第5話 俺とお前のオムライス 12 ―対照的な二人―
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「ふざけんなッ!!」
正義の投げたボールを左の太股に受けて膝から崩れ落ちた山田は、身悶えたくなる程の怒りを感じた。
山田の叫び声は校庭内に響いたが、大きな叫び声と比べれば痛みは然程無かった。山田の中では痛みよりも怒りの方が強い。山田は鋭い眼差しで正義と勇気を睨んだ。否、山田が睨む相手は正義と勇気だけではない、同級生の皆である。
皆を睨む理由の一つは慣れない敗北に悔しさを感じているからでもあるが、一番の理由は皆が拍手を送る様な賛辞の眼差しを正義と勇気に向けているからである。それは仲間である筈の同じチームのメンバーでさえもそうだった。
『俺は馬鹿にされている……』
山田はそう感じた。しかし、山田は自分の事だから分からなかっただけだ。これまでの山田は勝負に負けた事が無かった。勿論ドッヂボールでも無敗だった。そんな山田を倒す者が現れたのだから、皆は九回裏の逆転満塁ホームランを見た様な驚きと、手に汗を握り尚且つ心躍る試合を見れたという喜びを感じていただけで誰も山田を馬鹿にしてはいないのだ。
だが、山田は勘違いをしてしまった。
山田はギリギリと歯軋りをしながら立ち上がり、怒りにまみれた瞳で勇気と正義を睨み付ける。
「赤井! 青木! お前ら卑怯だぞ!!」
山田は怒鳴った。
が、ここに制止が入る。
「おいおい山田くん、卑怯な事なんて無かったぞぉ! 正々堂々とした良い勝負だったじゃないか! 先生、キミと青木くんとの戦いに凄く感動しちゃったよ!」
審判である担任の言葉だ。
山田には響かない言葉ではあるが……
「うるせぇなぁ……」
山田はボソリと呟くと、一度は担任に向けた視線を再び正義と勇気に戻す。
「赤井、青木、お前ら覚えてろよ!!」
捨て台詞でしかない。
山田は歯軋りをしながら外野へと向かった。
それから試合は再開される。
山田をアウトにした正義が内野に復帰し、勇気と正義の二人は逆転を目指した……がしかし、結局山田との戦いで疲れ切ってしまっていた勇気がすぐにアウトになってしまい、今度は正義が一人で奮闘する事になった。
正義は小さくて素早い。敵の攻撃を避け続け、なかなかアウトにはならなかったが、避け続ければ体力はすぐに減る。外野にいた間に折角回復していた体力であるが、次第に失われていき、一人になってから約五分後、「ハァ……ハァ……」と息が上がった正義はアウトになってしまった。
続けてすぐに第二試合が開始された。
この二試合目に山田は参加しなかった。『足が痛い』と言って辞退したのだ。
山田不在の中で行われた第二試合は、勇気と正義のチームが勝った。最終戦となるの第三試合は山田率いるチームの勝利……といっても山田はこちらにも参加しなかったが。
結果、勇気と正義のチームは二勝を取られて敗北した。
勝利を得られた相手チームのメンバーは大喜び。でも、その中で一人だけ暗く沈んだ眼差しをしていた者がいた。それは勿論、山田だ。
山田は校庭の隅に座り込み、暗く沈んだ瞳で勇気と正義を睨み続けていたのだ。
―――――
放課後、勇気が校門を出ると誰かがその背中をポンっと叩いた。
「よっ! やったなっ!」
振り返ると予想通りの人物がいた。
正義だ。
正義はニカッと笑っている。笑いながら勇気のランドセルを更に二回叩く。
「俺達、山田に勝てたな!! オムとライス作戦、めっちゃ上手くいったぜ!!」
「うん、そうだね! 俺が山田を狙うと思わせて、その後に正義くんが出てくる。またに卵焼きだと思わせて、その下にチキンライスが隠れてるオムライスだった! やったね!!」
「へへっ! 良い作戦だったろぅ!!」
正義の笑顔に釣られて、勇気も同じく笑った。
そして、笑っているのは勇気と正義だけじゃない。正義の後ろを付いてきていた、隆、紋土、拓海もそうだった。
「スゴいよ二人とも!」
紋土が言った。
「あぁ、スカッとしたぜ!」
隆は勇気に向かって親指を立てる。
「ねぇ、今日さ、俺達四人で遊ぶんだけど青木くんも来る?」
拓海は遊びの誘いだ。
昨日までは山田を恐れて、勇気との関わりを持たないようにしていた三人だったが、どうやら今日の勇気の活躍を見てそんな考えは捨てたらしい。
「遊び? う~ん……遊びかぁ」
でも、勇気は渋い顔。
「どうしたの? 嫌か?」
正義が聞くと、勇気は首を振る。「違う、嫌じゃないよ」と答えはするも、今日は遊びに行けない理由があった。
「行けたら行きたい……でも、今日は塾があるんだ」
月、水、金と勇気は塾に通っている。その事を正義に伝えると、正義は大きく目を見開いた。
「勇気、塾通ってんの?! マジかよ、お前天才なの!」
「天才? 何で?」
「だって、塾通ってるんだろ? だったら天才じゃん!!」
どういう理屈なのだろうか。正義の中では塾に通う=天才らしい。
「あぁ~~また出た正義の変なの! 分かったよ、じゃあ明日は休みなんだろ? だったら明日また誘うよ!」
隆はカラッとした性格だ。勇気の事情をすぐに受け入れた。
「うん、そうしよう! 明日遊ぼう!!」
勇気は隆からの誘いをすぐに承諾した。
勇気の心は躍っていた。新しい友達が出来る予感で笑顔は微笑みから満面の笑みになっていく。




