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玉置くんは化け物ではない。  作者: 蛸中文理
第四章『サンサンたる瞳』
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第44話 早田智幸(9)

 ♦ 8月6日 ♦


 対異研の依頼は玉置創治郎たちに任せつつ、僕と徳山は調査を続けていた。しかし目撃情報はなし。噂もなし。

 まったく情報は得られない日が続いた。

 それは他のグループも同様だったらしく、異妖化対策チームは皆頭を悩ませていた。

 正直期待はしていなかった。

 玉置創治郎の異妖探知能力は、かなり精巧なもの。異妖化動物なんていう特殊事例が発生すれば彼の探知にかからないはずがない。となると異妖化動物は討伐済みの2体で終わりか、もしくはその鳴りを潜めていることになる。

 隠れた異妖は僕たち人間には見えない。

 一応、異妖化については軽くではあるものの玉置創治郎に伝えてはいる。それらしい反応があれば僕に連絡がくるだろう。

 こうなってしまえば、やることがないも同然だ。


「まぁ、最初からそうそう見つけられるなんて思っちゃいませんよ」


 そんな愚痴をこぼしてみたくもなる。


「あんたさっきから携帯震えてるぞ?」


 徳山が僕のポケットを指さして眉を顰める。

 流石に疲れていたのだろうか。


「ああ、ありがとうございます。ちょっと失礼」


 公園のベンチから立ち上がり、少し離れる。

 電話番号はまたしても玉置創治郎。

 嫌な予感がした。


「もしもし…?」


 声の主は、玉置創治郎。

 珍しく冷静さを取り作ったようなその声は、非常事態を知らせた。


 ♦


 えぐれたコンクリート、腰を抜かして動けない男子生徒。

 学校や駅のある住宅街から少し離れた林道の先にあったは、そんな異常な光景。


「これは…」


 こんな状況を丸投げして「好きにしてください」とはまぁずいぶんと僕も舐められたものだ。

 尻餅をついて虚ろを眺める少年の前に腰を下ろす。


「で、ここでなにがあった?」


 ガタガタと顎を鳴らして、少年は涙を流した。


「化け物だ…あいつ、黄緑色の…玉置創治郎は、化け物だ…」

「なるほどね」


 少年は立ち上がれないでいる。

 これは少々、面倒なことになったかもしれないな。

 とりあえずこいつは原異形で管理しよう。完全にやられてる。


「まったく。小森くんだね。君の情報は上がってるよ。大庭くんへの嫉妬と僻みで彼を攻撃しようとしたんだろ。今回君が見たものは、君が大庭君に行った行為そのものだ」

「違う…俺は…俺は悪くない…」


 鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔面が左右に揺れる。

 ああ、こいつは、ろくな人間じゃない。

 なにか、心臓の下あたりに黒いものがうごめいた。


「おっと、君は知らなかったのかな」

「なにを…」

「大庭君は、君のことなんてこれっぽっちも気にかけてなかったよ」

「…は?」

「親友だとか、ライバルだとか思ってたのは、君だけだったみたいだね」


 頭を抱えて彼は吠えた。

 そしてそのまま動かなくなる。

 重い男子生徒を担ぐ。林道を下ろうと一歩踏み出して、ひとり男が先に立っていることに気が付いた。


「何しに来たんです?僕は調査の続きをお願いしていたつもりでしたけど」


 しゃがれた声は嘆息の後、ゆっくり言葉を紡ぎ出した。


「あんたこれ、どういうことだ?」

「異妖の、仕業ですかね」

「俺に嘘ついたって意味ないことぐらい、知ってるだろ?」


 その瞳はギラギラと眼光を放つ。

 めんどくせぇことばっかだな…。


「どいてもらえます?この少年を病院に連れて行かないと」

「あんたがとどめを刺したのに?」

「見てたのかよ…」


 カチャリと軽い音がした。


「どういうつもりです?僕は異妖じゃありませんよ?」


 いいながら僕は腰に手を添える。小森を下ろし、林道の端にやる。


「コンクリぶっ壊すレベルの攻撃と、精神攻撃ができるのは異妖の特徴だ。しかもかなり高レベルのもの。電話の相手は佐戸高のあの部長だろ。それであんたここまで来て、でも彼はここにいない」

「しつこいなぁ」

「前も異妖の探知みたいなことしてたよな。あの少年、何者だ?」

「僕が答えるとでも?」

「俺は異妖の討伐について大っぴらにしたっていいんだぜ?」


 めんどくさい。

 腰からナイフを引き抜き、足を踏ん張る。そんな一瞬で、相手の銃口は僕の方を向いていた。

 そのトリガーに指がかかる。僕は地面を蹴りだした。

 乾いた銃声が林道にこだまする。

 しかし死体は生まれない。徳山の背後に回り込んで体勢を崩す。重心を崩しよろめく徳山の手に握られた銃を蹴飛ばし、首元を掴んで地面にたたきつけた。そしてナイフを突きつける。


「化け物じみた身体能力は流石としか言えないな」


 後頭部を打ち付けられたはずの徳山は軽く笑ってみせる。

 あんたも相当化け物だろうが。

 と、シャツの腹部に違和感。


「でもまぁ、まだ甘いぜ?」


 視線を向けると、黒光りした塊が見えてくる。


「で、玉置創治郎は何者だ?」


 互いが決して目を見て離さない。

 沈黙が流れる。


「はぁ…わかったよ話す」


 徳山の首から手を離して上体を起こす。

 お互いに服の裾を払い、そして視線を交差させる。


「玉置創治郎は、特殊な能力者だ。僕としてもわからないことが多いが、推測として、異妖化に似た状態になることができる人間だろう。今回このコンクリを破壊したのは、異妖化に似た状態の玉置創治郎の仕業だ。で?あんたは彼を殺すか?」


 徳山は顎に手を添えて二、三度頷く。


「いや、玉置創治郎の状態によるな。電話をする理性があるということは、早田さんの話を聞く限り、状態の切り替えが可能だってことだろ?」

「案外、冷静なんだな」

「まぁ俺の目的は異妖だけだからな。異妖じゃないなら相手はしない」

「そういうわけだから、他言無用はお願いしたい」


 我ながら情けない。でも仕方ない。

 油断していたわけではない僕に、相打ち状態まで持ち込んだ。正直、負けたようなものだ。敵には回したくない。


「ま、おいそれと言い回ってもいいことないからな。言わないでいくわ」


 ずいぶんとまぁ、めんどくさいことになってきたな…。


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