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ガキ英雄譚ッッッッッ!!!!! ~世界が滅びる未来を知った俺たちはヒーローになる約束をした~  作者: 立神ビーグル
第二章 勇気の英雄の激誕 編

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第5話 俺とお前のオムライス 10 ―勇気の顔は真っ赤に染まる―

 10


 試合開始から十分後、審判をしている正義のクラスの担任が首から下げた笛を鳴らした。


「山田くん、高く投げ過ぎだ! 気を付けなさい!!」


「はぁい、気を付けます」


 担任が声を荒げた理由は山田が投げたボールが勇気の顔面を打ったからだ。

 注意を受けた山田は気だるげな返事をするだけで、『自分は何も悪くない』と言いたそうな顔をして空を見ている。


「青木くん、大丈夫かい?」


「はい……全然、大丈夫です」


 そんな山田を睨みながら、勇気は真っ赤になった頬を擦っていた。

 再度「本当に大丈夫?」と聞かれると、勇気はコクリと頷く。


「それより、先生……顔面だから、ボールは俺達のチームの物になりますよね?」


「うん……そうだね」


 勇気が両手を差し出すと、審判である担任は「ボール、Aチームへ移動!!」と声を張って勇気にボールを手渡した。

 それから右手を上げて試合再開のコールをする。


「試合を再開する! 山田くん、次は気を付けるんだぞ!」


「はぁ……」


 山田はまた気だるげな返事をするだけだった。反省の色はない。

 対する勇気はやっと手に入ったボールをドリブルさせて、山田だけでなく敵チーム全体に向かって鋭い視線を向けた。

 顔面をボールで打たれても勇気のやる気は失せていない。試合開始から十分が経ち、勇気や正義のチームで生き残っている人物は既に勇気一人になっている。崖っぷちで手に入ったボールだ、無駄にする訳にはいかないのだ。勇気は『誰を狙おうか……』と慎重に相手チームを見る。


 ― 誰にするか、山田以外が良いよな、アイツは体が大きいから的はデカイが、その分、力がある。今回は顔面に当たったから良いものの、次にボールを奪われれば負ける可能性が高い……


 勇気がボールを手に入れられた理由は俗に言う『顔面セーフ』である。それは、顔面にボールを当てられた者はアウトにはならずに逆にボールの支配権を得られるというもの。

 山田からボールを奪えた事は幸運だったと思う勇気は、得られたチャンスを殺す訳にはいかないと相手チームのメンバーを一人一人見て標的を吟味するが、そこで気が付いた。


 ― 山田のヤツ……笑っていやがる


 試合が再開されると山田は、センターラインの近くから陣地の後方へと移動していた。山田は腕を組み、ニヤニヤとした笑みを浮かべて勇気を見ている。


 ― ボールを奪われたのに何故、アイツは笑って……もしかして、さっきのはワザとだったのか?


 勇気は真面目な男だ。ドッヂボールを行っているとはいえ、今は授業中だ。乱暴者の山田でも授業中に暴力的な行動に出るとは思っていなかった。

 だが、勇気は聡明な男でもある。山田のニヤつきを見て、勇気はすぐに相手の性質を知った。


 ― そっかワザとだったのか……山田はワザと俺の顔面を狙ったのか!!


 ―――――


 昨日、山田は輝ヶ丘の駅前にある公園で篠原に聞いた。『ドッヂボールの顔面セーフって何回あってもアウトにはならないんだよな?』と。

 山田が聞くと『多分ね』と篠原は答えた。

 この返答を受けて山田は宣言していた。『じゃあ、次にドッヂの授業があったら青木の気取った顔をボコボコにしてやる……』と。


 試合が開始されると山田はすぐに作戦実行に向けて動き出した。『まずは青木以外の敵を全て潰そう』と、体重をかけた豪速球で勇気のチームの面々を次々にアウトにしていった。


 男子の人数は全部で二十人。

 十対十で始まった試合は、内野六人、外野四人の体制で始まったのだが、試合開始から五分後、山田は勇気や正義のチームを二人にまで追い詰めた。残ったのは勇気と正義の二人。

 山田の中で勇気が最後の二人に残るのは作戦通りであった。だが、正義は違った。『アイツはいつも俺の邪魔をする、最初に潰す』と、試合開始前に山田は考えていたのだ。考えていたのだが、正義は生き残ってしまった。


 山田と正義は小一の時に出会って以来、何度も喧嘩をしている。小学校に入学するまでの山田は己の腕力でどんな相手も従わせ、屈服させてきた。否、小学校に入学してからもそうだ。今日だってそうだ。

 しかし、どんなに拳を振り上げて脅しても、正義は山田に屈しなかった。そしていつしか山田は『俺の思い通りにならない邪魔者』と正義の事を捉えるようになっていった。一目置いたとも言える。だから今日の山田は作戦を実行する為に"邪魔者"である正義を一番最初に潰そうとした……が、やはり正義は『山田の思い通りにならない邪魔者』であった。


 体の小さな正義はその分素早く、自陣を駆け回って山田の豪速球を何度も何度も避けたのだ。

 山田が『赤井を狙い続けても体力を無くすだけだ』と考えを変えて他に狙いを変えても、他の面子をアウトにしたとて、その分正義が走り回れる広さを山田自身が空けてやるだけだった。


 そして試合開始から五分後、正義と勇気が生き残る。『顔面セーフをやり続け、青木をボコボコにする』という作戦を確実に実行する為に正義をアウトにしなければならない時が来た。



