったガキセイギ達は故郷を救えるのか。
「あなたのことは忘れない、どんなに辛い時でも、どんなに苦しい時でも、あなたを思い出して生きていく。だって、私は――」
愛の誓いは悪を打ち砕けるのか。
怪奇と憎悪が渦巻く悲劇の第三章
『愛の英雄の誓い 編』
お楽しみにッッッッッ!!!!!




