追放されたちびっこヒーラー、リアムは最強です!
「───リアム、役立たずのお前は今日でこのチームを追放する!」
冒険者チーム『レッドタイガー』のリーダー、赤色の髪をしたロジェは唇をニヤリとゆがめてわたしにそう言った。
わたしは持っていたパンをポロリとお皿の上におとす。
ずっと仲間として旅をしてきた魔法使いのマリンも弓使いのヤンも、わたしをにらみつけている。
わたしは冒険者チームのヒーラーとして働いている。
ヒーラーというのはみんなのケガを治す回復役で、おもにサポートをする仕事だ。
十才でヒーラーとして冒険者チームに入っているのはとても珍しいことなので、わたしは『ちびっこヒーラー』と呼ばれていた。
この世界にはおそろしいモンスターがいる。モンスターは魔王が生み出しているといわれていて、冒険者たちは困っている人たちを助けながら、魔王を倒すために自分を鍛えている。
冒険者チームは四人でつくり、前にでて戦う剣士や槍使いや武闘家。
後ろから支援する弓使いや魔法使い、召喚師、回復役がいる。
クエストとというお仕事をクリアしていくことでお金をもらい冒険者チームのランキングが上がっていくのだが今、レッドタイガーのランクはSランク。
わたしが九才でレッドタイガーに入ってから、もうすぐ一年になろうとしている。
わたしと出会った時はまだ、レッドタイガーはBランクの冒険者チームだった。
冒険者チームは下からC、B、A、S、SSとランクがわかれている。
そのなかでSSランクはたった一チームだけだ。
Sランク冒険者チームはレッドタイガーを含めてゴールドキャット、シルバースネークの三組のみ。
「リアム! おい、聞いているのか!」
ロジェが怒って声を上げているが、わたしはパンを手にとってから口に詰めこんだ。
『食べられる時にたくさん食べとけ!』
冒険者だったわたしのお父さんが口ぐせのように言っていた言葉だ。
リアムはパンをゴクリと飲み込んだあとに問いかけた。
「どうしてでしょうか?」
「今言っただろう!? 役立たずだからだよ」
今度はコップに入ったミルクに手をのばしながらロジェの言葉を聞いていた。
そんなわたしの態度にロジェはイライラしているようだ。
しかしリアムは落ち着いていた。
レッドタイガーに身を寄せてからもうすぐ一年と少しになるけれど、わたしはその前からさまざまな死線をくぐりぬけてきた。
この年で?と思うかもしれないが、わたしは赤ん坊のころから、お父さんとお母さんに連れられて冒険していた。
いちばん最初の記憶は母さんにおんぶされながら、巨大なモンスターと戦っていた。
赤と黒の花びら、真ん中にキバがついた口があって、そこから吐き出される息が臭かったことを今でもよく覚えている。
わたしには家も故郷もない。
だいたいは森や街の宿屋で暮らしていた。
森にいる時には自分で食べものをとらなければならない。
お腹がすいた時には食べられるものはなんだって食べた。
その時からわたしの人生は普通ではないと気づいていた。
お父さんとお母さんはとっても強くてこの世界の有名人だ。
わたしは生まれてから二才で魔法の訓練をはじめて、三才でヒーラーの才能……つまり体力を回復できる力があるとわかったのだ。
お母さんは魔法使いでお父さんは剣士。
そしてリアムは回復役のヒーラーで戦うようになると、両親にたくさん褒められた。
それからずっと、わたしは両親を支えられるようにと強くなりたいと努力を続けた。
「リアム、いつもありがとう! お母さんのケガ、あっという間に治してくれて嬉しいわ」
「お父さんたちがいつも戦えるのはリアムのおかげだ」
「これでまたみんなを守るために戦えるわ!」
「リアムはお父さんたちの誇りだ!」
「大好きよ、リアム」
「わたしもお父さんとお母さんがだいすき!」
お父さんとお母さんは、モンスターに困っている人たちを助ける立派な人たちだ。
この力はいつも怪我ばかりする両親を守りたいという、わたしの強い思いがあったから神様が授けてくれたのだと思った。
それが二年前、魔王の城の中でトラップにかかってしまい両親と離れ離れになった。
一人でまったく知らない街に飛ばされてしまったわたしは両親を探そうとしたけれど、なかなかうまくいかなかった。
わたしが両親の話をすると、みんなに「そんなのはウソだろ?」「作り話はやめてくれ」とまったく相手にしてもらえない。
どうやらお父さんとお母さんと旅をしたことがない場所のようでリアムのことを知っている人は一人もいない。
情報を集めようとした時だった。
わたしのお腹はぐぅーっと鳴った。
お金もなく、自分の杖しか持っていないわたしは困っていた。
(これからどうしよう……森だったら木の実や狩りをすれば食べものは手に入るけど、街だったらお金がないと食べものがないなぁ)
とりあえず腹ごしらえをするためにお金が欲しい。
仕事をしなければお金をもらえないことはわかっていた。
仕事を紹介してくれるギルドという場所に行って、お父さんとお母さんのようにクエストを受けようとしても、身元がはっきりしないためダメだと言われてしまう。
そういえば、お母さんがリアムの大切な冒険者カードを管理している。
冒険者カードとはお仕事を受けるために必要なもので、これがないとお仕事を受けることができない。
