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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第5話 俺とお前のオムライス 14 ―正義くんを巻き込むな!―

 14


 二時間目が終わり小休憩に入ると、勇気は立ち上がった。正義と話しをする為だ。

 背の高い勇気の席は教室のすみ。窓に一番近い列の一番後ろ。背の小さい正義は教室の入り口から数えて二列目の一番前の席である。

 勇気は正義の所まで早足で向かうと「ねぇ正義くん……」と話し掛けた。


「なにぃ~?」


 正義は机の中を覗き込んで二時間目で使った教科書やノート等を不器用そうに仕舞おうとしている。


「今日の遊びなんだけどさ……」


「おう! ランドセル置いたらパンダ公園に集合な!」


 机の中を覗きながら快活な声で正義は答えた。正義は教科書とノートを仕舞う事は出来た。でも、筆箱がまだ残っている。正義の机の中には教科書等以外にも何か別の物が入っているのだろうか、隙間を開ける感じで長方形の筆箱をガタガタと揺らして無理矢理に突っ込もうとしている。


 そんな正義に向かって勇気は静かな声で「いや……」と首を振った。


「それなんだけどさ」


「んぅ? なにぃ~?」


 正義はまだ机を覗き込んでいる。筆箱は、机の中に全然入っていかない。


「今日さ……」


「なにぃ?」


 勇気は愛と約束をした。『正義くんは行かせない』と。それは自分自身とも交わした約束でもある。


「……今日さ、塾の特別授業が入っちゃったんだ。だから、遊ぶのは明日にしよう!」


 だから勇気は嘘を言う。嘘をつく事は緊張するが、それでも勇気は言わなければならないから。

 そして、正義に向かって笑顔を見せる。


「え……そうなの?」


 正義はやっと顔を上げた。

 勇気と正義の目と目が合う。

 戸惑う正義に、勇気は更に続ける。


「うん、だから今日は隆くん達と四人で遊んで! そうだ、皆にも正義くんのオムライスを食べさせてあげたら? 正義くんの家で! きっと喜ぶよ! ねっ約束!」


 勇気は早口で言うと、小指を立てた右手を正義に向かって差し出した。


 ―――――


 正義との遊びを断った勇気は、帰宅後、自室に籠った――嘘をついたのだから塾の特別授業はない。


「そろそろ……時間か」


 勉強机の上に置かれた時計を見て、勇気は呟いた。時刻はそろそろ十六時。勇気は部屋を出る。そのまま自宅を出て、目的地へと向かった。

 勇気が向かうのは、二日前に山田と言い合いをした場所である小さな橋。橋には徒歩五分程で着ける。


 ― 居た……


 橋に着いた勇気は声にせずに呟いた。橋の向こう側には憎い相手が立っていた。篠原と山田の二人だ。

 二人は勇気に背を向ける形で立っている。まだ勇気の存在には気付いていない。


 ― アイツら……許せない


 勇気はまた声にせずに呟いた。

 ゆっくりと拳を握り、ゆっくりと橋を渡って行く。

 山田の丸い背中を見ると、沸々と怒りが湧いてくる。


 ― このまま殴りかかるか……


 勇気は考えた。でも、


 ― いや、違う。そんな事をしに来た訳じゃない……


 勇気は怒りに任せて行動しそうになった自分を律した。


 ― 俺がこの行動を選んだのは、山田に約束してもらう為なんだ……大切な友達を、俺と山田の下らない喧嘩に巻き込ませない為に


 勇気は昨日、篠原から聞き出した。愛に何を指示したのかを。


『明日の十六時、赤井正義に小川橋まで来いって伝えろ……桃井にはそう言ったんだ』


 山下商店の外に居た篠原の腕を掴んで、脅すくらいの気持ちで聞き出すと、体の小さな篠原はオドオドしながらも簡単に吐いた。


 勇気は『正義くんに何をするつもりだ……』と聞くも、篠原は勇気の手を振りほどき逃げてしまった。が、百を聞かなくとも凡そは分かった。『山田は正義くんに危害を加えるつもりなんだ』と。


 山田と正義の仲は悪いと勇気は既に知っている。そんな相手を呼び出す理由は限られている。脅しか、恐喝か、暴力だ。

 愛と話してみると彼女も同様に考えていた。だから彼女は篠原の指示を拒否していたのだ。

 しかし勇気はこうも思った。『山田が目を付けていたのは俺の筈、俺も一緒に呼び出すのなら分かるが、正義くんだけを呼び出すなんて……何故?』と。

 この疑問の答えはすぐに出た。『もしかして正義くんを痛め付けて、俺への見せしめにするつもりなんじゃ……』という答えだ。

 勇気は後悔する。『正義くんを俺と山田の問題に巻き込んでしまった』と。


 だから勇気はここに来た。山田と話を付ける為に――


「正義くんは来ないよ」


 山田と篠原の背後に立つと、勇気は話し掛けた。


「青木、何でお前が――」


 振り返った山田は勇気の登場に驚くが、その瞳の中には驚きよりも激しい怒りと憎しみが見えた。鼻息も荒く、顔は真っ赤だ。今にも掴みかかって来そうな勢いがある。が、勇気はそんな山田には負けない。毅然とした態度で勇気は言った。


