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第7話 自分に強化付与してみる


「「付与術士!?」」


 自分の職業を言うと、二人が揃って驚く。

 世界で数人しかいないレア職業なので、こういう反応には慣れている。


「って、なんですの?」


 と思ったらモニカは首を傾げた。

 あ、知らないで驚いていたのか。


「あのなモニカ、付与術士ってのは超絶スーパーウルトラレアな職業なんだぞ。仲間を魔法で強化して強くする、なんて普通は出来ないのが常識だ。その常識を塗り変えたのが、コイツら付与術士なんだよ!」

「つ、つまりユウ様は大変素晴らしいお方だということですの!?」

「まあ、そういうことだな」

「やはり、わたくしの目に狂いはございませんでしたわ! あの裏路地での出会いは、運命だったのです!」


 すごく褒めてくれるんだけど。

 別に俺は凄くない、凄いのは付与術士という職業だ。


「肉体、武器、防具、そこら辺のもの。強化付与する対象に制限はないって聞いたことあるけど、本当なのか?」


 シャレムさんが質問してくる。


「はい、シャレムさんのその腰の剣も強化付与できますよ。防具も、シャレムさん自身も」

「いやん」


 シャレムさんは両手で身体を覆って、芝居がかった恥ずかしい演技をする。


「いや、いやらしい意味に捉えないでくださいよ!」

「へへ、冗談だっての。強化付与できるって言っても、付与された装備はどれぐらい強くなるんだ?」

「ああ、それは……よく分からないんです」


 そう返事すると、二人はきょとんとした。


「わからないのですか?」

「付与したことがある人達はみんな強くなったけど、実際どれぐらい能力が上昇したのか分からないんだ」


 前のギルドでは後方から味方を強化付与するだけだったので、強化される人の感覚は分からない。


「なら、自分に試したらいいじゃないカ?」


 シャレムさんが提案する。

 それってつまり自分に強化付与してみるってことか?


「考えたことがなかったです……」


 強化付与は支援職としか聞いてこなかったので、自分に付与してみようなんて発想は一度もなかった。

 そうだ、それだ。


「やってみます……我が意思に従い、彼の者に恵みを」


 早速、味方を強化する時の詠唱を開始。

 他者ではなく自分に対して、付与魔術をかけるというイメージをする。


 肉体の筋力、俊敏、体力、装備しているローブの防御力を上昇させた。

 光に包まれている俺を、モニカとシャレムさんが興味津々に眺めてくる。


 とりあえず付与術を終わらせた。


「……終わりましたの?」

「うん、一応これで付与は完了したと、思う。まったく実感ないけど」

「本当に強化付与したのカァ〜? 変わった感じがこれっぽっちも見られねぇが」


 シャレムさんが疑惑の目を向けてくる。

 うっ、やはりまだ信用されていない。


「実際に敵と戦わないと、分かりませんね」

「なるほど、確かにそうだな」

「なにか依頼とか来ていないかな? 魔物討伐とか」


 魔物を倒して帰るだけでは時間の無駄なので、一応依頼を受けておこう。

 そう思ってモニカに尋ねるが、彼女は困った表情をした。


わたくしどものギルドは知名度がございませんので、依頼の一件も届いておりませんわ。たとえ知られていたとしても、成功する保証がないため、依頼すらいただけていないのです」

「そ、そうなんだ……」


 なんか、残念だな。

 まあ、これから頑張っていけばいいさ。

 俺も頑張るから。


「いや、一つだけならあるぞ」


 シャレムさんが、ニマニマした顔で近づいてくる。

 右手には依頼書が握られていた。


「まあっ! 本当ですか、シャレムさん!?」


 モニカが驚きのあまり、大きな声を上げる。

 どうやら彼女は知らなかったようだ、ギルドマスターなのに。


「どうして、ギルドマスターであるわたくしに隠していたのですか!? とても心外でございますわ!」

「まあまあ落ち着けって。隠したってのは事実だけど、理由があるんだよ。おいユウ、読んでみろ」


 依頼書を手渡され、内容を確認する。

『B級フェンリル討伐』


 B級といえば、かなり強い階級の魔物だ。

 ギルドで六人ほどパーティを組まなければ、倒すのが困難である。


 経験上、強化付与した仲間たちでさえ何度か苦しめられたことがある。


「これは、確かに『金色の魔槍』には厳しい難易度の依頼かも」

「そう、だからモニカには見せたとしても意味がないから一ヶ月以上は保管しっぱなしだったわけ。どうだユウ、受けてみっか?」


 シャレムさんが訊いてきた。

 難易度は高めだが、報酬は良いし依頼主は行商人か。

 こういった依頼は、ギルドの知名度が上がりやすい。


 行商人と仲良くなれば他国でも宣伝してくれるかもしれないし、これからも利用してくれる可能性がある。

 まあ、成功したらの話だけど。


 不安そうに見つめるモニカを横目で見たあと、俺は答えた。


「はい、受けます」

「い、いくらユウ様がとーっても強いお方でございましても、B級魔獣はさすがに危険でございますわ……! ギルドマスターとして、推奨の戦力以上でないと許可は出せません」


 俺が死ぬかもしれないことを心配してくれているのか、モニカはそう言った。

 生きてほしいと思われるのは、嬉しいな。


「なぁに心配すんなモニカ、このボクも同行するよ」


 シャレムさんは、モニカの肩に腕を回して言った。

 腰に剣があるので剣士だと思っていたが、やはりその通りだった。


「ボク、これでも元ベテラン冒険者だったんだゼ〜? 危険だと判断したら、すぐに退却するからよ」

「本当でございますか……?」

「おいおい、ボクと長い付き合いなのに疑うなよ。大丈夫だって」

「そうですか、そうですわね……」


 説得に折れたモニカは肩を落とした。

 討伐に行くことを許可してくれるらしい。


 シャレムさんとモニカがどういった関係なのかは知らないが、相当信頼し合っているようだ。


「ユウ様も、どうぞお気を付けくださいませ。必ず、戻ってきてください!」


 モニカは俺の手をぎゅっと握りながら、そう伝えた。

 心配させないように微笑んでから、返事する。


「ああ、約束するよ」


 こうして新たなギルドで、初めての依頼を受けた。

 自分にかけた強化付与の実験と、フェンリルの討伐である。

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