それに『ヒーラー』だといっても子どもだからと信じてもらえない。
「おい、チビ。大丈夫か?」
「こんなところで一人でいたら危ないわよ? お父さんとお母さんは?」
「コレ、食うか?」
そんな時、お腹をすかせて困っていたところをレッドタイガーのメンバーが声をかけてくれた。
ヒーラーを探しているレッドタイガーの仲間に入られてもらうことにした。
はじめは「そんなお子さまに魔法がつかえるのか?」と疑われたけど、力を使ったら
その時、レッドタイガーは下から二番目のBランクの冒険者チームだったが、リアムが加入してから一年もたたないうちにSランクの冒険者チームになった。
Sランクの冒険者チームは特別で街のみんなの憧れだけど、むずかしいクエストをクリアしなければならない。
今まではブラックキャットとシルバースネークという冒険者チームしかいなかったけど、そこにレッドタイガーの名前がのった。
優しかったレッドタイガーのリーダー、ロジェもリアムを可愛がってくれた魔法使いのマリンも、親切だった弓使いのヤンも、Sランク冒険者チームになってからしばらくすると、人が変わったようにイジワルになってしまった。
みんなからすごいと言われると態度が大きくなっていく。
リアムが「やめましょう」と言っても、やめてくれない。
最近、レッドタイガーの評判はよくないと聞いた。
ロジェはいつもリアムに雑用を押しつけて、女の人に囲まれてえらそうにしている。
マリンは買い物ばかりしてお姫様のように自分をキレイにすることばかり考えている。
ヤンはお酒ばかり飲んで、お肉ばかりたべているから太ってお腹がぱんぱんになって歩くのも苦しそうだ。
リアムはレッドタイガーのメンバーに救われたから、今度はリアムががんばってみんなを支えていこうと思って、戦いの時もみんなが怪我をしないように一生懸命サポートしたし、みんながゆっくり休めるように泊まるところを決めたり、疲れているみんなのためにご飯を運んだりしていたけど『役立たず』と言われてしまった。
(わたし、たくさんがんばったけど……なにがいけなかったんだろう)
リアムの心がチクリと痛んだ。
しかしリアムが両親を探すためにはクエストをクリアしながらいろいろな場所にいって、情報をあつめなければならない。
(お父さんとお母さんはまだ見つからないのに……)
だからこの冒険者チームを追い出されるのは困ってしまう。
「それに笑いもしないで不気味なんだよ! オレをほめないやつなんて、このチームにはいらない!」
「……ほんと、子どものくせにいつも私たちをバカにするように見ていて嫌なかんじだわ!」
「うまい飯屋も探せないし酒も買ってこれないなんて、なんてダメなやつなんだ」
こうして嫌味ばかりいわれるのにも慣れた。
リアムは両親といつも旅をして、ひとつの街にずっといたことはない。
だからこの辺の街のことは、くわしくは知らない。
それにまだリアムは十才だ。お酒は買えないし、ロジェたちがおいしいというご飯屋さんを知らない。
みんなは楽しそうにご飯を食べているけど、リアムにはしょっぱかったり、辛かったりして食べられない。
子どものリアムは離れたところでパンやハム、チーズを食べている。
二年前、出会ったばかりの時にお腹を空かせていたリアムにロジェが大きなパンを差し出してくれた。
その日からパンはふわふわで甘いのでリアムの大好きなたべものになった。
(前の三人にもどってくれたらいいのに……)
クエストをたくさんクリアできたらロジェやマリンやヤンは、とてもよろこんでくれた。
リアムはそのことがうれしくて、がんばりすぎたのが原因かもしれない。
リアムがいなくなったあと、ヒーラーがいなくて大丈夫なのかと問いかける。
「ヒーラーがいなくなって大丈夫ですか?」
「ぶはっ! お前のかわりなんていくらでもいるんだよ」
リーダーのロジェが笑いながらいった。
「もう新しいヒーラーは募集をかけているのよ? レッドタイガーのヒーラーになりたいと、もう十五人も集まっているんだから!」
マリンも自慢するように、うでをくんでいる。
ヤンは酒を飲みながらニヤニヤと笑っている。
「そもそもこんな子どもがヒーラーがこのロジェ様がリーダーのレッドタイガーにいることがおかしいんだよ」
「そうよそうよ!」
それにリアムはたくさんがんばったつもりだったけど、どうやら三人にとってはそうではなかったみたい。
お母さんがよくリアムに言っていた。
『つらいことや苦しいことは、がんばったらがんばったぶんだけ、自分の力になるのよ!』
その言葉通りに、リアムはつらくても苦しくてもさみしくても、今日までチームを支えようと努力していたが……。
「そうですか。わかりました」
リアムは悲しい気持ちになったが、もう前のロジェたちではないと思い、リアムはこの冒険者チームを離れる決意をする。
リアムは立ちあがって、自分の荷物をまとめた。
そして首にかけていたヒモを外す。
レッドタイガーのチームメンバーの証のブレスレットをヒモに通していてネックレスにしていた。
リアムでは腕が小さすぎてブレスレットがとれてしまうからだ。
これはクエストの時になにかがあってもだれかわかるようになっている。