 山田は正義を鋭く睨みボールを投げた――



 正義は素早く避ける――



 外野が取ったボールが、すぐに山田に戻ってくる――


 山田は試合開始前、仲間と円陣を組むフリをして仲間達に指示を出していた。

『ボールは全部俺の物だ。ボールを持ったら全部俺に渡せ』と。

 その為、繰り返し、繰り返し、山田はボールを投げ続けられた。

 正義も繰り返しだ。素早さを活かし避け続けた。捕球はしない、正義の野生の勘が山田の豪速球を捕るよりも避ける方が生き残れると教えたのだろう。が、正義の選択は山田にとって有利に働いた。

 ちょこまかと素早くても正義にも体力の限界がある。正義の走るスピードは徐々に遅くなり、最終的には肩で息をする正義の脛に山田はボールをぶつけたのだ。それは、勇気と正義だけが生き残ってから約五分後の出来事。


 そして山田の作戦は実行へと移される。勇気の顔面に向かって山田は豪速球を投げた――


 ―――――


 ― 山田はワザと俺の顔面を狙ったのか!!


 ボールを手に入れた勇気は相手チームを睨み、山田の思惑を知った。

 山田はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら勇気を見ていた。


 ― クソ……笑いやがって、でも二度目はやらせないぞ。お前にボールは渡さない。まずは他の奴等を倒してから、最後にお前を……


 と勇気は考えた。だが、ふと思った。


 ― いや、でもアイツはボールを手に入れてもまともに勝負しないよな。きっと俺の顔面を狙うだけだ。そしたらまたボールは俺の所に戻ってくる……ん?


 そして、勇気は気が付いた。山田の肩が上下に大きく動いている事に。


 ― 息が上がっている……そうか、アイツはこの十分間、一人でボールを投げ続けていた。それに正義くんのすばしっこさにも翻弄されて疲れ切っているんだ、そうか、だったら!


 勇気の中で誰を狙うのかの答えは見えた。


 ― 誰を最初に倒そうが、いつかは山田とも戦わなければならない……それなら、今が奴を倒す最大のチャンスかも知れない!!


 勇気はダムダムとボールをドリブルさせながら、外野との境になるラインのギリギリまで下がった。


 ― やってやる!!


 ボールを両手に抱え直し、勇気は走り出す。

 山田は陣地の後方で腕を組んでいる。狙いやすい。勇気は力を込めて思いっ切りボールを投げた。


 しかし、


「ヨッシャー!! 馬鹿がッ!!」


 やはり山田は強かった。山田は勇気の投げたボールを軽々と受け止めてしまった。ボールの支配権は再び山田が握ってしまう。


 ― ちきしょう……


 勇気は再び自陣内を下がり、捕球の為に両手を構える。が、最前よりも更にニヤつきが増した山田の顔を見て『やはり!』と思う。


 ― やはりな……アイツ、また俺の顔面を狙うつもりだ。山田の目的は試合の勝利には無いみたいだな、それよりも俺を痛め付けたいらしい……ならば良いさ、ボールをわざわざこっちに渡してくれるなら乗ってやる、やりたいならばやれ!!


 勇気は構えるのを止めた。棒立ちになる。そして勇気は自分の顔を指差した。その顔はニヤリと歪む。山田に対抗した不敵な笑みを勇気は浮かべた。


「クッソォ!!!」


 山田は勇気の挑発にすぐに乗った。投げたボールは勢い良く飛び、勇気の顔面に激しくぶつかった。


「うッ!!」


『狙えよ』と挑発したは良いが、やはり山田の豪速球を顔面に受けるのはキツイ。勇気の視界はクラクラと眩んだ。

 直後、審判の笛が鳴った。


「山田! 今のはわざとだな!」


 審判である担任の怒声が校庭内に響く。


「はい、挑発されたんで」


 悪びれる事もなく山田は答えた。


「挑発されようが、スポーツにはルールがある! 青木!! 何故挑発した!!」


 今度は勇気の方に担任は顔を向けた。


「狙っているのが分かっていたから、だから――」


「馬鹿野郎! 学校は喧嘩をする場所じゃないぞ! 勉強をする場所だ、キミ達はスポーツを通して勉強をしているんだ! スポーツは争いではない、正々堂々と行うものだ、もしもまたやったらキミ達二人には教室に戻ってもらうからな!」


 そこまで言うと、担任は再び笛を鳴らした。


「試合は続行する。ボールはAチームに移動、二人共、絶対にもうやるなよ……」


「はい、すみません……」


 担任にボールを投げ渡されると勇気は後悔した。


 ― 確かに先生の言う通りだ。今の俺の考えは馬鹿だった、卑怯な奴の卑怯な行いに乗ってしまった……これじゃ、俺はアイツと同じ場所に堕ちる。正々堂々とやらないと……


 勇気は元来は真面目な男である。真面目な男であるから、担任教師の言葉が正しいと思うことが出来た。

 反省と後悔を抱いて、勇気はボールを構える。

 それから山田を見る。山田は勇気とは正反対に不貞腐れた表情をしていた。その肩はまだ上下したままだ。


 ― やはり、山田を倒すならば今を逃しちゃいけないな……正々堂々と、正々堂々とやってやるぞ!


 勇気は標的を変えずに山田と戦い続けると決め、ボールを投げた。

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