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朔さんを愛せ  作者: ま
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一 金沢での黎明

 大学の合格発表があった次の日には、朝一の新幹線で埼玉を出発し金沢を訪れ、不動産会社を訪問し、その日の午前中には住む部屋を決めていた。選んだ部屋はまだ改装が終わっていないとのことで、結局その日は家具などの生活用品を注文し、埼玉に帰還した。再び金沢を訪れたときは、部屋の改装は終わっており、注文した家具が届き、いよいよ一人暮らしが始まるのだと実感した。

 

「こんな感じでどうかな? 物語の黎明を告げる文章としては中々の出来だと思うんだが。」


 「平凡だね。今執り行われている入学式ぐらい平凡だ。何の面白味もない。」


 「相変わらず鶴谷は辛辣だなー。俺の文章はともかく、入学式に面白味を求めちゃ駄目だろ。」


 金沢市内にある文化ホールでこの時間の無駄でしかない入学式は行われていた。周りは皆、下を向き静寂を取り繕っているというのに、この男、佐藤優斗(ゆうと)は我関せずの様子である。同じ高校出身ということもあり、新天地で知り合いが一人いるというのは、心強い事だと思ってはいたが、周りを考慮しない癖はできれば埼玉に置いてきてほしかったものだ。


 「ところで鶴谷は学生の最終形態である大学生をどう過ごすつもりなんだ?」


 こいつは学生を人間とは別の生命体か何かだと勘違いしているのか。


 「最終形態にふさわしいかどうかは分からないが、特にこれといって何をするかは決まっていないな。」


 「はははは…お前こそ面白味がないじゃないか。せっかく金沢に来たんだ。スキー部にでも入ったらどうだ?」


 「悪くはないな、雪が降ったら検討ぐらいはしてやるよ。そういう佐藤はやっぱり文学部か?」


 「まあな。書くのもいいが読むのもいい。それを堪能できる界隈があるのなら入っておくに越したことはない。これはどうだ?」


 正直平凡だなと思った。自分に素直に生き、やりたいことを着実にこなしていく。何もしないわけでも無謀な挑戦をする訳でもない。まさに平凡だ。しかし、さっきの文章や入学式が感じさせる平凡とは違う。カテゴライズは同じ平凡でも厳密には違う。佐藤の平凡には佐藤の個性が反映されている。佐藤にしか描けない、佐藤にしか実現できない平凡。正直そんな平凡が羨ましかった。佐藤の言葉にあやかる訳ではないが、せっかく埼玉を飛び出して金沢に来たんだ。いっちょ探してみますか鶴谷(かい)の平凡とやらを。


それにしても…

「学部も文学、部活も文学。佐藤、どうやらお前の最終形態にはレア属性の文学が付加されていそうだな。能力はそうだな…速読とかか?」


「レア属性ならもう少しマシな能力にしてくれ。ミステリーで一発で犯人が分かるとかな!」


「お前それ、進化させたはいいが能力が逆に弱すぎるせいで、あえて最終形態の一つ前で進化させずに使われるやつだぞ…」


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