赤い腕輪にトラの形、これがレッドタイガーのメンバーの証だったがそれも今日でおわりだ。
『いいか、リアム! お礼とあいさつはしっかりと!』
こんな時にお父さんの言葉を思い出す。
「今日までお世話になりました。ありがとうございました」
リアムは自分の背丈ほどある杖を持って頭を下げた。
そして三人に背を向けた時だった。
「───ちょっとまて!」
ロジェの声にリアムは足をとめた。もしかして、ここにいてもいいと言ってくれるのかもしれない……そう思っていたリアムの期待は裏切られることになる。
「レレノアを置いていけ!」
「え……?」
レレノアとは、リアムが契約している精霊の名前だ。
リアムが五才の時に、いつどこにいても水に困らないようにと契約したレレノアは透き通った水でできた魚の形をしている。
リアムがレレノアのことがだいすきで、いつも一緒だった。
この国には精霊という不思議な生きものがいて、その精霊に気に入られないと契約することができない。
「レレノアは便利だからオレが契約してやってもいい!」
「レレノアはわたしの大切な家族です。あげられません」
「……なんだと? 生意気なやつめ」
怒っているロジェは剣をにぎった。
するとリアムの頭の横にレレノアが現れた。
レレノアは三人のことがきらいなようで、全然姿を見せなかったけどリアムを守るように空中を泳いでいく。
そして、水を口からビューと吐き出して三人にかけた。
「レレノア!?」
「うわぁ!」
「きゃあああ」
「つめたっ……!」
三人が水をはらっているうちに、レレノアはドアに向って泳いでいく。
リアムはそのまま部屋を出た。
「大丈夫かなぁ」
『リアムはやさしすぎるわ! あんな奴ら、ああなって当然よ!』
「……でも」
『アイツらはリアムになんでもかんでも頼りすぎなのよ。離れられてほんとによかったわ』
レレノアの声が頭の中から聞こえた。
契約しているリアムだけが、レレノアの声を聞くことができる。
特別な力ももっているのだが、それはみんなには内緒だ。
「レレノア、これからどうしよう」
『いざとなったら、リアムはアタシが守ってあげるから大丈夫よ』
「うん、ありがとう。でも、このままだとお父さんとお母さんを探せないよ」
『絶対に見つかるわ。あきらめないで!』
レレノアの言葉にうなずいてリアムは歩きだした。
いつもレッドタイガーのメンバーと一緒にいるけれど、三人はリアムの存在を隠したがるようになった。
名前も広まっていないリアムは街でも他のメンバーとは違って囲まれることもなくスイスイと移動することができる。
お金は少しだけもっているが、お金を管理しているマリンはリアムの働いた分を「子どもだから必要な分だけね」と、ちょっとしかくれなかった。
自分たちはたくさんお金を使っていたのにずるいとおもったが、リアムは使いみちもなかったので、今日までためていてよかったと思った。
(しばらくはご飯は食べられるけど……また冒険者チームに入れるのかな)
リアムの心は不安でいっぱいだった。
それにまたこんな思いをするのはたくさんだ。
まだまだ知らないことばかりのリアムだが、回復役のリアムには戦ってくれる人がいなければクエストを受けることもできない。
(レレノアの魔法も戦い向きじゃないし……)
とりあえずは薬草を集めるお仕事がないかと、ギルドと呼ばれるお仕事の案内所へと足を運ぶ。
薬草についてはリアムはとても詳しいし、あまりお金をもらえる仕事じゃないけれど、しばらくは薬草を集めながらお金を稼ごうと思っていた。
「ティアラさん、こんにちは!」
「あら、リアムちゃん。今日はひとり? いつもえらいわね!」
ティアラはギルドの受付けをしているお姉さん。
金色の髪は肩に切りそろえられていて、青い瞳はパッチリとしていてかわいらしい。
ここにくるとアメやお菓子をくれる。
リアムは三人の代わりにクエストを受けるためにここと泊まっている宿をよく往復していたので顔見知りになった。
「はい。あの、薬草のクエストありますか?」
「薬草取りの仕事はDランクのクエストよ? レッドタイガーにお願いしたいSランクのクエストがたくさんあるんだけど」
レッドタイガーはここでは王様みたいだ。
ロジェはティアラさんのことが好きみたいだけど、ティアラさんは、えらそうなロジェのことがあまり好きじゃないみたい。
「今日、わたしはレッドタイガーの冒険者チームを追い出されてしまって……」
「まぁ! それは大変ね。大丈夫なの?」
ティアラさんは心配そうにリアムを見ている。
「はい、大丈夫です。クエストもらえますか?」
「えぇ……でもリアムちゃんひとりだと心配だわ」
「すこしなら戦えるので大丈夫です」
「そう。リアムちゃん、冒険者カードはある?」
「あっ……」
クエストは全部、リーダーのロジェのカードを使っていた。
リアムのカードはお母さんが持っている。
そして「冒険者カードがないとクエストが受けられないのよ」とティアラさんは眉をよせてこちらを見ている。
「リアムちゃんって、両親を探すために冒険者チームに入ったのよね?」
「はい。そうですけど……」
リアムが返事をするとティアラさんは、なにかを考えているようだった。
「もしよかったら、ヒーラーを探している冒険者チームを見つけておくわね」
