第6話 勇気の心を武器にして 3 ―すみませーーーん!ジャンボチョコソフトパフェくださーーい!―
3
愛が何故大食いに走るのか、その理由はおやつの時間を一時間も過ぎて腹が空き過ぎてしまっていたから……ではなく、三時間前に勇気のバッグを壊してしまったからだ――
「ごめん……」
バッグが破損した直後、愛はすぐに謝った。
自分が強引に引っ張ったせいだ……と。
「いや、謝る必要はない。俺もやり過ぎた。それに昔から使っていた物だ。元から弱くなっていたんだろう……」
勇気はそう言うと「代わりの物を探すよ」と家の中を探し始めた。見付かった物は勇気の母が使っていた派手なピンクのキャリーケースだけだったが。
「仕方がない……買うしかないか」
探す事を諦めた勇気は「俺は家を出る。桃井も出てくれ」と言った。
この時まではバッグを壊してしまった事への罪悪感で愛は意気消沈としていたから、勇気の言葉に素直に従ってしまった……が、家を出ると思い出した。
『あっ! 勇気くんを止めなきゃ!!』
……と。「ちょっと待って!」と愛は歩き始めた勇気を追い掛け、そして説得を始めた。それでも勇気の足は止まらなかったが。
だから愛はついていった。
「せっちゃんが待ってるよ!」
「せっちゃんが勇気くんを求めてる!」
と言いながら。
対して勇気は「ついてくるな」「あっちへ行け」と冷たい言葉で答えるばかり。更に「それは正義の間違いだ。俺は本来ならば英雄に選ばれる人間ではなかったんだ。正義が俺を求めるのであればこそ、俺はアイツから離れなければならない……」と、返すだけだったが。
対して愛は「私はそうは思わない! 勇気くんは英雄になるべき人だよ!」と言い返すが、結局これも『それは正義の間違いだ』から「それは桃井の間違いだ」と言葉が少し変わるだけで効果はなかった。
そこで愛は考えた。『ぐぬぬ……負けて堪るか!絶対に勇気くんを止めてやる!! そうだ、勇気くんは私達から離れなきゃいけないって考えてるって事は、私が絶対に勇気くんから離れなければ良いんだ! そしたら勇気くんも英雄を辞めるの諦めてくれるかも!!』と。
この考えに至り、愛のしつこさは増していく。
『勇気くんに何処までもついていく! 山を越えても、谷を越えても、河を渡り、吹雪に見舞われ、風に吹かれ、雷に打たれても、何処までも何処までもついていってやる!!』
……と。
勇気も勇気で、愛を撒こうと急に走り出したり、突如裏道へと入っていったりした……が愛は不死身だった。必死に勇気に喰らい付いていった。
その内に勇気は疲れを見せ始め、愛を撒こうとする事を止めた。「何なんだよ……勘弁してくれ」と溢しながら。
その後の勇気は歩幅も小さくなり、愛は追い掛ける形でなく勇気の隣を歩ける様になった。
そのすぐ後、二人は住宅街から大通りへと出た。出ると愛は、友達の果穂からオススメされていたカフェがすぐ近くにあると思い出す。
思い出すと思い付く、勇気を足留めする為の作戦を。
「ねぇ勇気くん! お腹空かない? 喉乾かない? お茶しようよ!!」と愛は誘った。
勿論、この誘いに勇気が乗る筈はなく「行かないよ……」と冷たく言い放って歩みを続けたが、「バッグ買いに行くんでしょ? どんなのにするか決まってる? 何処で買う気? 決まってないならその前に相談だ!」……と、愛は勇気の手を強引に取って、引き摺った。やはり愛の力は強い。疲れを見せる勇気を簡単にカフェへと連れ込んだ。
そして「勇気くん! いっぱい食べようね!!」と色々な物を注文した。
パフェは勿論、オムライスにジュース、パンに牛乳――それから更に「あっ……大変! お金忘れちゃった!!」と、下手な芝居も打ってみた。
勿論これは大嘘で、会計の時に『あっ! 鞄の中に財布あったよ!!』と言い出すつもりであった。
愛が嘘を付いた理由は勇気が店から逃げ出さないようにする為である。料理が到着してから『お金がない』と言い出せば、勇気は『仕方がない、俺が奢るよ』と言ってくれる筈と考えたのだ。
「金が無い? はぁ、仕方ない……俺が奢るよ」
やはり二人は友達だ。愛の読みは当たった。
「じゃあ……これで払ってくれ」
「あっ! すみませーーーん!! イチゴパフェ追加でーーーッ!!」
「え……」
始めは勇気も金だけを置いて店を出ようとしたが、愛はそこでまた新たな注文をして勇気の足止めを謀った。
愛が続々と注文を加えると、勇気は暫くして諦めた様子を見せ始めた。グッタリと夕空を見上げ、ほどなくして力無く項垂れてしまった。
十六時を回り、愛は小さくえずく。
「うぇっぷ……」
―――――
「よくそんなに食べられるな……」
ジャンボチョコバナナパフェが届くと勇気はチラリと顔を上げた。
「お腹空いてるからねぇ~~」
「そうか……」
普段の勇気ならば、愛が自分の足留めを謀っていると気付いただろうが、今日の勇気は愛の下手な芝居に気付かなかった。勇気がこの二日間で摂取した物は水と珈琲だけだ。栄養不足で頭が回らないのだ。
「だが、桃井……さっきからパフェばかり食べているが、コレはどうするんだよ」
勇気はオムライスとパンの皿を人差し指でコンコンと叩いた。
「それは勇気くんのだよ!」
勇気の質問に愛がニッコリと答えると、勇気は「俺の……?」と首を傾げる。
「うん!」
「いや……いらないが」
「何で、勇気くんパン好きでしょ?」
「パンは好きだが……今は食べる気にはならない。それに、何故オムライスなんだ」
勇気はオムライスを見るとどうしても昨晩見た夢を思い出してしまう。正義と出会ったあの頃を、思い出してしまう。
「う~ん……何となくかなぁ」
愛は軽い調子で答えた。
「何となく?」
「うん、何となく」
……と愛は言うが、オムライスを選んだ理由は全くのゼロからの発想ではなかった。
「あ……でも、ちょっと理由があるかも」
「理由……?」
「うん、ちょっと待って……」
そう言うと愛は鞄からメモ帳を取り出した。
「せっちゃんがね、勇気くんに伝えてくれって言ってた言葉があるの。それがその理由。『大事な言葉だ』って言うからメモしたんだけど――」
「正義が、俺に……大事な言葉?」
「うん」
勇気はテーブルに肘をついた。栄養不足のせいか、それとも『正義からの大事な言葉』と聞いて妙な緊張を覚えたからか、頭痛が走ったのだ。
「えっとね、言うね」
愛は小さく咳払いをすると、メモ帳に書かれた言葉を読み上げ始める。
「『今度は俺が卵焼きで、お前がチキンライスだ』……だって」




