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玉置くんは化け物ではない。  作者: 蛸中文理
第五章『fireworks』
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第48話 太田流零(9)

 空はオレンジ色。

 蝉はうるさいが、その音色が変わってきた気がする。夏は、もう長くない。

 すでにあちこちの屋台で列が出来始めている。

 会場は河川敷。近くの山に展望台がある。


「兄さんたちはあそこに行くってことね」


 創治郎の弟、次郎はポケットに手を突っ込んだままそう言った。まだ彼の信用を得るのは先らしい。


「多分ね。あいつなら、あそこに行く」


 ピクリと隣を歩く次郎の肩が跳ねた。


「あいつ?」

「創治郎のことだけど?」

「兄さんを、あいつ呼び?あんたが?」

「……悪いかよ」


 創治郎が見たこともないような深刻な表情で部室を飛び出したあの日、あいつが向かった先で見たのは、消えゆく異妖と佇む次郎、そして横たわる源光の弟だった。

 その後、能力に目覚めた次郎は対異研の一員として活動するという名目で保護した。早田さん曰く「能力の誤爆や悪用のリスクを限りなく減らす最善の策」なのだそうだ。


「能力犯罪の話はしたよな?」


 次郎は短パンのポケットに手を突っ込んだまま首を縦に振る。こいつ本当に小学1年か?あまりにも……いや、創治郎の弟なら何も解釈に違和はない。


「相手は人だ。次郎君が倒した奴とも話が違う。もし遭遇したら、いや、まぁ多分遭遇するから、そのときは距離をとって身を隠すんだぞ?わかったか?」

「本当にいいの?」

「何が?」

「オレが戦わなくていいの?オレ、言っとくけど多分あんたより強いぜ?」


 このクソガキ…いや、強いのは認める。

 能力を上手く使うための練習では、その才を遺憾なく発揮していた。


 記憶が曖昧だから推測だけど、多分俺はあのとき空気の一部分を超高速で打ち出したんだと思う。親指を弾くその瞬間、絶妙なタイミングで触れた空気を能力の対象にした。要は『投げる』から『俺に触れて、俺から離れる』に能力の解釈を拡大させたんじゃないかな。だから、そう易々と出来る芸当じゃない。ほんの少しでも感覚がズレたら、俺を中心として全方向に衝撃波が出ることになる。


 これは創治郎が論じた能力の解釈。

 能力がかなり感覚に左右されるものであることはこの半年で通説となっていた。解釈の拡大は、創治郎の言うとおり簡単じゃない。早田さん曰く、創治郎の話が創治郎固有の話ではないのなら、ほとんどの人の能力が投げることや手で触れることを前提としているのは能力の発現時にその動作を行っていたからということになるのだそうだ。

 僕は受け流すのに手で払う必要があるし、光は触れたものを自由に動かせる。上条だって内海だって、触れたもの、投げたものに能力が付与される。


 玉置次郎の才はつまりここにある。


「次郎君、ひとつ聞いていい?」

「ん?」


 少年はポケットに手を突っ込んだままチラと僕を見た。


「手以外に能力を発動させるのって、どうやってるの?」


 腕を組んで目を瞑る。

 忘れ物を思い出したように、カッと目を開いた。


「集中する!」

「…ありがとう、頑張るよ」


 ◆


 花火大会当日、創治郎は内海と、光は上条とそれぞれあえて部活メンバーで集まらないことになった。集まらないようにしようという話になったわけではなく、そもそも集まるという話が出なかった。創治郎と内海のブレスレットを見た僕たち胸中がそういう話を避けたのかはわからない。

 しかし僕にとっては好都合だった。

 彼らから離れたところで行動できる。


「内海さんか〜どんな人なのかな」

「いいやつだよ」

「…ふーん」


 じっとその目は僕を見つめる。


「なに?」

「ううん、なんでもない」


 僕と次郎は屋台の並ぶ通りを進み、身を隠せる場所を探す。屋台の裏、休憩ポイントみたいなゴミ箱の横、そして山の展望台へ向かう林道。

 創治郎は、ほぼ間違いなく展望台に行く。

 僕には確信がある。

 林道入り口近くの屋台裏に身を隠す。


「いいの?道に近くない?兄さんなら気付きそうだけど…」

「いや、ここにしよう。通りの様子も見れるし、バレても飯食ってたで通せる」


 見逃しても矢羽根さんからの連絡を待てばいい。

 雑踏を眺めていると、シャツの袖を引かれた。

 次郎が嬉しそうに雑踏の向こう側を指差している。


「よし、あとはあいつらを護るだけだな」

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