「いいんですか!?」
「もちろんよ! 両親を探すんでしょう?」
「……はい!」
ティアラさんの優しい笑顔にリアムはうれしくなった。
それにヒーラーが見つかるまで、ティアラさんの家にいてもいいことになった。
どうやらティアラさんはレッドタイガーにいる時から、ずっとわたしのことを気にかけてくれていたみたい。
なんだか久しぶりにあたたかい気持ちになってうれしかった。
ティアラさんの仕事が終わると、お家に一緒に帰り、ティアラさんがギルドに行くのについていく。
ギルドにはギルドマスターっていう一番えらい人がいる。
しろいおヒゲが生えている優しそうなおじいさんだ。
ギルドマスターがわたしが入れる冒険者チームが決まるまで、特別にここにいてもいいと言ってくれた。
リアムは久しぶりにのんびりとした日々を過ごしていた。
ティアラさんは優しいし、食べるものもティアラさんはわたしのことを気にしてくれて毎晩、美味しいものを作ってくれる。
たまごスープとパンにお肉と野菜の炒めものは、お母さんが作ってくれる料理を思い出した。
そんな日を一週間くらいすごした時だった。
突然、ギルドが静まり返る。
なにごとかと思ったらどうやらギルドにレッドタイガーがあらわれたらしい、
わたしは見つからないように急いで端の方に身を隠した。
「新しいヒーラーがやっと見つかった。ティアラ、登録してくれ」
「……かしこまりました」
ロジェが嬉しそうにそう言った。
どうやらリアムの代わりになる新しいヒーラーが決まったらしい。
わたしとは違って、真っ赤な髪と茶色の瞳の大人のお姉さんだ。
とても綺麗な人で、美しい杖を持っている。
レッドタイガーのメンバーが変わったからか、まわりの人達はザワザワと騒いでいる。
「ヒーラーのエマだ。ずっと俺に憧れたらしい。今回の募集を聞いてチームから抜けたいとオレを頼ってきたんだ」
「わたしはBランク冒険者チームのブルードラゴンのメンバーだったんですけど、メンバーが足を引っ張って大変だったんでしたの」
「そうですか。エマさん、冒険者カードをください」
「今日は冒険者カードを忘れちゃって~。また後日に登録しに来ますね! それにしてもずっと憧れていたレッドタイガーに入れるなんてうれしいですわ」
「ははっ、そうだろう?」
ティアラさんはロジェの言葉を無視しながら、エマさんの冒険者カードを登録している。
「終わりました」と言って、ティアラさんはエマさんに冒険者カードを返した。
(これでわたしはもう、レッドタイガーには戻れないんだ)
そう思うとすこしだけ、さみしい気分になった。
「Sランクのクエストをくれ。新しいチームでさっさとクリアしちまおう。役立たずを追い出せてスッキリしたぜ」
「そうね! それがいいわ」
「楽しみですわね」
「行こう……」
ロジェとマリン、ヤンとエマさんは楽しげに話しながら行ってしまった。
でもわたしは前に進まなければならない。
(わたしはお父さんとお母さんを見つけるために、新しい冒険者チームに入れてもらうんだ!)
四人が去ったあと、ティアラさんが心配そうな顔でこちらに近寄ってくる。
周りの人達もわたしがレッドタイガーから追い出されたことを知っているからかコソコソと何か話している。
そんな嫌なお話から守るようにティアラさんが「大丈夫だからね」と言ってわたしを抱きしめてくれた。
あたたかい体温に、わたしはこれからがんばろうって気持ちになれた。
「気にしなくていいのよ?」
「ティアラさん、ありがとうございます」
わたしが笑顔を見せるとティアラさんは安心したのか、ホッと息を吐き出した。
他にも、レッドタイガーのえらそうな態度のせいで嫌な思いをした人達がいたみたい。
わたしと話してみたかったという人たちもいて、この街にきてから、はじめてこんな風にいろいろな人と話すことができた。
今まで、ロジェ達に関わることが怖くて話しかけられなかったみたい。
わたしの周りに集まってきてティアラさんみたいに「すぐに次のチームが見つかるさ」と、励ましてくれた。
さっきまでの嫌な気持ちは全部消えてしまい、その日の夜はとてもいい気持ちで眠ることができた。
次の日もティアラさんと共にギルドに行くと、なんだかとても騒がしいことに気づいた。
人がたくさん集まっている真ん中に三人の人が苦しそうにしているのが見えて、わたしとティアラさんは三人に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「ゔっ……!」
「……だ、れか! たす、けて」
「ゴホッ、ゴホ……」
痛そうにしている体の大きな男の人から声が聞こえた。
女の人も今にも倒れてしまいそうだ。
もう一人の細くて髪の長い男の人も苦しそうに咳をしている。
ギルドマスターが薬草から作った回復薬という体力を回復させる薬が入っているビンを持っているが、どれも空っぽだった。
「ヒーラーに罠にはめられて、いきなり逃げてしまったようじゃ」
「まぁ……! なんてことを。もっと回復薬はないのですか?」
ティアラさんが焦ったように言った。
でも、もうこのギルドにある回復薬はすべて使ってしまったようだ。
(苦しそう。助けてあげなくちゃ……!)
