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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第5話 俺とお前のオムライス 13 ―正義くんは行かせない―

 13


 心が躍れば足取りも軽くなる。勇気はスキップするくらいの気持ちで塾へと向かった。

 憂鬱な勉強すらもポジティブな気持ちで挑めば捗るものだ。充実した学びを得た勇気の心は更に躍り、帰り道では鼻唄すら奏でた。


 そして、鼻唄を奏でながら勇気はひとつ寄り道をする。寄った場所は山下商店だ。

 気分が良い時は食欲も湧く。『学校も楽しくなってきたし、塾での勉強も良く出来た。自分へのご褒美に駄菓子を買おう』と勇気は考えたのだ。


 食べたい物はウマウマ棒だった。勇気は山下商店に入る前から『チーズ味にしようかな? それとも明太子味かな? たこ焼き味も良いな……あ、チョコ味も良いな!』と頭の中で色々な味を想像して楽しんだ。


 ウマウマ棒は子供に大人気の駄菓子であり、山下商店にとっても目玉商品である。その為、入口のすぐ正面の場所に置かれた子供達が商品を見付けやすい平台の上に陳列されている。

 入店した勇気はその平台の前で『どれにしようかなぁ?』と腕を組んで考えた。

 考え始めて一分くらいが経った頃だろうか、何やら店の外から声が聞こえた。

 それは子供の声だ。男の子と女の子の声だった。


 一人はカラスの鳴き声の様なガラガラとした声で、もう一人は優しそうな女の子の声。

 どうやら二人は口論をしている様子。


「おい桃井、今俺が言った事、ちゃんとアイツに伝えろよ」


「嫌だよ、わたし絶対に言わない」


 ― 何だ? ……喧嘩か?


 勇気は二人の口論に幸福感に包まれていた時間が汚される気がした。『嫌だな……』と思いながらも、聞こえてくる声に耳をそばだててしまう。何故なら、カラスの鳴き声に似た声を聞くと勇気の頭にはある人物の顔が浮かんだからだ。


「ふざけんな! ヤマァの命令だぞ! 聞かないとどうなるか分かってんのかぁ~~」


 "ヤマァ"この言葉を聞いた勇気は『やっぱりそうか……』と心の中で舌打ちをする。

『ヤマァ』は山田のあだ名だ。そして、このあだ名を使う人物を勇気は一人しか知らない。それは山田の数少ない友達であり一番の子分でもある篠原だ。


 ― 山田……また誰かを苛めようとしてるのか


 勇気はそう思った。それから、もう一つこうも。


 ― やっぱり俺の幸せを邪魔するのは山田なんだな……


 勇気は幸福感に包まれた時間を汚される事も嫌ったが、山田の苛めを見過ごす事も嫌った。

 勇気はウマウマ棒を選ぶのを止める。

 山田が何を企てているのか聞き出してやろうと店を出ると決めた。


「言わないよ! わたし絶対言わないから!」


 勇気が平台に背を向けて入口に向き直った時に女の子が怒鳴った。同時に走り去る足音も聞こえてくる。

 勇気は少し早歩きになって店を出た。店を出ると、入り口のすぐ脇にはアイスクリーム用の横に長い冷蔵庫があるのだが、その冷蔵庫の前で篠原が立っていた。


「馬鹿、絶対言えよ!! 馬鹿ッ!!」


 走っていく女の子の背中に向かって篠原は怒鳴っている。


「おい、何を言うんだ……?」


 勇気は鋭い目付きで篠原を睨み、脅すくらいの気持ちで話し掛けた。


 ―――――


 翌日、勇気はいつもよりも早起きをした。それは少し早く学校に行きたかったからだ。

 だから勇気の母、青木麗子は『まだ朝ごはんを作り終えていないのよ』と慌ててしまうが、勇気は『今日はこれだけで良いよ!』と焼かれたばかりのトーストを一枚食べて、急いで学校へと向かった。


 勇気が早くに登校したかった理由は、昨日篠原に脅されていた女の子と二人だけで話をしたかったからだ。

 勇気はクラスメート全員の名前をまだ覚えてはいない。特に女子となると顔と名前が一致するのは一人だけだ。

 しかし、偶然にもその一人が『桃井愛』であった。

 勇気は輝ヶ丘小学校に転校してきた日に彼女と話をしていた。話した内容は自己紹介程度のもので、軽く一言二言話したくらいであったが、それでも不思議と彼女の名前をすんなりと覚えられた。他の女子とも転校初日に同じく会話をした筈であるのに、何故だか彼女だけはすぐに。


 そして、何故彼女と二人で話す為にいつもよりも早い時間に登校しなければならないのかというと、それは彼女としたい話が他の誰にも聞かれたくない話だからであり、彼女が他の皆よりも一足早くに登校していると勇気は知っていたからだ。


 丁度一週間前、勇気は今日と同じく早起きをした。その日は今日と違って早起きをしようとしてした訳ではなく、たまたま起きてしまっただけだったが『慣れない通学路に迷うかもしれないし……』と思って、今日と同じく母を困らせて、勇気は早めに家を出た。

 通学路には迷わなかった為、勇気はいつもよりも三十分も早くに学校に着いた。

『一番乗りになっちゃったな』と思った矢先、勇気は見たのだ。皆よりも早くに登校して、教室の窓際に飾られた花瓶の水を替えている桃井愛の姿を。


 驚いた勇気は聞いた『何故、そんな事をしているの?』と。

 愛は答えた。

『先生、あんまりお花が好きじゃないみたいなんだ。だから何日もお水を替えるの忘れちゃって枯らせちゃった事があるの。だから、今は私がやってるんだ』

『先生に言われたの?』と勇気が聞くと彼女は首を振った。

『ううん、違うよ。私が勝手に。だって可哀想でしょ? こんなに可愛いのに、誰もお世話しないのって』

 そう言って彼女は愛おしそうに花を見詰めて微笑んでいた。


 他の皆よりも早くに登校している理由は『せっちゃんに見られると絶対にからかわれるから』と愛は話していたが、その時の勇気には"せっちゃん"とは誰をいうのかは分からなかった。

 "せっちゃん"が赤井正義のことを言っていると勇気が知ったのは今日になってからだ、教室に入ってすぐの事だった――


「青木くんが言う? ダメだよ、私、せっちゃんには行かせたくないもん」


「うん。桃井さんの気持ちは分かってる。俺も桃井さんと同じ気持ちだよ。だから俺が話すんだ。行かないでって、正義くんにお願いするんだ」


 勇気は花瓶の水を取り替えたばかりの愛に話し掛けた。昨日、篠原から聞き出した山田の悪巧みのターゲットは正義だったからだ。


「正義くんが、篠原や山田に目を付けられたのは俺のせいだ。だから俺に全部任せて、正義くんは絶対に行かせないから」


「本当に?」


「うん。だから桃井さんは、篠原が言ってた事を誰にも話さないでね。正義くんにも、誰にも……」

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