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恋に落ちたその日。


 ____っ!?!?!?


 その日、俺は――


「……綺麗だ……」


 一緒に召喚された、ひとりの女性に恋をした。


挿絵(By みてみん)


 


 ◇ ◇ ◇


「……」


 放課後の教室。

 淡い夕日が差し込む窓辺で、俺は静かに座っていた。


 どうでもいい。将来も、進路も、友人関係も。

 教科書なんて全部暗記しているし、金を稼ぐ手段も探せばいくらでもある。

 そんな俺が、どうして毎日学校に来ているのか。


「……」


 理由は一つだけ。

 たった一人、友達がいるからだ。


 


 帰り道。西日が沈みかける駅前通りを、俺たちは並んで歩いていた。


「お前、また春香たちにいじめられたのか?」


「えへへ……」


 俺が声をかけたのは、低身長で体重86キロ、運動も勉強もダメなやつ。

 だけど俺の唯一の友達、タカノリだ。


「俺が言ってやろうか?」


「いや、いいよ……」


 タカノリは女子グループから目をつけられ、日常的にいじられている。

 俺は何度か注意したが、現実は漫画みたいにいかない。

 せいぜい嫌味を言われるくらいで終わる。


 でも、それで十分だった。


 


「……よし、なら今日はマックでも奢ってやるよ」


「い、いや……今日はちょっと用事があって……」


「用事?」


「うん、街のアニメイトまで行きたいんだ!」


 俺がタカノリを友達に選んだ理由。

 それは――こいつだけが、“色”を持っていたからだ。


 いつからか、俺の世界は白黒になった。

 信号の光や教科書のインクも、すべてモノクロ。

 でもタカノリだけは違った。

 肌も、瞳も、服の色も――確かに“彩り”を持っていた。


 それが気になって、気づけば隣にいた。


「じゃあ俺もついていくよ」


「え?」


「借りたラノベ、ほとんど読んだし。アニメイトとか行ったことないし、ちょうどいい機会だ」


「そ、そう? じゃあ……一緒に行く?」


「おう!」


 


 ◇ ◇ ◇


 電車に揺られて二駅。

 駅前のビルに入っているアニメイトに到着した。ポスターが天井まで並び、店内は思った以上に明るくて、グッズの海だった


 タカノリは目を輝かせながら売り場へ向かっていく。


「さて……と」


「? どうしたの、リュウト?」


「いや、ちょっとトイレに」


「うん、わかった!」


 俺はそのまま売り場から離れ、店の奥へと進んだ。


 ――気づいていた。

 駅を出てから、ずっとついてきていた視線に。


 静かに足を止め、背後を振り返る。


「……お前、ついてきてただろ」


「!?」


 通路の隅に立っていたのは、ハルカ。

 俺たちの学校にいる、いわゆる“女子グループ”のひとり。

 そして、毎日タカノリをいじめている張本人。


「た、たまたま……通りかかっただけよ」


「ここはアニメイトだ。お前が来る場所じゃない」


「な、なんでそんな決めつけ!」


「お前、タカノリにいつもなんて言ってる?」


 “キモいオタクは近づくな”

 ――その口で、今ここにいる理由を言えるか?


「っ……あ、あれは……」


「それで? なんでついてきた?」


「…………」


 口をつぐむハルカ。その背後に、気配がひとつ。

 タカノリだ。こっちには来ない。ハルカがいるからだろう。


「またタカノリをいじめに来たのか?」


「ち、ちがうっ! 誰があんな奴なんかのために!」


 ……嘘じゃないな。

 白黒の視界でも、それくらいはわかる。


 でも、それでも――


「俺の友達を悪く言うのは、気分が悪いんだよ」


「っ……ご、ごめんなさ――」


 


 その瞬間、耳をつんざく轟音が響いた。


 ビルの外から、強烈なブレーキ音。

 視界の奥、巨大なトラックが突っ込んでくるのが見えた。


「っ……!」


 時間が、ゆっくりと動き出す。


 助かるのは、俺だけ。

 タカノリは……間に合わない。


 ――おかしいな。

 俺には未練なんてなかったのに。

 俺が助かって、こいつが死ぬなんて。


「……いいや。俺の人生、ここで十分だろ」



 俺は“助かるのを諦めた”


 意識が、遠ざかっていく。


 ――来世は…………


 ◇ ◇ ◇


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