わたしはこのままではいけないと思って、持っていた杖を前に出して三人の前に立った。
「そっか! リアムちゃんはヒーラーだから回復できるのね」
「はい、任せてください」
わたしがそう返事をしても周りにいる人たちは「あんなちびっこに、こんなにケガをしている人を治すのはむりだ」「普通のヒーラーだって、すぐには治せないぞ?」と、わたしが本当にヒーラーとして力を使えるのかを疑っているみたい。
そういえば、レッドタイガーにいた時はわたしがメンバーをサポートしていたからケガをしたことも少ないし、ケガをしてもギルドに帰る前までには回復していた。
だから、わたしはあまり役に立っているように見えなかったかもしれない。
だからこそいらないと言われてしまったけれど、わたしは苦しんでいる人たちを助けたい。
わたしは目を閉じてから大きく息を吸った。
ドンッと杖を床に叩きつけるのと同時に、キラキラと金色の光が浮かびあがる。
ビュービューと温かい風が吹いて、金色の光が三人に吸い込まれていく。
すると、三人はさっきまで苦しんでいたことが嘘みたいに元気になっている。
大きな体の男の人は両手を見ながらびっくりしているし、高い位置で髪の毛をひとつに結んでいる女の人は「信じられない」と言っている。
髪の長い男の人も喉を押さえながら、目を大きく見開いている。
「みなさん、元気になってよかったです」
わたしがそう言っても、何故か誰も喋らない。
しかしすぐに拍手と歓声が聞こえてくる。
当たり前のことをしただけなのに、どうしてこんなにみんなが喜んでいるのかわからないけれど、わたしは杖を握りながらキョトンとしていた。
ティアラさんがわたしを勢いよく抱きしめて、とても喜んでいる。
「リアムちゃん、すごいわ! さすがSランク冒険者チームのヒーラーだわ」
「元、ですけど」
「どうしてこんなにすごいリアムちゃんをチームから外したのかしら。この実力ならどのチームでも引っ張りだこなのに」
ティアラさんはそう言って頬を膨らますと、わたしをたくさん褒めてくれた。
そのことでなんだかお父さんとお母さんに褒められたことを思い出して、ほっこりとした気持ちになった。
レッドタイガーにいた時は、ヒーラーとして頑張っても「当たり前だ」「まだまだオレたちの実力には届いていない」と言われていた。
わたしはすっかりと自信をなくしていた。
「そうなのでしょうか?」
「そうよ! あなたは素晴らしいヒーラーだわ」
ティアラさんがそう言った瞬間に、大きな拍手が聞こえた。
「すごいぞ! ちびっこヒーラー」「かっこいいぞ!」
そう言われてなんだか照れくさい。
だけど、この笑顔をみたくてわたしはヒーラーになったんだと思い出す。
「みんな聞いて、リアムちゃんは両親を探すために冒険者チームを探しているの。もし、チームにヒーラーが必要なところがあったら、私に教えてね」
「ティアラさん、ありがとうございます」
「人が集まっているうちに宣伝しなきゃね! きっと今の実力を見てたくさん募集がくるわよ」
だからこうして認められることは、やはり嬉しいことなんだなって、改めて思うことができた。
周りにいる人たちも、わたしの実力をほめてくれた。
するとさっき、傷を治した三人が立ち上がってから、こちらに向かって頭を下げた。
「本当にありがとう。助かったよ」
「いえ、困った時はお互い様ですから」
わたしがそう言うと、三人は顔を合わせて頷いた。
「よかったら、うちのヒーラーになってくれないか?」
「え……?」
まさかこんなにすぐにヒーラーを必要としている冒険者チームが見つかることになるとは思わずに、わたしは目を見開いた。
「俺は〝ブルードラゴン〟のリーダー、斧使いのジャックだ」
「さっきはありがとう! ウチはブルードラゴンで魔法使いのエルザだよ」
「ぼくは、イヴ……獣使い」
ジャックさんはわたしよりも大きな斧を持っている。
立派な眉毛と、ツルツルの坊主頭と筋肉もりもりのたくましい体。
声も低くて怖そうに見えるけど、笑顔がとっても優しそう。
エルザさんは長い青い髪を高い場所で結えているお姉さん。
魔法使いの帽子と青い宝石がはめこまれた杖を持っている。
そしてイヴくんは耳が横に長くて前髪で目元が見えない男の子。
白い髪はとても珍しいし、耳が長いエルフと呼ばれる人たちがいる。
お父さんとお母さんとエルフの里に行ったことがあるけれど、みんな魔法を使うのがとても上手。
エルフは人間よりも年を取るのが遅くて、とても長生きなんだって。
イヴくんはそんなエルフたちにそっくりだった。
獣使いは動物達に力を借りて、周りの様子を探ったり、仲良くなったりするのだと聞いたことがある。
「ブルー、ドラゴン……?」
「ああ、まだBランク冒険者チームだが、上にいけるように努力している最中だ!」
「二週間前にBランクからAランクの冒険者チームになる試験クエストを受けていたのに、ヒーラーがお金を持って逃げちゃって、置き去りにされたのよ」
「……アイツ、最低」
ジャックたちがそう説明してくれたのを聞いて、なんだか嫌な気持ちになった。
大切な試験の日に、仲間を置き去りにして見捨てるなんて信じられない気持ちになった。
「とりあえず、話は食べながらでもいいか? 三日もほとんど飲まず食わずで歩いてきたから疲れちまって!」
「はい」
ギルドのクエストを受け付けるところの反対側には冒険者専用のレストランがある。
どうやらティアラさんもお昼休憩のようで、一緒にご飯を食べることになった。
ジャックさん達の前に置かれたのは小さなパン。
