第6話 勇気の心を武器にして 9 ―俺は覚悟を決めたんだ!!!―
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煙となったピエロは二月の暗い夕闇の中に溶けていった――
「デヤッ!! ドリャ!! トリャアッ!!!」
戦いのゴングが鳴ると、セイギはデカギライとの戦いを始めた。戦場を駆け回り、跳び回り、弾丸を斬り続け、避け続け、懸命に戦った。
しかし相手は十数体もいる、しかも取り囲まれている状況なのだから弾丸は全方向から飛んでくる。弾丸を斬っても、避けても、攻撃には転じられていなかった。
だが、セイギは焦らずに冷静さを保っていた。何故ならば――
― デカギライの奴、余裕綽々だな。動こうともしないぜ。二丁拳銃になっても攻撃が一辺倒だからパターンも読みやすい。俺を籠の中の鳥にして優位に立ったつもりなんだな。でもな、お前との戦いは重ねた……重ね過ぎたぜ!! 今の俺はそう簡単には弾丸はくらわねぇ、それに、分身しても動かないまんまじゃあ、本体がどれなのか分かったままだぜ……
そうだ。セイギは弾丸を避け、そして斬り回りながらも、常に本体を目の端に捉え続けていた。夕闇に染まった状況では常人ならば視界不良であろうが、英雄ならば問題はない。今回は前回とは違い、分身を生み出した瞬間を目撃出来ているのだから本体は確実。この状況がセイギに冷静さを与える。戦いの場所が何処なのかも理解するくらいに。
― ここはピカリマートの駐車場だな。ピカリマートは、空が割れた日に俺と芸術家が戦場にしたせいで休業になったって愛が言ってた。悪いけど、今は助かる。車一台止まってないし、人も居ない。飛んでくる弾丸が見やすいぜ!!
― 駐車場の周りにも人が居ないな……避難が呼び掛けられているのか? いや、今はそれを考えてる暇はない。考えるのはどうやって本体に攻撃を仕掛けるかだ。時間は限られてる。やっぱジャスティススラッシャーか……でも、本体に向かって真っ正面からは無茶だな。俺がジャスティススラッシャーを放った瞬間に、本体が逃げ出すのが目に見えてる。分身も残ったまんまで本体を逃したんじゃ、ただ自分を不利にするだけだ……
― じゃあ、やっぱり修行した大回転のジャスティススラッシャーを使うか? そうすれば多分、本体以外の奴らは倒せる。だけど、それじゃあ分身を倒す為だけにジャスティススラッシャーを使うって事になる。せっかく溜めた力も一度使えば失くなる……二度目を放つにはまた弾丸を斬って力を溜めないとになる、でも時間は限られてるんだ、一度使った後にまた本体を倒し切るくらいの力を溜める時間はあるか?
― いや、無いよな。だったらジャスティススラッシャーに頼らずに俺は本体を倒さなきゃならねぇ……それが出来るか? どうする? 自分自身に賭けてみるか……いや、まだ考えろ、他の方法があるかも知れない。それに―――いいや! 迷っちゃダメだ、決めた筈だ!! 俺は覚悟を決めたんだ、デカギライを倒すって!! じゃなけりゃボッズーが……
ピエロが課したルールに従うと決めた時から、セイギは『デカギライを倒す』と覚悟を決めたつもりであった。しかし、その覚悟が揺らいだ。何故ならば、デカギライは《王に選ばれし民》にバケモノに変えられただけで本来ならば人間である。『デカギライを倒す』という事は『人を殺す』と同じなのだ。
ボッズーが自由であれば《俺のガチ本気モード》を使ってデカギライを人間に戻せるが、ボッズーが囚われている現状では不可能。ピエロのルールに従うと決めた時点で、セイギは人間の命を奪う覚悟を決めなければならなかったのだ……が、その覚悟が一瞬揺らいだ。
「セイギ……ダメだ……人を殺しちゃ……」
「え?」
セイギの心の揺らぎに呼応する様に、ボッズーの声が聞こえた。
それはとてもか細い声だ。戦闘の最中にそんな細い声が聞こえる筈がない。その為、セイギは驚きかけるが、すぐに気付いた。『ボッズーが通信を送ってきているんだ!』と。
変身している間の通信は腕時計ではなく仮面の中に届く、ガキセイギの仮面の中に響くボッズーの声が「人を殺しちゃいけない……」とセイギに願い続ける。
「セイギ……絶対にダメだぞボズ……お前は世界を救うんだ……人を殺しちゃいけないボズ」
「でも、そんな事言ってもデカギライを倒さないとボッズーが!」
「それでも……ダメなんだボズ……セイギは……《正義の心》を汚しちゃいけないボズ………付け入る隙を与えちゃダメだボズよ………」
「付け入る隙……?」
「………」
「おい、おい!」
「………」
「ダメだ、気を失っちまったのか……」
― ボッズー、ごめんな。でも俺はお前を助けたいんだ。やるしかないんだ。やるしかないんだよ!!
