第6話 勇気の心を武器にして 11 ―愛のビンタ―
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「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ケケケケケケケケケケケケケケケ!!!!」
ピエロは何度もセイギの腹を踏みつけた。
「ケケケケケ!! どう? 苦しい? 痛い? ケケケケケケケケ!! おいおい!! 痛いんだったらもっと笑えよぉ!!」
それからピエロはセイギの横腹を蹴り、地面を転がす。
転がる姿にピエロは腹を抱えた。
「ケケケケケケケケッ!! あぁ~あぁ~可哀想にぃ……痛い痛いだねぇ!! ケケケ!! おっとっと! デカギライ、お前にも楽しんでもらわないとか!! ごめんね、俺ばっか楽しんで!! ケケケケケ!!」
次に、ピエロはセイギを羽交い締めにする。
羽交い締めにして、無理矢理に立ち上がらせた。
「さぁ撃て、デカギライ!! 馬鹿な英雄をブッ殺せッ!!」
「フハハハハハッ!! やっと殺せる!! クソガキを殺せるぞ!!!」
銃を構えたデカギライは十数体いる内の一体だけだ。選らばれし者ではない、ピエロの正面に居ただけの存在だ。それ以外のデカギライは腕を組んで笑い、腹を抱えて笑い、胡座をかきながらほくそ笑んだ。一体、一体が各々の形でセイギの死を楽しみに笑っていた。銃を構えたデカギライは興奮しているのだろう、奇妙な場所にある目は血走り、口は舌舐り――舌がビシャと音を立てた直後、二丁の銃は火を吹いた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
セイギの叫び声が寒々とした夜に響き渡る。
弾丸を受けた胴体部からは火花が散る。
英雄の鎧から散る火花はエラーを起こす前触れだ。今は胴体部のみだが、更にダメージを重ねて全身に広がってしまえば鎧は消えてしまう。敵に囲まれた状況で鎧を失くせばセイギに待つものは、当然に"死"のみ。
「ケケケケケ!!」
ピエロはセイギから腕を外した。
支えを無くしたセイギは、糸の切れた操り人形の様にぐにゃりと崩れ落ちる。
「ケケケケケ!! 死んだかなぁ?」
「ハァ……ハァ……」
「ん? 何だよ、まだ生きてるのか」
セイギの呼吸が途絶えていないと知ったピエロは、不愉快そうに舌打ちをしてセイギの頭を掴んだ。
しかし、
「さわ……るな」
俯せに倒れるセイギは、ピシャリとピエロの手を払った。
「こんなところで……終わる訳ねぇだろ……」
セイギはまた立ち上がる。震える足で再び。
どんなに傷ついても、セイギは決して諦めない。燃える闘志がある限り、正義の心が燃え続ける限り、セイギは立ち上がり続けるのだ。
―――――
『我を、受け入れろ、受け入れるのならば、お前が友と呼ぶ者の、命は、助けてやる、』
「やめろ……やめてくれ……」
勇気の脳内には謎の声が響き続けていた。
その声は、風見の山中で聞いた声と同じもの……。
『ならば受け入れろ、我を、受け入れろ』
「正義に……手を出すな」
脳内に響く声に惑わされる勇気は、視界を奪われてしまっていた。それは文字通りに。勇気の瞼は開いているが眼前に広がっている筈の景色は何も見えない。何故だろう、代わりに見える光景は、ピエロとデカギライによって嬲るセイギの姿だった。
「正義に……手を出すな」
『なら、ば、我を受け入れろ』
「正義を殺さないでくれ……」
勇気はセイギが攻撃を受ける度に願い続けていた。願いが叶う事はなかったが。それでも勇気は願い続けた。勇気の中に、悪に立ち向かう心があるからだ。
「正義に……手を出すな……」
『なら、ば、我を受け入れろと、言っているであろう』
「……手を出すな……代わりに俺を殺せ」
『何、』
「殺せ……殺すなら俺を殺せ……」
『何を、言っている、お前は死ぬ事を恐れているのだろう、英雄気取りは、やめろ、』
「違う……俺が本当に怖いのは……」
―――――
「勇気くん!ねぇ、どうしたの! しっかりしてよ!!」
愛は錯乱する勇気の目を覚まそうと懸命に呼び掛け続けていた。
勇気は歩道の中央で座り込み、頭を抱えて「やめろ……やめろ……」と呟いている。
辺りを歩く人達は、二人を不審な目で見て声をかける事はしない。
「ねぇ、どうしちゃったの勇気くん! 私どうしたら良いか分かんないよ!」
「殺せ…………殺せ……」
「え?!」
頭を抱える勇気の手がわなわなと震え出す。
「違う……」
直後、勇気は立ち上がった。
「俺が本当に怖いのは……」
虚ろな目をして、勇気は歩き出す。
「勇気くん!! ちょっと止まってよ!! 何してるの?!」
愛は勇気の前に回り込み、その腕を取った。だが、勇気は止まらない。止まらぬどころか、勇気は強い力で愛の手を払った。
「痛ッ!!」
手を払われた愛は躓いてしまう。
「俺が怖いのは……自分の死よりも……」
「ちょっと勇気くん、痛いじゃん!!」
倒れた格好のままで愛は拳を握った。勇気を見上げ、激しく睨んだ。
これまでの愛は勇気を心配していた。訳の分からぬ行動ばかりを取られても、愛にとって勇気は大事な友達だ。怒りを抱きはしなかった。しかし、邪魔者かの様に扱われては話は別だ。愛の心配は、躓くと同時に怒りへと変わった。
「さっきから何してるの! 答えてよ!!」
愛はすぐに立ち上がり、再び勇気の前に立った……が、
「え……?」
立ち上がった時、愛の視界に映った物がある。それはパトカーだ。一台のパトカーが輝ヶ丘の人々に避難を呼び掛けながら、愛と勇気が居る場所に向かって走ってきていた。
「や、やばい……」
愛は焦った。
― 今の勇気くんは明らかに不審者……もしも警察に見付かったら捕まっちゃうかも!!
……と。
「勇気くん!! 目を覚まして、パトカーが来てるよ!!」
焦った愛は再び勇気の腕を取るが、やはり無理だった。勇気は変わらない。そしてパトカーは更に近付いてきている、愛の焦りは増していく。
「このまんまじゃ捕まっちゃうよ! お願い、目を覚まして!!」
どんなに大声で呼び掛けても、勇気は変わらない。目は虚ろなまま、愛の声が届いていないと分かる。それでも愛は呼び掛け続けた。
「ねぇ、本当に止まってよ!! じゃなかったら無理矢理目を覚ますからね!! 良いの、 叩くよ!! ねぇ、ねぇってば!!!」
「俺が本当に怖いのは……恐れているのは……」
「もう、さっきから何で変な事ばっかり言ってるの……ねぇ、普通に戻ってよ!! ねぇ、私もう知らないからね!!!」
愛の覚悟は決まった。
「行くよ、私本当に叩くからね、1、2、3で行くよ、良いの!! 最後の警告だよ!! 良い、行くよ、1……2……もう、知らないっ!!」
愛は「3っ!」と叫ぶと、勇気の頬に向かってロケットの様に右手を飛ばした。
バチコンッ―――
強烈なビンタが勇気の頬を打った。