お金はそのヒーラーにすべて取られてしまったんだって。
わたしはお腹を空かせていたジャックさん達にご飯をご馳走することにした。
ジャックさんとエルザさんとイヴくんは泣きながら喜んでいる。
それにティアラさんにも普段の御礼がしたいからと、頼んでいた特大ケーキを出してもらう。
一週間、一緒に暮らしてきて、ティアラさんが甘いものが大好きだと知っていたから、わたしはギルドマスターにお願いして、レストランのウェイターとして働けるように頼んだ。
ティアラさんが受付として働いている間に、仲良くなったレストランのシェフに頼んでいたのだ。
『人にいいことをすると、回り回って自分のところに帰ってくるんだから!』
そうお母さんが言っていたことを思い出す。
「リ、リアムちゃん……! このケーキ、わたしのために?」
「はい、わたしによくしてくれてありがとうございます!」
「リアムちゃん~~~っ! ありがとう、大好き! なんて良い子なのかしら!」
優しいティアラさんに少しでも御礼がしたいと思ったのだが、どうやら喜んでもらえたようだ。
ジャック達も「生きててよかった~」と言いながら、お肉を頬張っている。
わたしもパンにお肉とチーズを挟みながら食べていた。
お腹いっぱいなると、ジャックとエルザとイヴがわたしに深々と頭を下げている。
そして今まで起こったことを話してくれた。
そのヒーラーと出会ったのは一ヶ月前。
ずっとブルードラゴンにいたヒーラーが、ギックリ腰になって引退してしまったそうだ。
しかし試験クエストが迫っていて急遽、ヒーラーをチームに入れたけど、裏切られてしまったのだそうだ。
『困ってるなら元Aランク冒険者にいた私がサポートするわ』と言っていたが、実際には特にヒーラーとしての役割を果たせないままだったそうだ。
そしてクエストをクリアする前に、現れたAランクモンスター、キマイラに出会ってしまった。
キマイラとはライオン頭にヤギの体、毒蛇の尻尾をもつ、怖いモンスター。
そのモンスターを倒そうとしたけれど、ヒーラーが逃げ出してしまい、みんな手傷を負ってなんとかここまで帰ってきたそうだ。
冒険者チームのランキングを上げるには試験のクエストを受けなければならない。
それは一つ上のランクのクエストを受けて成功すればランキングが上がって、失敗すればそのままだ。
そして試験クエストを受けられるようになるまでは、クエストをたくさん受けて成功させなければならない。
厳しい条件をクリアしていかなければ、ランキングは上げられないのだ。
何より高い冒険者ランクになればなるほど、命の危険があったり、難しいクエストが増えていくから。
「あのエマってヒーラー、元Aランクチームにいたなんて言っていたけど本当にそうだったのかしら? 絶対嘘よ……!」
「ああ、そうかもしれない。俺が焦っていたばかりによく素性を調べずに。なかったからこうなってしまったんだ」
「リーダーのせいじゃないわ!」
「そう、あの人……嘘をついた」
わたしは『エマ』という名前に聞き覚えがあったが、今はそれを言える雰囲気ではないため黙っていた。
「とにかく、君のおかけで助かった。もう二度とエルザとイヴをこんな目に遭わせたくないんだ」
「……!」
「ううん、ウチらも力不足でごめんなさい。リーダーの足を引っ張っちゃって……」
「結局、リーダーに助けてもらった。ボク、情けない」
「そんなこたぁねぇ! 誰がなんといおうとエルザとイヴは自慢のメンバーだ」
わたしはジャックさんの気持ちを聞いて、本当に仲間思いの人なんだと思った。
そんなジャックさんは飲み物を一気に飲んだ後にリアムの元に膝をついて、視線を合わせてくれた。
「リアム、本当にありがとう! この恩は絶対に忘れないからな」
「いえ……大したことは」
「きっとすごいチームにいたヒーラーなんだろう? こんなに素晴らしい治癒魔法を見たのは、はじめてだよ」
「ありがとうございます」
「もちろん、無理にとはいわねぇよ」
ニカッと笑ったジャックさんは、わたしの頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。
ゴツゴツとした手のひらがなんだかお父さんの手の感覚を思い出す。
でも、それと同時に怖いなって気持ちもあった。
(またレッドタイガーの時みたいに裏切られたら……)
わたしが顔を伏せていると、ティアラさんが口元にクリームをたくさんつけながら、わたしの肩に手を置いた。
「リアムちゃん、大丈夫よ」
「え……?」
「ブルードラゴンのみんな、聞いて。リアムちゃんはね、冒険者の両親を探すために旅をしているの」
「冒険者の両親? だからこんなにちびっこなのか」
「はい」
「それでね、リアムちゃんは今までSランク冒険者チームのレッドタイガーにいたんだけど」
「レ、レッドタイガーに!?」
ジャックが大声で叫んで立ち上がったことで、こちらに注目が集まった。
咳払いをして椅子に座る。
「そんなすごいヒーラーがどうして冒険者チームを探しているんだ?」
「リアムちゃんのこと、役立たずって言って追放したみたいなの! 信じられないでしょう?」
「あんなすごい力を持っているのに?」
「でもボク、リアムのこと……知らない」
イヴとエルザがこちらを見ながら不思議そうに首を傾げた。
Sランク冒険者チームにいながら、リアムの名前は全然広がっていない。
わたしは名前が広がらなくてもよかったし、三人がよく行く酒場や食事には一緒にいなかった。
雑用はたくさんしていたから、ギルドマスターやティアラさんみたいに知ってくれている人もいる。
