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第2話 裏路地の女の子は一文無し


 ギルドを追い出されてから数日が経過した。


 リントヴルム王国から離れ、俺はある街にやってきた。

 交易が盛んな大都市『ファフニール』という場所だ。


 ファフニールは、十数を超えるギルドが共存している街だ。

 各ギルドは専門分野を持ち、互いに競い合いながらも上手くやっている。


 俺がこの街にやってきたのは、新たなギルドに加入するためだ。

『用済み』『役立たず』と見下してきたリーンとザラキを見返してやりたい。


 付与術士だからと利用するだけして、捨てるような奴らを許せない。

 自分らしくはないとは分かっているけど、ここまで人を憎んだのは初めてだった。

 痛い目に遭わせてやりたい、殺してやりたとさえ思った。


 だけど、リーンがザラキと恋人になる前に、彼女に気持ちを伝えなかった俺にも非がある。

 リーンのことが好きだったのに、告白する勇気が出なかった。


 俺はザラキに負けたんだ。

 利用されていることに気づかず、好きだった幼馴染を取られた。


 だから、今度は二人に勝ちたい。


 正々堂々と。

 そう決意した俺は、パンっと手を叩いた。


『聖なる神盾』のギルドメンバー全員にかけた強化付与を解除したのだ。


 やり方は簡単。

 術者が解除せよと念を込めながら手を叩くと、それだけで強化付与された者から付与術が消滅する。


 彼らがこれから先、どうなるかは分からない。

 付与術を解いたことで没落していくのか、それともS級になるポテンシャルが元々あって地位を維持するのか。


 まあ、せいぜい頑張ってくれという感想しか出てこない。


 ふと、故郷にいた頃のリーナの笑顔を思い出す。

 懐かしさのあまり涙を流しそうになったが、これはもう過去の記憶。


 俺の知るリーナはもういないし。

 これから先は自分の人生を歩んでいこう。





「やめてください! お願いしますから!」


 新たなスタートを切ろうとした瞬間、裏路地の方から女の子の嫌がる声が聞こえた。

 気になって近づくと、チンピラっぽい見た目の男二人が女の子を囲んでいた。


 金髪のお嬢様っぽい容姿の人だ。

 身長は小さめで、幼い感じがする。


「何度も申し上げておりますけどわたくし、本当にお金が一文もございませんの! ですから通行料をお支払いするなんて、できませんわ!」

「んだとコラァ!? だったら別の方法で払えよ! 別の方法でよぉ!」

「べ、べ、別の方法と申しますと……?」


 男二人は顔を見合わせて、下卑た笑みを浮かべた。


「そんなの決まっているよなぁ? か、ら、だ、体で払ってもらおうか?」

「そうそう、金が無ぇなら仕方ねぇよな〜」

「ひっ! 嫌ですわ! そんなの!」


 通行料とか体で払えとか、かなり悪質な二人組だな。

 さすがに見過ごせないので割って入ることにした。


「あのー、すみません。その子、嫌がっているみたいなので、その辺にしたらどうでしょうか?」

「何だテメェ? 邪魔すんなよ」

「そうだそうだ、殺すぞ」


 殺すとは、物騒な。

 発展した綺麗な街なのに、こういったゴロツキもいるとは。


「ひっ、何処のどなたか存じ上げませんが、どうかお助けくださいぃ……」


 女の子は涙目になりながら俺の後ろに隠れた。

 言われなくても目の前で困っている人は全員助けるのが、俺のモットーだ。


「なんならテメェが金出せよ。じゃねぇと、これでぶっ刺すぞ〜?」


 男はそう言ってナイフを取り出した。

 白昼堂々と殺人をする気なのか、この人。


 だけど雰囲気からして本気のようだ。


「なら、こっちもそれなりの対応をしますから」

「カッコつけやがって! テメェは死んどけ!」


 迎え撃つように構える。

 その態度が気に入らなかったのか、男が襲いかかってきた。


「”風のウィンドブレイド”」


 魔法を発動する。

 男のナイフを風の刃で真っ二つに斬って、顔面に飛び膝蹴り。


「ぐはぁ!」


 男はその場に倒れ込んで、気絶した。


 俺は付与術士だが、なにも付与術しか使えないというわけではない。

 ギルドのみんなに追いつくために鍛錬は怠らず、覚えられる魔法は全部覚えてきた。


 そこらのゴロツキには負けない。


「あなたは、どうしますか?」


 突っ立っているもう一人の男を睨みつける。

 すると男は怯えて逃げ出してしまった、仲間を置いていって。

 薄情な人だな、まったく。


「あ……」

「君、大丈夫かい? 怪我はない?」


 背中に隠れていた女の子のほうに振り向いて、声をかける。

 女の子はこちらを呆然と見上げていたが、すぐに思い出したかのようにペコペコと頭を下げだす。


「た、助けてくださって、ありがとうございますわ! どうお礼すればいいのか……お金もありませんですし……」


 育ちの良さそうな口調と、見た目。

 どこかのお嬢様かと思ったが、一文無しか。


 別にお金を取るつもりはない。

 この街の人間なら、情報提供をしてほしい。


「お礼なんて全然いいよ。ただ、教えてほしいことがあって……この街に来たばかりなんだ」

「まあっ、もしかして旅人の方でしょうか? ようこそファフニールに! 何なりとご質問をしてください!」


 女の子は手を合わせ、目をキラキラと輝かせていた。

 近い近い。


「実はギルドを探していて、できればDからBの間ランクに入りたくて。なにか知っていたりする……?」


 そう質問すると、女の子は驚いた。

 目を大きく見開いて、口を半開きにしている。


 そして、ゆっくりと接近してきて。

 女の子に両手を握りしめられてしまう。


「ギルドを探してらっしゃったのですね! でしたら打って付けの場所がございますわ!」

「え、本当に?」

「丁度、貴方様のように強く、心の優しい方を必要としていましたの!」

「へぇ、そうなんだね。それで、ギルドは何処に…」






「どうか! どうか! どうか! どうかぁ!! わたくしのギルド『金色の魔槍ライト・ボルグ』に加入していただけないでしょうかぁ!? お願いしますからぁ!」


 女の子の正体は、ギルドマスターだった。

 一文無しのギルドマスター。

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