セイギは大剣の重さを確かめた。
― ここまで溜めればデカギライは倒せる……ジャスティススラッシャーの準備は出来た!!
前回の戦いでは、本体は逃してしまったものの、ジャスティススラッシャーを放ってデカギライを一掃出来た。あの時の大剣と現在の大剣の重さは同じ。セイギは『いける!』と踏んだ。
― やるぞ……やってやる。後はどうやって攻撃を仕掛けるかだ!!
セイギは空中にいた。跳躍して弾丸を避けたばかりだからだ。
上空からセイギは戦場を見回す。
― マジで何もないな……車一台も無い。弾丸を避けるにも、斬るにも、見晴らしがいいのは良いけど、こっちが攻撃するってなると逆だな、隠れる場所が無さ過ぎて本体に近付くのがムズい。やっぱり新技を使って分身を倒して本体を一人にするか……いや、違う、そうだよ! デカギライとの戦いで積んだ経験はまだあった!!
セイギはドンッ! と地面に降りた。
それから、目の端で本体を捉えながらセイギは大剣を構える。そんなセイギに向かって弾丸が飛んでくる。大剣を構えたのだから、セイギに避ける気はない。斬るだけだ。大剣を振り回し、飛んでくる弾丸を相手にする。
「デリャ!! トリャアッ!!! テェェイッ!!!」
― 来い……来い……早く来い……
セイギは弾丸を斬りながら待つ――それは何か、それは本体と対極の場所に居る分身が放つ弾丸だ。その弾丸はセイギに切っ掛けを与えてくれる筈の弾丸である。
― へへっ! 思ったよりも早い! 来たぜ!!
セイギは狙い通りの弾丸が発砲されたと見ると、ギリギリまで邪魔な弾丸を斬り続け、待っていた弾丸だけを残す。
― さぁ、来いッ!!!
それから、構えた大剣を下ろした。
「うぅわッーー!!!!」
無防備な胴体に弾丸が命中した。
セイギは宙を舞った。
舞ったがセイギは笑う。仮面の奥でニヤリと笑った。
デカギライとの連日の連戦でセイギは学んでいた。弾丸を受ければ、どの程度の痛みがあるのかを。それは英雄のボディスーツが守ってくれているからだろう、一発では怪我もしない程度である。
そして、弾丸を受けた後に自分はどの程度の距離を弾き飛ばされるかも学んでいた。踏ん張れば踏ん張り度合いで変わっていくが、踏ん張らなければ大体が十m程。現在のセイギとデカギライとの距離も同じく十m前後、踏ん張らずに無防備に弾丸を受ければ、一気にデカギライと距離を詰められる。
だから、やった。セイギは業と弾丸を受けた。
飛ばされる方向には本体がいる。今回は分身を生み出す瞬間を目撃しているのだから確実な本体だ。
飛んでいく最中、セイギは空中で体の向きを変えた。向けるは当然、本体の方向。
「ウォーーーー!!!」
体の向きを変えたセイギの眼前には狙い通りに本体が居た。
「ジャスティススラッシャーッッッ!!!」
セイギは大剣を振り下ろす。
振り下ろせばジャスティススラッシャーが本体に向かって飛んで行く。浮かび始めた月の光と、ジャスティススラッシャーの目映さが混じり合う――直後、セイギの目は眩んだ。本体が爆発したからだ。