そう説明すると、ブルードラゴンのメンバーはびっくりしていた。
そしてティアラさんは思い出すように言った。
「あの三人、最初の頃はいい冒険者だったんだけど……リアムちゃんのことを利用するだけ利用して、どんどんと欲に溺れてしまって。私も何度か注意したんだけどSランク冒険者に逆らうのかと言われてしまって……」
「ティアラさん、ありがとうございます」
「ううん、だって三人の態度は目に余るものがあるって、うちのギルドでも問題になっていたの。でもSランク冒険者にしか頼めないクエストがあるのは事実だから……」
ティアラさんはそう言って悲しそうな顔をしていた。
口元についたクリームを拭くように、わたしはティアラさんに布を渡した。
ティアラさんの前にあった大きなケーキはいつの間にかなくなっている。
とにかくティアラさんはとっても可愛いけれど、たくさん食べる。
わたしはお腹がいっぱいになり水を飲んでいると、ジャックがこう言った。
「だが元Sランク冒険者チームのヒーラーなんて、どのチームだって欲しがるだろう? なんでリアムには声がかからなかったんだ?」
エルザとイヴもジャックの言葉に同意するように頷いている。
「わたしには冒険者カードがありません。お母さんが持っているからチームに入れてもらえないとクエストも受けられないんです」
「そうか。冒険者カードがないのか……!」
「はい。子どもですし、得体の知れないわたしを受け入れてくれる人はなかなかいません」
「そういうことか」
ティアラさんのおかげで、ヒーラーを募集しているからと何チームか声をかけてくれた。
けどレッドタイガーに恨みを持っていたり、子どもだからと馬鹿にしてきたり、冒険者カードを持っていないことを理由に取り合ってもらえなかった。
そういえばヒーラーとしてブルードラゴンに入ってきたエマも『冒険者カードはあとで登録する』と言ったそうだ。
冒険者カードを持っていないから、あとで登録するといって、騙して冒険者チームからお金を持って行ってしまうらしい。
そういう事件がたくさん起きているから、冒険者カードを持っていないと警戒されてしまう。
「ですがリアムちゃんはとっても良い子なのは私が保証するわ!」
ティアラさんが胸に手を当てて言った。
それから一週間、一緒に暮らしたことも話してくれた。
「ティアラ~! お昼休憩終わりだよ」
ほかの受付の人がティアラさんに声をかける。
「リアムちゃん、本当にありがとう! 私は仕事に戻るわね」
ティアラさんはわたしを抱きしめると、受付の仕事に戻って行った。
「俺たちは、もちろんリアムを疑ってはいない。むしろチームに入ってくれたらありがたいくらいだ。リアムの方から俺たちに何か要望はあるか?」
ジャックさんの言葉に、わたしは心にある不安を話してみることにした。
「チームに入れるのは嬉しいのですが……」
「なになに? なんでも言って?」
「レッドタイガーのメンバーはSランク冒険者チームになり、お金も地位も名誉を手にして、どんどん変わっていきました……それが怖いんです」
わたしはこのことを話そうかどうか迷ったが、また悲しい気持ちになってしまうことが嫌だった。
「……リアム、可哀想」
イヴくんが、わたしの髪をそっと撫でる。
ジャックさんは顔を伏せていたが、大きく頷いた。
「俺達はリアムを裏切ることはない。それから一緒に両親を探す手伝いをしよう!」
「え……?」
「うん! ウチもそうしたいっ」
「ボクも……賛成」
わたしはジャックさん達の言葉にびっくりしてしまう。
それと同じで、とても嬉しかった。
レッドタイガーにいる時でも、わたしは一人で両親を探していた。
でもジャックさんもエルザさんもイヴくんも『一緒』にと言ってくれた。
(……嬉しいな)
わたしが嬉しくてモジモジしていると、エルザさんがティアラさんのようにわたしを抱きしめてくれた。
わたしが小さくて可愛いと言ってくれた。
四人チームにはそれぞれ役割がある。
前衛といって、ジャックさんやロジェのように剣や斧、槍などで戦う人達。
そして魔法使いは呪文を唱えて攻撃をする。
この世界には魔法しか効かないモンスターがいるんだ。
基本的にこの二人が戦いにおいて重要なんだ。
そしてパーティーをサポートと回復するのがヒーラーと呼ばれる回復役。
わたしのように杖を持って魔法使いみたいに回復魔法をつかう人もいるけど、中には聖職者みたいに本を通して回復したり、薬草を作ってサポートアイテムを作れる薬師がいる。
そして遠方から支援する役割がヤンのように弓で攻撃したりイヴくんのように動物を使って探知したりしながら支援する人もいる。
それからブルードラゴンのメンバーにチームを結成した理由を聞いていた。
ジャックさんはベテランの冒険者でとても強いんだって。
だけどお人好しで困った人を助けてばかりいるから、なかなか冒険者ランクが上がらないらしい。
戦いではベテランだと、今回のように騙されちゃうこともあるみたい。
エルザさんは魔法使いだけど、緊張すると効果がたくさん出過ぎちゃって仲間を巻き込んで爆発させてしまうみたいで、色々な冒険者チームを追い出されちゃったみたい。
魔法使いの落ちこぼれって言われて悔しい思いをしているんだって。
イヴくんは珍しく森から出てきたエルフ。エルフは大体、エルフの里にいて、あんまりこちらの世界には出てこないんだけどイヴくんは広い世界を見て周りたくてエルフの里を飛び出してきたみたい。
エルフが得意な弓も使えないし、魔法も好きじゃないイヴくんは動物に手伝ってもらいながら冒険者をしている。
