ミクラル王国!
芸術の国、ミクラル王国。
広がるのは、水と美の都。
大小さまざまな運河が街を縫うように流れ、その水路を滑るように走るのは、魔導推進で動く黒いゴンドラ。
舗装された白石の通路には人々が行き交い、街角では即興劇を演じる劇団や、音楽を奏でる吟遊詩人の姿も珍しくない。
建物のすべてが“美”を意識して作られており、石造りのアーチ、彫刻の施された欄干、染め上げられたステンドグラスの窓すらも、通行人の足を止める。
魔法による照明や音響技術は、文化芸術に特化して進化を遂げており、ここミクラルでは“表現の自由”こそが神聖とされていた。
──すべてが、美を称えるためにある国。
それが、ミクラル王国だった。
「ふぁーっ!!!すごいですリュウトさん!!」
「ん、やっぱり感動するもんなんだな」
「そりゃそうですよ〜っ、人生で一度来れるかどうかなんて……夢みたいですっ!」
「あれ?なんかデジャヴだな?」
アカネは尻尾をぱたぱた揺らしながら、きらめく水面と彫刻の街並みに目を輝かせていた。
俺たちは今“城からのポータル”を使い、直接ミクラルの中心部《ナルノ街》に来ていた。
ちなみに、普通に手続きをしてギルドから転移してくるみやは後から合流する予定。
どうやら時期が悪く、《ニューイアーフェスティバル》前の混雑でみやは少し足止めを食っているらしい。
「見てくださいリュウトさんっ!あっちの屋台、おいしそうっ」
「……見えてる」
「ほらっ!あの建物っ!まるでお菓子みたいですよ!」
「うん……」
「変な石ありましたっ!」
「……なぜ報告する」
アカネのテンションは、ここ最近で一番高い。
まぁ、無理もないか──この街自体が“目に入るものすべてが芸術”だからな。
「……さて、そろそろ身だしなみを整えないと」
俺たちの今の装備はグリードで購入した安価な鉄の防具。
ミクラル王国ではまた違ったデザインの装備だ。
値段は高いが。
「たしか、ギルドで聞いた話じゃ、この辺に有名な防具屋が──お、あった」
目に飛び込んできたのは、黄金に輝く文字で《GOLD》と書かれた看板。
中に入ると──
「……すごい」
「えっ!?これ、ほんとに防具なんですか!?」
高級ブティックのような内装。陳列されているのは、レースのドレスやシルクシャツ、精巧な刺繍の入ったロングコート……ぱっと見、どれも防具には見えない。
だが、ミクラルの高級防具は“芸術と魔法防御”の融合。
つまり、見た目が美しくなるほど強度も上がるという、見た目至上主義の極致だ。
「この世界……本当に、理にかなってるな……」
高級になるほど“布”に近づく。
防弾チョッキのような重装備より、柔らかく自在な防御が魔法で可能なら──そりゃこうなるわけだ。
「さて、選ぶか」
俺は店内を一通り見て回りながら、慎重に吟味する。
俺たちの目立ちすぎないラインで、かつ英雄として見劣りしないもの。
昔の世界の常識に縛られてはいけない。たとえばマントも、この世界では“装飾”でなく“拡張魔法陣”として重要な役割を持っている。
「むぅ……」
配色にも悩む。
ミクラルの流行りは“静謐かつ鮮やか”らしいが、王に会うなら“格式と誠実さ”も必要だろう。
そのとき。
「リュウトさんっ、これっ!私に似合いそうですかっ?」
「え?……あ、あぁ……うん。似合うな」
尻尾をぴこぴこさせながら「こっちも可愛いですね〜っ」と次々に試着服を選び始めた。
……これは時間がかかりそうだ。
「何かお探しですか?」
アカネはともかく、俺は何も持たずに迷っていたので店員さんが声をかけてきた。
「そうですね、この国に来るのは初めてで……」
「あら、そうなんですね、それでここに来るとはお目が高いです」
「そういや、他の防具屋とどう違うんですか?」
「私たちの防具は基本的に性能面はもちろん、デザインも一級品です、ここの店長はかなりの腕でして、ここだけの話……ミクラルの騎士達の防具のデザインも担当してるんですよ」
「ほう、なるほど」
それなら話は早い、つまり、ここの服はどれも一定基準を満たしていると言っていいだろう。
「どうしますか?此方で合う服を__」
「いや、俺の仲間に任せるよ」
そう言ってテンション上がって服を選んでるアカネを指さすと店員は「わかりました、何かあればお声がけください」と去っていった。
どうせ何選んでもいいなら仲間に選んでもらったほうがいいだろう__
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気がつけば、空は茜色に染まっていた。
「似合ってますよ!リュウトさんっ!」
「そうか。ありがとう」
俺はアカネに選んでもらった新装備を身につけ、ミクラルの石畳の道を歩いていた。
装いは黒と深紅を基調に、引き締まったシルエットに金の縁取りが施された凛としたデザイン。
「そっちも、よく似合ってる」
アカネも赤を基調にした小さな金の刺繍が散りばめられた上品な仕上がりの装備。
「えへへ……ちょっとだけ、おそろい風にしてみたんですっ」
アカネの頬が赤くなりながらも、少し誇らしげに胸を張る。
「(……ほんとはカップル用の装備だったんですけど、内緒です)」
「さて。明日はミクラル城だな」
「はいっ!……でも、みやさんが居ないのはちょっと寂しいです」
「みやも後で合流する。俺たちは俺たちで、この街を楽しんでおこう」
「はいっ!」
「……腹、減ってないか?」
「お腹、ぺっこぺこですっ!」
アカネの尻尾がぶん、と元気よく揺れる。
「よし、じゃあ食べに行くか」
新装備。
しばらくはこれにお世話になりそうだ。




