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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第5話 俺とお前のオムライス 17 ―正義と勇気……そして、山田―

 17


「やめろ山田!! 約束しろっての!!」


 二度目の拳を受け止めたのは正義だった。正義は地面を強く踏ん張り、両手で山田の拳を受け止めた。


「そうだ!! 約束してくれ!!」


 続けて勇気も叫んだ。


「何なんだ……何なんだよッ!!」


 山田は混乱していた。今までこんな喧嘩は無かったからだ。これまで山田が経験した喧嘩は、山田が殴れば向こうも殴るという分かりやすいものばかりだった。しかし、今日の喧嘩はそれとは違う。


「お前ら意味が分かんねぇよ!!」


 混乱しながら山田は、掴まれた二つの拳を海中で踠く様に振って二人の手から逃れた。そして大股で一歩、二歩、三歩と後ろに下がる。


「うおぉぉお!!!」


 猛牛が如く雄叫びを上げた山田は、正義と勇気に向かって全速力で走り出した――巨漢を活かしたタックルで二人を撥ね飛ばそうと考えたのだ。


「やめろ山田!!」


 だが、これもまた止められてしまう。

 止めたのは正義だった。正義は走り来る山田に向かって自ら駆けて、両手を突き出して山田の動きを止めたのだ。


「何でだよ、何でお前なんかに止められるんだッ!!」


 正義と山田の体格差はかなりある。『チビの赤井が全速力の俺の動きを止めるなんて!!』と山田は驚いた。

 でも、それは山田が知らなかっただけだ。人が人を想う時、人は人智を超えた力を発揮するという事を。


「何なんだよもう!! 意味が分からないッ!!!」


 小さな体では有り得ない力を発揮する正義の事も、顔面が鼻血で染まっていても『約束してくれ!』と諦めない勇気の事も、山田は理解出来なかった。二人は山田にとっては理解不能な存在、想像のつかない存在であった。混乱の極致に至った山田は「もうヤダよ!!」と駄々を捏ねる様な口調になり、正義の両腕を掴むと『あっちいけ!』と言わんばかりの強い力で押した。


「うわっ!!」


 押された正義は川へと落ちた。正義の全身はずぶ濡れになるが、


「ちきしょーー!!! 約束しろってぇーー!!」


 とすぐに立ち上がり、山田に向かって再び走り出していく。


「来るなって!!」


 混乱状態の山田は向かってきた正義を再び押し返した。すると、今度は「正義くんを傷付けるな、約束をするんだ!!」と声を張り上げた勇気が向かってくる。


「お前等、しつこいって!!」


 山田は勇気も押し返した。こちらも川へ落とすが、鼻血にまみれた勇気も倒れはしなかった。すぐに川から出てきた勇気は再突進してくる。


「やめろ! やめろよぉーーー!!!」


 山田の口調は駄々を捏ねる様な口調から、徐々に悲鳴に近い口調になっていく。


 山田は再び勇気を押し返した。だが、しかし、勇気はまたも倒れなかった。またも起き上がり、山田に向かって走ってくる。

 正義もそうだった。何度も何度も山田に向かってきた。押し返されてはずぶ濡れになり、泥まみれにもなった。だが、また山田に向かって走り出す。

 二人は「約束しろ!」「約束してくれ!」と何度も何度も口にして、何度も何度も押し返されても、何度も何度も川に落とされても、何度も何度もずぶ濡れになっても、諦めようとはしなかった。

 正義が来ると、次には勇気が来て。勇気が川に落ちると、正義が向かってくる。正義がずぶ濡れに、泥まみれになれば、その逆だ。

 二人が何度も何度もなのだから、山田も何度も何度も繰り返した。正義が来ては押し返し、勇気が来ても押し返す、山田も何度も何度も何度も続けた――



 三人の攻防はずっとずっと続いた。



 押し返されては走り出し、



 走って来られては押し返し、



 繰り返し、繰り返し、走って、走って、押し返し、押し返し、





 そしていつしか――





 山田は笑っていた。



 ―――――


 何故、山田は笑顔になったのだろうか。


 それは何度も押し返されても諦めず、ずぶ濡れになっても、泥まみれになっても、手足をグルグルと回しながら突進してくる正義の姿がミニチュアダックスフンドに思えたからか。

 それとも整った顔を鼻血と泥と更には鼻水でグシャグシャにした勇気の姿が、失敗したハロウィンのメイクに見えたからか。

 それとも何度も何度も正義と勇気を押し返す自分自身が、相撲のぶつかり稽古の相手をする親方に思えたからか……理由は山田すらも分からない。


 けれど、気が付けば山田は笑っていた。


 ――大人になった時、もしも山田がこの日を思い出したのならば、きっとその時に気が付くのだろう。『自分が笑顔になった理由は正義と勇気の二人の間に強い友情を感じたからだ』と。


 二人の友情は山田に向けられた物ではなかった。けれど、二人の突進こそが二人の友情の証だった。この友情の証を何度も何度も全身で受けた山田にも二人の気持ちが伝染しても可笑しくはない。


 山田はまだ小学二年生だ。いくら乱暴者でも性根までは腐ってはいない。だから、二人の突進を受けている内に山田は心の上澄みではなく根っこの方から影響を受けたのだ。

 そして理由は分からなくとも山田は笑い、正義と勇気の二人を『良い奴だ』と思った。『面白い二人だ』とも。


 これまでずっと、山田は正義と勇気が嫌いだった。

 理由は子供らしくも複雑なものだ。友達が多くてお調子者であり、尚且つ何度も腕力を見せつけても思う通りにはならない存在の正義を『ウザったい』と思いつつも、どうしても一目置いてしまう自分がいたからだ。

 そんな自分を認めたくないから、山田は正義が嫌いだった。

 そして、勇気に対しては羨ましさがあった。

 山田は新聞記事に載る程の活躍をした父親を持つ勇気が羨ましくて仕方がなかったのだ。

 山田の父は酒と女に溺れて家庭を顧みない。父の代わりに働く母は常に愚痴を溢すばかり……だから山田は勇気の父を罵倒した。羨ましさの裏返しで勇気に苛立ち、酷い言葉で蔑んだ。でなければ誇り高い父を持つ同級生と自分自身の人生が真逆過ぎて、惨めさに押し潰されしまいそうになるから。


 だが、正義と勇気を『良い奴だ』と認めてしまって山田は気が付く。『二人と友達になりたい』と思っていた自分に。

『羨ましい』と『ウザったい』と思いながらも、本心ではずっと二人を気になっていた自分に山田はやっと気が付いた。

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