「正義くんは来ない、代わりに俺が来た」


「なんだと!!」


 山田は吠えた。そして勇気の胸倉を掴んでくる。


「やっぱりその態度を見ると、正義くんを呼び出した理由は『仲良くなろう』とかそんな事を言う為じゃないみたいだね」


 勇気は胸倉を捻り上げてくる山田の太い手首を掴んだ。


「正義くんを巻き込むなよ……キミが本当に怒っているのは、俺の存在にだろ?」


「だったらどうした!!」


「やっぱりそうか……なら、俺を呼び出せば良いのに。キミは卑怯者だ」


「なんだとこの野郎!! 卑怯はどっちだ、あんな汚い手を使いやがって!!!」


「汚い手……それは昨日のドッヂボールの事か?」


「そうだッ! だから赤井を呼び出したんだよ! 汚い手を使って、お前に加勢するなって言う為になぁッ!!」


 唾を飛ばす山田は勇気の胸倉を掴んだまま、勇気を橋の欄干に向かって押しつけた。

 勢い良く押し付けられた勇気は背中に痛みを感じるが、負けずに押し返そうとする。


「アレは汚い手ではないぞ……俺と正義くんのチームプレイだ。やはり卑怯なのはお前だよ、俺と正義くんの作戦を汚い手と感じたなら、俺達二人を呼び出せば良いじゃないか……それを何故、正義くんだけ? 答えは聞かなくても分かってるぞ、俺達二人に挑む勇気が無いからさ! だから一人だけ、それも背の低い正義くんを選んだ! 勝てると思える相手にしか挑まない、そんなお前を卑怯者と呼ばずに他に何て言うんだ!」


「うるせぇ! だったらお前をボコってやるよ!」


「あぁ、やってみろ! 俺はどうされようが良い、お前に殴られようが知らない! でもな、約束しろ……俺を殴る代わりに、俺の大切な友達には絶対に手を出さないって約束してくれ――」


「約束だとぉ?! そんな事するかよ!!」


 山田の顔は鬼の様に歪んだ。けれども勇気は山田に立ち向かい続ける。


「してくれ! 約束してくれるなら、俺は今後お前に何を言われようが逆らわない、何度殴られようが構わない! だから約束をしてくれ! 俺の友達には絶対に手を出さないと、約束してくれ!!」


 自分自身を代償に約束を取り付けようと勇気は叫んだ。

 叫ぶ勇気の心の中に恐怖が無い筈はない、勇気は怖かった、暴力が怖くない人間なんていないのだから。けれども勇気は友達を守る為に自分を代償にしてでも山田に約束してもらいたかった。友達が傷付く事の方が、己が傷付くよりも怖いから。


「うるせぇ! お前の言いなりになるかよ!!」


 しかし、山田は勇気の願いを拒否する――山田は勇気の顔面を殴った。


「こっちに来い! お前と決着をつけてやる……俺をナメたらどうなるか分からせてやるよ!」


 勇気の脳は揺れ、山田を押し返そうとしていた力は緩む。対する山田は勇気の胸倉を掴んだまま歩き出した。


「篠原、お前はそこで見張ってろ!!」


 ――篠原を残した山田は、勇気を橋の下へと連れていく。

 橋の下には川幅二メートル程の小さな川が流れていて、その両脇にはほぼ同じ幅の川原がある。その川原の上に勇気は投げ付けられた。


「うっ……」


「調子に乗りやがってよ!! 負け犬の息子のくせに!!」


 倒れた勇気を山田は鼻で笑った。


「何とでも言え……そんな言葉、俺はもう気にしない。俺はお前に何て言われたって良い。でも、友達だけは傷付けてもらいたくない。だから約束してくれ!」


「誰がそんな約束するかよ!」


 山田は勇気に馬乗りになり、再び顔面を殴った。今度は一発ではない、二発、三発と勇気は殴られた。


「しろ……してくれ!」


 しかし、勇気は諦めない。


「しないって!!」


「してくれ……してくれよ……正義くんは俺の友達なんだ……」


 ―――――


「あれ? せっちゃん、青木くんは?」


 友達と一緒にパンダ公園の前を通った桃井愛は、公園の水をガブガブと飲む正義を見付けた。

 因みに、正義曰く、『パンダ公園の水が輝ヶ丘で一番旨い!』らしい。


「勇気? 勇気なら今日はいないぜ!」


 蛇口から顔を離した正義が口元を拭いながら答えると、愛は首を傾げた。


「え? でも、今日は青木くんも一緒に遊ぶんだってせっちゃん言ってたじゃん」


「うん。そうなんだけど、今日はやっぱりダメなんだって」


 口を拭ったのに正義はまた水を飲み始める。

『やめられないとまらない』という事なのだろう。


「ダメ?」


 愛が質問をすると、正義はまた瓢箪(ひょうたん)の様な形をした蛇口から顔を上げて口を拭った。


「うん、なんかさ、急に塾に行かなきゃいけなくなったんだって!」


「だから遊ぶのは明日になったんだ!」


 補足を加えたのは正義の後ろに並ぶ隆だ。隆も『パンダ公園の水が一番!』とよく言っている。


「そっか、そうなんだ。塾なら仕方ないね」


 そう言って愛は納得し、パンダ公園を離れた。

 けれど、公園を出てから暫くして愛の足は止まった。


『急に塾に行かなきゃいけなくなったんだって』


 この言葉が引っ掛かったのだ。


 ― 急……に??


「愛、どうかしたの?」


 愛の友達が問い掛ける。すると、愛は慌てた顔をして踵を返す。


「果穂ちゃんごめんね、ちょっと待ってて! 私、ちょっと戻る――」


 愛は再び公園へと向かった。

 正義はまだ公園に居た。四つ足で立ったパンダの遊具に跨がり、カウボーイの様に腕をグルグルと回し「行け! ボヘミアン!!」と奇声をあげている。そんな正義に近付くと愛は――


「あのね、せっちゃん!」

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