恋を叶える為のラブロード
「……さて、と。頭を整理しよう」
宿の天井をぼんやり見つめながら、ひとりごちる。
冒険者になりたてのゴールドランクが、グロッグドラゴンを討伐。
その事実だけでギルドは大騒ぎ。
危険地帯に新人を送ってしまったことについて、上層部から何度も頭を下げられた。
(テンプレ通りの展開ってのは、安心するな……)
だが、問題はそこじゃない。
帰り道、ユキと一緒に町へ戻るまでの間、俺はありったけの質問をぶつけた。
未来から来た彼女の言葉は、どれもが重く、絶望的だった。
俺がこの世界に来た“意味”。
そして、この世界で“何をすべきか”。
未来から来たという少女――ユキ。
あの子が話してくれた情報は、今後の道を決める指針になった。
「まず一つ、この世界には“魔王”が存在する」
城では“封印された”と聞かされたが、それは偽りだった。
いずれ、再び世界に災厄がもたらされる。
そのとき、俺たち――勇者はどうするのか。
もう一つ、忘れられない事実。
「俺は……未来で死ぬ」
誰かに殺されたわけじゃない。
戦いの中で倒れたわけでもない。
自ら、命を差し出す――
その理由が、“彼女”だった。
金髪、青い瞳、そして異常なまでに美しい容姿。
名前を知らずとも、心の奥に焼きついて離れない、あの人。
――アオイさん。
ユキは、彼女の“娘”だった。血の繋がりはなくとも、“育ての母”と呼ぶほどに深い絆があった。
そして、アオイさんは未来で『女神』と同化し、世界を終わらせてしまう存在になる。
『女神』の存在は城で聞かなくても子供でも知ってるこの世界の絶対悪。
なぜそうなったかは分からないが、未来の結果が物語っている。
「女神が……アオイさんだなんて」
正直、信じたくない。
でも、ユキの話には矛盾がなかった。
なら、答えは一つ。
「――俺の目的は、“アオイさんの中にある女神を取り除く”ことだ」
彼女を殺さない。
救い出す。彼女自身を、未来の悲劇から。
そのために必要なことも、整理できている。
⸻
◆【現状整理】◆
・魔王は存在する。いずれ現れる。
・女神=アオイさんは、未来で世界を滅ぼす。
・俺は未来で彼女の為に命を落とす。
・俺は自分でパーティーを作るタイプ(テンプレB型)。
・今はゴールド冒険者、上を目指す必要がある。
⸻
「まずは、“ダイヤ冒険者”になる」
この世界では世界地図がない。
街を出て、生きて帰れる者が少ないため、未踏地が多すぎる。
だから、ダイヤ冒険者以上にならなければ、自由に探索もできない。
「ギルドの認可を受けて街を出るなら、城も表立っては文句を言えない」
勇者が無断で姿を消せば、それは国際問題になりかねない。
でも、規則に従っていれば、誰も止められない。
――正攻法で進む。テンプレ通りでいい。
その先に、俺が救いたい未来があるのなら。
「…………アオイさん」
今頃、どこで何をしてるんだろう。
会いたい。
でも、会うのが怖い。
もし、冷たい目を向けられたら――
俺の想いが、一方通行だったら――
「……くそっ」
胸が締めつけられる。
こんなにも誰かを想って、苦しいなんて……初めてだ。
でも、それでも――
俺は、恋を叶える。
テンプレを辿ってでも、テンプレを壊してでも。
この世界で、彼女を救う。
彼女に愛される俺になる。
「――これが、俺の“ラブロード”だ」
迷いは、もうない。
アオイさんを救うための物語は、ここからが本番だ。