第6話 新たなギルドに加入
モニカに連れられてたどり着いたのは、ファフニールの中心街から少し外れた、治安の悪そうな一角だった。
「ユウ様、到着いたしましたわ! こちらが私どもの拠点でございます!」
目の前に現れたのは、ギルド拠点と呼ぶにはあまりにもボロボロな建物。
木造の二階建てで、壁はところどころ剥がれ、窓がひび割れている。
看板には『金色の魔槍』と書かれているが、文字が半分消えかかっていた。
「ここが、ギルド拠点……?」
「ええ、ご覧の通り少々……いえ、かなり修繕が必要な状態ではございますわ」
ますます不安が増してくる。
メンバー数が二名、資金がゼロという状況。
よく、この状態で王都一番のギルドにしてみせようと思ったものだ、この子は。
夢が大きいのは良いことだが。
「ただいま戻りましたわ」
「お邪魔します」
建物の中も、やはりボロボロだった。
入ってすぐ目の前には受付らしきものがあったが、獣人族らしき女性が座っているだけで、他に誰もいない。
「おうおう、帰ってきたかモニカ」
「留守番、感謝いたしますわ、シャレムさん」
「いいってことヨ、どーせ一日中暇だから」
獣人族の女性の名前はシャレムさんらしい。
二十代前後のような見た目をして、白衣っぽいのを着ている。
俺を見るや、興味津々そうにモニカに尋ねた。
「あれ、見ない顔を連れてきたな。もしかしてお客さんかぁ?」
「いいえ、私どものギルドを見学にいらっしゃった魔法使いのユウ様でございますわ。先ほど、ゴロツキからお助けくださったのです」
「え、マジで?」
それを聞いたシャレムさんは目を丸くさせて近づいてきた。
俺を下から上まで、舐め回すように見つめてくる。
「ようこそ『金色の魔槍』へ、歓迎するゼ☆」
「は、はい。ユウ・ヴァルハルトと言います」
「ボクの名前はシャレム、気軽にシャレム様と呼び給え〜」
それって気軽か?
なんだか面白そうな人だな。
「見学と言っても見せられるようなところは何もないし、依頼の一件もきてない。つまり本日の『金色の魔槍』は暇。どうだい、これでもボクたちのギルドに入りたいか〜?」
「ちょっと、シャレムさん! そのような言い方をなさると、ユウ様が加入するお気持ちを失ってしまいますわ!」
「どうせモニカのことだから、来る前に金がないことメンバーが少ないことをもう話してるんだロ? 無理してギルドの良いところを言ったって結果は変わんねぇよ。むしろ、ギルドがこの状態でも入ってやろうと思ってくれる人を入れるべきだとボクは思うね」
「むむ……確かにその通りでございますわね」
二人の会話を見守っている俺に、モニカは真剣な眼差しで向き直った。
「ユウ様……どこからどう見ても崩壊寸前のギルドでございますが、これでも私どもの大切な居場所なのです。無理強いはいたしませんわ。どうか、『金色の魔槍』に加入していただけませんでしょうか?」
モニカは深々と頭を下げた。
「いいよ」
「そうですか、そうですわよね……もっと素晴らしいギルドが他にも……え?」
「だから、モニカのギルドに入るよ」
予想していなかった答えだったのか、モニカは口元に手を当てた。
そして目を潤ませ、震える声で尋ねてきた。
「……本当でございますか? このような惨状のギルドでも?」
「うん、問題ない」
「どうしてでございますか?」
まだ信じられないのか、モニカは何度も質問をしてくるので、俺は説明した。
「入るかどうか、最初は悩んだよ。ギルドがこんな状態でも諦めずに、夢を叶えようとするモニカ。嘘をつかず正直にしてくれたシャレムさんを見て、いいなって思ったんだ」
ギルド『聖なる神盾』は楽しかったけど利用され追放された。ザラキは俺の『付与術』が欲しくてギルドに入れたのだ。
だけどモニカは俺が『付与術士』というレア職業を持っていることを知らずに、ギルドに誘ってくれた。
付与術ではなく、自分を必要としてくれていることが嬉しい。
「それに、どんなギルドも出発地点は同じだ。拠点が小さくてお金がなくても、そんなの関係ない。依頼をこなしていって名を広げていけば、モニカの夢はいつか叶いますわ」
俺は、このギルドのランクをS級にしてみたい。
できなくても行けるところまで行ってみたい。
「あ、ありがとうございますわ……!」
「ユウ、お前いい奴だな。好きだぞ、そういった男は」
モニカが笑顔で喜び、シャレムさんに肩を叩かれる。
「どうぞよろしくお願いいたしますわ、ユウ様!」
「うん、よろしくお願いするよ、ギルドマスター」
もう、俺の上司はザラキではない。
『金色の魔槍』のモニカだ。
「ちなみに、なんでお金がないの?」
「ああ、実は最初は三人組でやっていたんだ。ユウが入ってくる数ヶ月前に、モニカが加入希望者だって男を連れて来たことがあってナ」
俺の疑問をシャレムさんは受付で頬杖をつきながら答えてくれる。
そうなんだ、でも今は二人だけしかいないって言っていたけど、抜けたのかな?
「その男に、夜逃げされたんだよ。金庫に入れていたギルドの資金を全部持ってかれてな」
「は、はい。恥ずかしながら、そのような事情で『金色の魔槍』は文無しでございますわ」
シャレムさんはもう一度、俺の肩に手を置くと耳元で囁いてきた。
「そういうワケだから、お前は裏切ってくれるなよ?」
どこにでも居るよな、裏切る奴は。
シャレムさんはモニカの前だからと歓迎した態度だけど、心の中では俺のことを信用しきれていないといった様子だ。
「ええ、当然です。裏切るのも、裏切られるのも、俺が絶対に許しません」
同情を買うつもりはないので追放されたこと、元S級ギルドのメンバーだったことは黙っておこう。
俺の新たな目的は、この崩れかけのギルドを王都一番のギルドすることだ。
俺を見下し必要がないと切り捨てたザラキとリーンを見返すために。