第6話 勇気の心を武器にして 13 ―勇気の心を武器にして―
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「桃井!」
闇が消えると、勇気は振り返った。
その顔には、爛漫とした天使の笑顔が浮かんでいる。
「勇気くん……勝ったの?」
と、愛は聞いたが『この質問はしなくても良かった』とすぐに思った。
何故ならば、勇気の瞳の奥に見えたからだ。
それは闇夜を照らす星々の煌めきに似た光、愛はこの光を《勇気の心》がもたらすものだとすぐに理解した。
「あ……やっぱり答えは大丈夫、勝ったみたいだね!!」
「あぁ、あんなものに惑わされて、本当にすまなかった」
愛が胸を撫で下ろすと、勇気は微笑みに少しの苦味を加えた。勇気は自分自身が恥ずかしかった。本来であれば闇になど惑わされなくて良かったのだから。しかし、苦笑はすぐに消す。やらねばならぬ事があるからだ。
「桃井……渡してくれるかな。俺の腕時計を」
「うん!!」
勇気が右手を差し出すと、愛は急いで制服の胸ポケットから腕時計を取り出した。それを勇気の手の上に置く。勇気が持つべき、《勇気の英雄》の為の腕時計を。
「あっ!」
「あっ……」
直後、二人は吐息を漏らした。
勇気の手に触れた瞬間、腕時計が目映い光を放ったからだ。
「勇気くん……これって、もしかして――」
「らしいな……」
腕時計から放たれた輝きは青い光だった。この光が何を意味するのか、勇気は理解出来た。そして愛も、この光に勇気の瞳の奥に見たものと同じ煌めきを感じていた。
「やったね、勇気くん! 遂に英雄に!!」
愛は我が事の様に嬉しかった。
「ねぇ、勇気くん、緊張する?」
「少しな……」
勇気は青い光を見詰めながら、腕時計を左手首に巻き付けた。すると光は消えた――まるで勇気の体の中に吸収されていく様に。
「だが……緊張している暇はない。正義とボッズーがピンチなんだ。俺は行くよ、二人を助けに!!」
奇しくも、戦場となっている場所は闇の塊がセイギの戦いを見せた事で分かっている。
「うん、頑張って! 私もすぐに追い掛けるから!!」
愛からの声援を貰い、勇気は走り出した。
己の心の中にある武器を爆発させて――
――――
「こんなところで……終わる訳ねぇだろ……」
「おいおい! まだやるの? もうやめた方が良いんじゃない??」
震える足で立ち上がったセイギをピエロは笑った。
「うるせぇ……ナメるなよ………負ける……かよ……」
セイギは再び、大剣を構えた。
「チィ!! いい加減しつけぇなぁ、殺れ、デカギライ!!!」
「了解ッ! BANGッ!!」
しかし、デカギライの弾丸がセイギを襲った。
「……ッッ!!!」
弾き飛ばされたセイギは、今度は仰向けに倒れた。夜空を仰ぎ見る形になる……。
「痛ってぇ……ハァ……ハァ……こりゃ……また……果物をいっぱい………食べないとだな……」
セイギの体は傷だらけだ。
それでも、セイギは希望を失わない。
「ハァ……ハァ……それにしても……ハァ………ハァ……今日は星が綺麗だなぁ………」
夜空に煌めく星々を『美しい』と思える心を失わない。
「そうだなぁ~~お星様はキラキラキラキラ綺麗だよなぁ! だったら、お前もお星様になっちゃおうぜ!! 俺がトドメをさしてやるからさ!! なぁ、どっちが良い? 痛いの? 苦しいの? どっちぃ??」
ふざけた口調でセイギを嘲笑い、ピエロが近付いてくる。
だが、セイギは無視をした。
答える必要の無い言葉だからだ。
「へへっ……つか………綺麗だなんて思えるって事は……ハァ………俺はまだまだ余裕だって事だよなぁ………」
「おいおい、聞いてるの? どっちが良いかって聞いてんだよぉ~~」
「――だったらッ!!」
ピエロが傍に立った瞬間、セイギは傷だらけの体に鞭を打った。
「もういっちょ頑張んねぇとだなッ!!!」
セイギは立ち上がった。
立ち上がると横一線――ピエロの腹に向かって大剣を振るった。
「―――なにッッァァ!!!」
ピエロの腹はガラ空きであった。ピエロは『己の勝ちは確約された』と思い込んでいたからだ。
「グワァァァァァ!!!!」
余裕綽々でガラ空きな腹は斬りやすい。
セイギの斬撃をもらい、ピエロは悶絶する。
「まだまだぁ!!」
セイギは止まらない。
悶絶するピエロはセイギの背後に回った。セイギは素早く振り向いて、今度は縦一線――ピエロの背中に向かって大剣を振り下ろす。
「ナァァァギィィィィィィ!!!!」
痛みに悶えるピエロの叫び声には驚きも含まれていた。それ程にピエロは己の勝ちを確信していた。ならばこその油断が、セイギの反撃を容易くしてしまう。
「………へへっ! こっからだぜ! 俺の大逆転は!!」
「グォォ!! こしゃくなぁ!! いい加減にしろ!!」
真っ黒な血を辺りに撒き散らしながら、ピエロは振り返り、セイギを睨んだ。
「お前なんかが俺様に攻撃して良い訳がないのに、なんて事を!! いい加減にしろ!! いい加減にィーーーーーッ!! もういい、お前の仲間は爆破してやるからなぁ!! デカギライ!! あの風船を撃てッ!! クソガキの仲間をブッ殺せッ!!!」
邪悪な顔で激昂するピエロはデカギライに指示を出した。
指示を受けたデカギライはニヤリと笑い、ボッズーを吊るす風船に銃口を向けた。
「BANッ――!!」
「させるか……」
しかし、デカギライが発砲音を口にし終えるその前に、風を切る音と共に"蒼白く光る線"がセイギ達の頭上を飛んだ。
そして、その"線"はボッズーの所まで飛んで行く。
「何ッ!!!」
この光景を見たデカギライは叫んだ。
――ボッズーを括る風船の糸を"蒼白く光る線"が切ったからだ。
「誰だッ!!!」
ピエロはまた別の方向を見て叫んだ。
ピエロは見たのだ。"線"が風船の糸を切った直後に自分達の頭上を飛び越えた何者かを。
"何者"かの跳躍は高く、地面に向かって落ちていくボッズーを空中で抱き締めると、クルリと回転し、ピカリマートの屋上へと着地した。
「いい加減にするのは貴様等の方だ、悪人共ッ!!!」
月光を背にして振り返った何者かはデカギライとピエロを指差した。
「誰だお前は!!!」
「なんだッ! なんだッ!! なんだッ!!!」
突然の乱入者にデカギライとピエロは叫ぶが、しかしセイギは逆だ。ピカリマートの屋上に立った"彼"を見上げて、仮面の奥でニカッと笑った。
「へへ……来てくれたんだな」
「聞けッ!! 悪人共ッ!!」
何者かは、デカギライとピエロに向けた手を握る。そして、名乗った――英雄としての己の名を。
「勇気の心を武器にしてッ! 青き勇気ッ! ガキユウシャッッ!!! ………これが、貴様らを叩き潰す、二人目の英雄の名前だッ!!!」