できるのは動物を使った偵察だけだから、役立たずって言われて冒険者チームを追い出されてブルードラゴンに辿り着いた。
そんな二人を面倒見のいいジャックさんが見ているみたい。
「弱くたって、迷惑をかけたって、支え合っていこう! 俺たちは家族だからな!」
「……家族?」
「そうだ。この二人は仲間に裏切られたり、嫌なことを言われたりして冒険者チームを追い出されちまった。だけど俺だけは見捨てないって決めてんだ」
「ウチもジャックさんのためなら頑張るから!」
「ジャックさん、好き」
「おう! お前らありがとな」
わたしは三人の会話を聞いて、いいチームなんだなって思った。
ジャックさんのその言葉にリアムはチームに身を寄せることを決めた。
「わたし、ブルードラゴンに入りたいです!」
「本当か!?」
「はい」
もう一度だけ信じてみようと思った。
ティアラさんのお仕事が終わるまで待っていて、正式にブルードラゴンのチームに入れてもらうことなった。
仕事が終わったティアラさんにお礼を言わなければならない。
「よかったね、リアムちゃん」
「今までお世話になりました」
「あ、そっか。今日からはブルードラゴンのところに行くんだもんね」
「はい。ジャックさんが今日から来ていいって言ってくれたので」
「リアムちゃんと一緒に過ごした一週間、とても楽しかったよ」
「ティアラさん、ありがとうございます!」
ティアラさんは少しさみしそうに笑った。
冒険者チームは大体、同じところで暮らしている。
レッドタイガーも今は召使いがいるような、大きなお屋敷に住んでいた。
魔法使いのマリンの希望だった。
一人ずつのお部屋がとっても広くて、ヤンはいつも食べ物を食べていたし、マリンはお買い物ばかり。
ロジェはいつも女の人に囲まれていた。
その前はお父さんとお母さんと野宿ばかり。
ブルードラゴンはどんなところに住んでいるのか気になって、わくわくしながらギルドを出た。
街をまっすぐに抜けて、森に入る前にエルザが小さな杖に火の玉を灯す。
森の中を進んでいくと、小さな家が見える。
イヴがピューと口笛を吹くと茂みの中がガサガサと揺れ動く。
顔を出したのはリスやウサギ、鹿や小鳥などが顔を出す。
「うわぁ……!」
こんなにたくさんの動物たちを見たことがなかったわたしは声を上げた。
いっせいにイヴくんの元に駆け寄っていく。
「ん……みんな、ただいま」
イヴの体は小動物で埋もれている。
わたしの元にも小鳥やリスが何匹か来てくれた。
「リアムのこと、好きみたい」
「本当ですか?」
「うん」
イヴくんの言葉に嬉しくなった。
ジャックさんに呼ばれて家の中に入る。
広い家の中には木の匂いがして、ろうそくの灯りがユラユラと揺れ動いている。
なんだか温かい雰囲気を感じていた。
イヴくんはみんなのお世話にしに外へと向かった。
ジャックさんは「部屋を片付けなきゃな」と言って、早足で部屋へ。
その間、エルザさんに家の中を案内してもらう。
「こっちが体をキレイにする場所で、ここがみんなでご飯を食べる場所ね」
「はい」
「二階に上がってリアムの部屋は……」
──ドンガラガッシャーン
「今、ジャックさんが片づけているからちょっと待っててね。でもこの扉がリアムの部屋ね」
「わたしの部屋……」
「今は物がたくさんあって……でもジャックさんがすぐに片づけてくれるからね」
「はい」
今までリアムの部屋はなかったので、自分の部屋があるのはとても嬉しいと思った。
エルザさんは自分の部屋とジャックさんの部屋を案内してくれた。
イヴくんは動物達と一緒にいたいから、外にテントを張って眠っているみたい。
ジャックさんがたくさんの荷物を持って扉から出てきた。
「エルザ、あとは魔法で埃を窓から出してくれ」
「オッケー、ウチに任せて!」
部屋に入るとベッドとテーブルがある部屋があった。
(これが、わたしのお部屋……!)
わたしは目をキラキラと輝かせた。
エルザさんは窓を開けて杖をとり出してから呪文を唱える。
すると小さな竜巻が起こって、部屋の埃が巻き上がって窓から出ていく。
「ふぅ! うまくいったわ!」
「ありがとうございます。エルザさん」
「もっとうまくできるといいんだけど、大きな魔法を使おうとすると緊張しちゃって……」
「そうなんですか?」
「でも、リアムに喜んでもらえてよかった」
ニコリと笑ったエルザさんはうれしそうに笑った。
「女の子が増えてうれしい~」と、わたしを抱きしめてくれた。
「今日は一緒に体を綺麗にしてゆっくり休みましょう! 明日、布団は干さないといけないから、今日はウチの部屋においでよ」
「いいんですか?」
「もちろん!」
この後、エルザさんが水魔法を使ってたくさんの温かい水を出してくれた。
体をピカピカにしてから、みんなが集まるリビングルームに向かった。
そこにはジャックさんとイヴくんもいた。
「ブルードラゴンはリアムを入れて四人になったな! これから協力してたくさんのクエストをクリアしてAランクの冒険者チームを目指そう!」
「ウチもがんばる!」
「ボクも……がんばりたい」
三人は手のひらを合わせている。
わたしは視線を感じて、ゆっくりと手のひらを合わせた。
「これからがんばるぞっ!」
「「おー!」」
「お、おー!」
元気に手を上げたエルザさんとイヴくんを見てわたしもマネをして手を上にあげた。
なんだか少し恥ずかしくて、懐かしい感じがした。
(今日から新しい生活がはじまるんだ。なんだかわくわくする……!)
心に新しい風が吹いている気がした。
end