第6話 勇気の心を武器にして 4 ―アイツに分からせなければならない……俺は英雄ではないと―
4
願いの木が立つ部屋で大剣を手にするガキセイギは仮面の奥でニカッと笑った。
「やっっっっっと出来たぜ!!」
セイギの特訓は終わった。
彼の周囲には木屑が散らばっている――願いの木に願って出現させた"的"の残骸だ。
「ふぅ……疲っかれたぜぇ!!」
セイギは腕時計の文字盤を叩いて変身を解除すると、クローバーの絨毯にベタンッと座った。
「やったなボッズー! これなら百発百中で"あの時のジャスティススラッシャー"が出せるぞボッズー!!」
「あぁ、腕がパンパンだぜ! でも、これで行ける!」
正義は願いの木に願って自分の周囲にデカギライと同じ形をした"的"を五十体出現させた。
その五十体全てを一瞬で粉砕出来るジャスティススラッシャーを百発百中で繰り出せるまで正義は剣を振り続けた。それこそ百回以上は剣を振るった。
「あとは勇気が来れば万事OKだボッズーね! でも、本当に勇気は来るのかボズぅ?」
正義の周りをボッズーは回る。
ボッズーの手にはバズーカが握られている。これも願い木に願って出現させたバズーカだ。このバズーカから発射されるエネルギー弾を斬って、正義は何度もジャスティススラッシャーを放ったのだった。
「おいおいボッズー、俺を信用してくれたんじゃなかったのか?」
「う~ん……そりゃ信じるって言ったけど、やっぱりちょっと心配だボズぅ」
「へへっ、そっか、そっか、でも大丈夫さ! アイツは来るぜ! 勇気は《勇気の心》を持ってんだからさ!! それは、アイツが俺に腕時計を渡した時に証明されてんだ!!」
「ふぅ~ん……そっかボズぅ」
「何だよ、まだ何か言いたのか?」
「う~ん……何でもないだボズよ。分かったボズ!」
「へへっ! ならOK! それより技の名前、どうすんだ? 決めてくれよ!」
この質問でボッズーの表情は明るく変わった。
「そりゃあ、決まってるだボズよ! "大回転ジャスティススラッシャー"だボッズーッ!!」
―――――
「卵焼きにチキンライスって、ねぇ勇気くん、これってオムライスの事だよね?」
「そうだな……」
勇気は静かに頷いた。
「ねぇ、何でオムライスなの? せっちゃんは今の言葉を聞けば、勇気くんなら意味が分かるって言ってたけど、どういう意味??」
愛はメモ帳をテーブルの上に置くと、再びパフェを食べ始めた。
「意味……そうか、あの時は男女で分かれていたから桃井は見ていないのか」
「あの時?」
「いや、昔話だよ。そうか、あんな昔の事を覚えているのは俺くらいだと思っていたが、正義もだったか――」
そう言うと勇気はパンを一つ手に取り、ちぎり始めた。
「確かに、これは俺と正義にしか分からない言葉だな」
「あっ、食べるの?」
「あぁ、今の言葉を聞いて、俺は決めたよ。その為にはやはり少しは食べておかないとな……」
「決めた……あっ!もしかして英雄に戻るって事?」
勇気の言葉を聞いて愛の瞳は輝く。
……が、愛の期待は簡単に否定されてしまう。
「いいや、その逆だよ。俺は今すぐに輝ヶ丘を出る。やはり正義に分からせなければならない、俺は英雄ではないと……」
勇気はパンを一切れ頬張った。
逆に、愛の手は止まった。
「えっ、ちょっと待ってよ……せっちゃんの言葉の意味が分かったんでしょ。だったら何でそんな事言うの? せっちゃんが勇気くんに『出ていけ』って言ってるの、違うでしょ?」
勇気はもう一口頬張り、首を振った。
「出ていけ……? いいや、その逆だよ。逆だからこそだよ。アイツには分からせないといけないんだ。本当に英雄になるべき人間を探すべきだと、俺には拘るなと、何故ならそうしないとアイツは――」
勇気は一瞬言い淀んだ。次の言葉は口にしたくはない言葉だからだ。だが、愛には言わなくては自分の考えが伝わらないとも理解出来る。
勇気は躊躇いながらもこう言った。
「――このままじゃ、アイツは死ぬ事になる」
「死ぬ……」
愛の眉間に、深い皺が寄った。
「なにそれ……ちょっとさ、自分が何を言ってるのか分かってんの!!」
勇気の発言は愛の逆鱗に触れた。
愛は声を荒げて立ち上がるが、勇気は目を反らす。「事実だよ……事実なんだよ」と告げて、"自分にとっての事実"を淡々と説くだけ。
「世界を救うには五人の英雄が必要なんだ。その一人が欠けているんだ、そんな状態でどうする」
「だからそれは! 勇気くんが!!」
「桃井、いい加減にしてくれないか。無理だと言っているだろ。俺には無理なんだ……」
「何で! 何でそんな!!」
「もう良いだろ、答えは決まっているんだ。俺はもう行く――」
中途半端に食したパンを置き、勇気は立ち上がった。
「桃井、正義を頼んだぞ……」
「ちょっと待ってよ……」
その時だ――
「フハハハハハハハッ!!!」
何処からか、デカギライの高笑いが聞こえてきたのは。




