第3話 熱烈な勧誘
「え、君がギルドマスター!?」
思わず声を上げてしまった。
目の前で涙目になりながら俺の手を握りしめている少女がギルドマスターだなんて。
金髪の巻き毛と、お嬢様っぽい口調と雰囲気は確かに目を引くけど、さきほどゴロツキに絡まれて『一文無しですわー!』と叫んでいた姿からは、とてもギルドを率いるリーダーに見えない。
「はい、そうですわ! この私! モニカ・フォン・アマデウスこそがギルド『金色の魔槍』のギルドマスターですの! 貴方様のような素晴らしい方を、我々のギルドは必要としていましたの」
モニカは目をキラキラとさせて、まるで命綱にしがみつくように俺の手を離さない。
『金色の魔槍』……聞いたことのない名前だな。
ファフニールには大小さまざまなギルドがあるけど、こんな名前のギルドは事前に調べた情報にはなかった。
まさか、よほどマイナーなのか?
「いや、ちょっと待って。俺は確かにギルドを探してるけど、その『金色の魔槍』ってどんなギルドなんだ? メンバーとか活動内容とか、教えてもらわないと……」
「っ!」
俺の質問に、モニカは一瞬目を泳がせ、気まずそうに笑った。
「え、えっと……実は、つい最近創設したばかりのギルドでして……メンバーも、私含めて二人しかいませんの……」
二人、という発言に衝撃を受ける。
少なさすぎる。
「ギルドって、普通もうちょっと人数いたりするよね?」
「そ、そうですわね……今は少し、ほーんの少しだけ寂しい状況ではありますけれど! 私には、いつか『金色の魔槍』をこの街ファフニールで、いえ、リントヴルム王国で一番のギルドにしてみせる夢があるんですの!」
モニカは両手を握りしめ、強く宣言した。
その情熱は本物だろうけど、さすがに「二人だけ」という現実は厳しすぎるような気がしてならない。
「分かったけど……ギルドマスターの君が一文無しでゴロツキに絡まれるって、一体どんな状況なんだ?」
「うぅ……それは偶然、不運が重なっただけでして……!」
モニカは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、慌てて手を振る。
「と、とにかく! 人助けをする優しさ、ゴロツキを物ともしない強さをお持ちになった貴方様のような人材を必要としているのは本当のことですの。どうか一度だけでも、私のギルドを見ていってください! お願いしますわ!」
そう言ってモニカは身を低くさせて、土下座をしようとした。
慌てて止めに入る。
「分かった、分かったから! とりあえず拠点まで案内して、そこで入るかどうか考えるから!」
「本当に……? 本当の本当にですか!?」
「ああ、本当だ」
「ありがとうございますわ! 神様仏さま! さあ、こちらですわ! ついてきてくださいな!」
モニカは純粋な笑顔を浮かべて、俺の引っ張って歩き出した。
その勢いに引きずられるように、俺は綺麗な町並みとは真逆の方向に連れていかれるのだった。