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第1話 約束の日は前途多難 10 ―少年は思考を巡らす―

10


「ねぇ、ボン……これ、(なか)見ても良いかな?」


 チョウは少年のリュックを持ってボンに見せた。


「おい、馬鹿ッ!!やめろッ!!」


 ボンはふかしていた煙草を吸い殻の山の中に押し入れると、急いでチョウに近付きリュックを引ったくった。


「お前また殴られたいのかよッ、兄貴に勝手にそんな事すんなッ!」


 ボンはそう言うと少年が横たわるソファを回り込み、その先のテーブルの向こう側にドンッと音を立ててリュックを置いた。


 ― 『兄貴に勝手にそんな事すんな!』……か、コイツ等どうやら"兄貴"にかなり従順らしいな。リュックの中身なんて見たければ見れば良い。アイツは人形のフリを続けているし、俺は見られたって何も問題ない


 少年は二人の姿や言葉から思考を巡らせる。


 ― きっとコイツら、リーダー格の男の指示が無いと何も出来ないんだな。でも、頭が働かないって訳ではなさそうだ。チョウって奴は馬鹿っぽいけど、ボンの方はそんな感じじゃないし、チームの優劣か……さっきチョウも殴られてたもんな、大分恐怖政治っぽいしな。それにしても、良い所にリュックを置いてくれたぜ


 ボンがリュックを置い場所は少年の正面だ。テーブルを挟んだ向こう側、直線で結べば少年の腹と一直線になるだろう。

 無造作に置かれたリュックは後ろのテレビ台が支えになっていて真っ直ぐに立っている。左側だけ半開きにされたリュックの口は相変わらずダラリと垂れたまま。殻を被ってつるりと丸いタマゴの白い頭がチラリと見える。


 ― ボン、ナイスプレイ!!


 タマゴの頭を見ながら少年はニヤリと笑った。


 ― そろそろ動くか! 急がなきゃ時間がないもんな。悠長に構えてても時間なんか一気に過ぎる、約束の時間までに何とかこの工場から脱出しねぇとだ! ヨシッ……まずはこの二人をまとめて一気にッ!


 少年の口がピクリと動いた。


 だが、少年はすぐに首を振った。


 ― あっ……ととととと! 危ねぇダメだ…ダメだ! 焦んな俺ッ! ここに居るのは俺だけじゃねぇんだ! もう一人捕まってる、その人の命もかかってるんだ、焦っちゃダメだ、慎重にいけ……慎重に……


 少年は視線を走らせて、煙草をふかすボンの姿を見た。

 ボンは苛ついているのか何やらブツブツと呟きながら部屋の中を歩き回っている。


「クソ……クソ……クソ……なにが『ガキに飯くらいはちゃんとやったよな?』だッ。俺はお前の道具じゃねぇ……」


 ― なんだ? ボン、あの兄貴って奴にイラついてんのか? まぁそりゃそうか、あんな暴力で縛られてちゃイラつくなって方が無理だよな。はぁ……とにかく、どう動くか考えねぇと。確実にいかないとだ……確実に、慎重に……


 少年が自分自身に言い聞かせていると、動き回っていたボンの足が止まった。

 それは少年の足の方。ソファの肘掛けの近く。


「クソ……無ぇなぁ……」


 どうやら煙草が切れてしまったらしい。箱を滅茶苦茶に潰して、ボンは部屋の隅に投げた。


「おいッ! チョウッ! お前、いくら持ってるッ!」


「へっ……ちょっと待って。あっ、三百円」


「クソッなんだよッ! こんだけ尽くして俺は煙草も買ぇねぇのかよッ!!」


 ボンは勢い良く壁を蹴った。


 ― おっとっと……びっくしりしたぁ! こりゃ大分鬱憤溜まってんなぁ……


 ボンの蹴りに驚きながらも、少年の思考は続く。


 ― でも、って事はその分この男は兄貴に従順に尽くしてるって事だよな……って事は、多分何かが起こった時に即座に行動するのはこのボンって奴の方だろうな。頭もチョウよりかは確実に働くだろうし。逆にチョウって奴はきっと慌てふためいて的確な行動は取れない筈だ。だったら先ずは頭の働く方をやるべきか。もしだ……もしの更にもしで、俺の作戦が失敗した場合、ボンはきっとすぐにあの兄貴を呼んじまう。そしたら俺の命は一気にヤバくなる、俺が殺られたらもう一人の命だって……いや、でももっとよく考えろ! チョウの行動は予測がつかない、チョウだってナメたらダメだ! 俺が反撃しようとしてるってチョウが知ったら、その瞬間に俺を殺そうとしてくるかも! あぁ~クソッ! こんな時、皆がいてくれたら馬鹿な俺に知恵をくれるのに……ってそんな現実逃避してる場合かよ! 無い頭かっぽじってちゃんと考えろ!!


 少年は心の中で自分自身に向かって叫んだ。

 少年は考え事をしていると頭を掻く癖があるが、縛られている現在はそれは出来ない。わなわなと沸き上がってくる衝動を抑える為に少年の口が波打つ様に動く。

 同じく、抑え切れない衝動にかられているのがボンだ。煙草を失ったボンの苛つきは更に増した様子で歩き回る足音がより強くなっている。


 ― ふぅ~……そうだなぁ、このボンとチョウの二人をどうにか二手に分かれさせる方法はないかな。一人ずつなら騒がれる前に一瞬でやれる自信がある。何か……何か方法は無いもんか……


 と、少年の口がもう一波(ひとなみ)起こそうとした時、動き回るボンとボンを見据えながら作戦を考える少年の視線がぶつかった。


 ― あっ……!


「あっ!」


 ― あっ!! ヤベッ……声に出ちゃった!


「ん? なんだよ?」


 ― あ……クソッ……もうやるしかねぇ! のるかそるかだ!!

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