第6話 勇気の心を武器にして 2 ―ブチッ!!バラバラバラバラ―
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「あっ……居た!!」
「あ……」
突然にインターフォンの呼び鈴が鳴った事に驚いて、勇気は思わず扉を開けてしまった。その動作は極々自然に、当たり前の様に。無視する事は出来た。開くにしても、誰が訪ねて来たのかを確認してからでも良かった。否、開いた瞬間の勇気は『そうするべきだった……』と思った。
……が、後の祭りだ。勇気の顔は青く染まった。
「嘘ぉ! 一か八かだったのに!!」
ドアを開くと立っていた人物は桃井愛だった。
勇気は固まってしまう。『しくじった……』勇気はそう思った。何故ならば、愛はいま現在一番会いたくない人物の一人なのだから。
「………」
だから、勇気は無言で扉を閉めにかかる。
「ちょっ……ちょっと待ってよ!!」
だが、愛は素早い少女だった。そして力が強い少女でもある。勇気が扉を閉めきる前に素早い動作でドアノブを掴んだ愛は、強引に扉を開いてしまったのだ。
「な……何をするんだ」
「何をするんだ、じゃないでしょ! 勇気くん、家に居るならちゃんと教えてよ!!」
愛の言葉や、言い方、表情、勇気はそれがどの感情なのか読み取れなかった。
喜びなのか、怒りなのか、そのどちらにも見える。
「私、何回も勇気くんに電話したんだよ! 電話だけじゃない、メールもいっぱいしたし! 全部無視して! スッゴい心配したんだから!!」
愛の感情が何なのかを分析する時間は与えられない。扉を開いた愛はズカズカと家の中にも入ってきてしまったから。
「お……おい、入ってくるな。やめろ!」
勇気は困惑した。『最悪だ、こんな筈じゃなかった』『最悪だ、何でこんな事になった……』二つの言葉が頭の中で渦を巻くも、勇気にとっての最悪は尚も続いた。
「あれ? ソレなに??」
玄関の隅に置いていたボストンバッグを愛が見付けた。
「……もしかして、本当に出ていくつもりなの?!」
「あぁ……その」
『つもりだ……』と勇気が言おうとした瞬間、その言葉を先読みしたのか、愛がボストンバッグを手に取った。
「ダメ!! 行かせない!!」
「あっ! 待て!!」
勇気は慌てて手を伸ばす、ダラリと垂れたショルダーベルトを手に取った。
「出ていくなんて絶対ダメだよ!! 今すぐせっちゃんの所に行こう!!」
「やめろ、桃井、放せ!!」
勇気はバッグを奪い返そうとショルダーベルトを引っ張るが、愛の力も強く簡単にはいかない。
「桃井、放せッ!!」
「ダメッ!!」
どちらも譲らず、二人は綱引き状態になった。勇気がショルダーベルトを、愛が持ち手を持って、二人は引っ張り合う。
ブチッ!!
……嫌な音がした、直後、
ブチブチブチブチッ!!
更に嫌な音がした。
「うわっ!!」
「キャッ!!」
バラバラバラバラ……
二人の力が強過ぎたのだ。バッグの胴体がビリビリと裂けた。
「あぁ……」
「えぇ……」
広い玄関に尻餅をついた二人は呆然とした表情で同じ言葉を呟く。
「嘘……だろ」
「嘘……でしょ」
―――――
それから三時間後――
「何故こうなった……」
勇気は蚊の鳴く様な声で呟きながら、虚ろな目で空を見上げていた。夕暮れが近付いてきた空には雲が一つ、ただ一人、大空を孤独に闊歩している。
「俺もあの雲になりたい……」
「ん? 何か言った?」
勇気は視線を下ろした。目の前に居る人物は勿論、桃井愛。愛はニッコリと笑っている。
「それを食ったら、俺を自由にしてくれと言っているんだ……」
「ふふん」
愛は笑った。勇気の言葉に返答せずに、ただ笑い、パフェの苺をパクリと食べる。続けて辺りを見回し、
「すみませーーーん! ジャンボチョコバナナパフェもくださーーい!」
新たな注文を加えた。
バッグが壊れて三時間後、二人はカフェに居た。輝ヶ丘に最近開店したばかりのカフェだ。お洒落なオープンテラスのあるカフェである。
「まだ食べるのか……」
勇気は項垂れる。もう、空を見上げる元気もない――
「うぇっぷ……」
勇気が項垂れると、その隙に愛は小さくえずく。何故ならば、彼女は大食漢ではないからだ。だが、たった今注文した物でパフェは五個目だった。
― まだよ……まだ堪えるのよ……私!!
これは苦肉の策だった。勇気を引き留める為の……愛の苦肉の策だった。




