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玉置くんは化け物ではない。  作者: 蛸中文理
第四章『サンサンたる瞳』
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第40話 内海里香(2)

 ♦ 8月6日 ♦


 走る。

 外歩くからってローファー履いてこなくてよかった。


「玉置…玉置…玉置!」


 彼の名を唱え続ける。

 ほんの少し前。空気が震えた気がした

 きっとなにかあったんだ。

 嫌な予感がする。私のこういうのは、自慢じゃないけどあまり外れることがない。

 大きく木々がざわめいた。


「玉置!!!」


 少し先、尻餅をつく小森さんの背中越し、黄緑色の光が2つ。

 綺麗な瞳だけど、どこか嫌な感じがする。

 走る。

 小森さんなんて、どうでもいい。

 これは、よくないなにかが起きている。


「玉置!!!」


 つややかな彼の前髪が揺れた。

 そして静かに口を開かれる。


「能力集中」


 まるでこれからコインをはじく様な仕草。人差し指にかませた親指が断層のように小刻みに震える。

 視線は私に向いてない。声が届いてない。

 届かないなら、飛び込むしかない。

 目標は、玉置。最短距離は直線。

 届け!


「レール構築!」


 視界に一本のレールが出来上がる。

 投げるものは私の心。きっとできる。

 蹴りだせ、私を!


「止まって創治郎!!!!」


 吊り上がった口角の上、彼の瞳が点滅した。


「…内海?」


 決して目は瞑らない。

 指先が彼のベルトに触れ、気が付けば鈍い痛みが鼻にのしかかった。

 必死で彼の腰に手を回し抱きついて離さない。

 耳元で爆音が鳴り響く。腕に力をこめる。

 弱い静電気のような痛みが耳元を駆け抜けた。


 ♦


 顔をあげると、いろんな感情が混じったような表情の玉置が私をじっとみつめていた。そしてはっとしたように目を見開く。


「…内海!?大丈夫なのか!?怪我とかしてないか!」

「…してないけど、でも…」


 彼の目を見つめる。もう、そこに黄緑色の光はない。


「ごめん」


 俯いた彼の耳元にそっと手を添えた。


「大丈夫なの?」


 こくりと縦に頭が動いた。


「じゃあ許す」

「…ありがとう」


 こんな弱々しい玉置、初めて見た。

 申し訳ないけど。ちょっと嬉しい私がいる。


「その…内海?」

「なに?」


 私の胸の中で、唾を飲み込む音がした。


「そ、その、恥ずかしいから、その、ありがとう」


 途端に蝉の声がガンガンと耳を圧迫していたことに気が付く。

 思えば抱き着いたままだった。彼の腰にまたがるような姿勢になっている。

 暑さが火照りと混じっていまにも噴火しそう。


「ご、ごめん!立てる?」


 そっと少し離れて手を伸ばす。

 木陰みたいに優しく笑って、玉置は私の手を取った。


「そうだ、そういえば小森さんは…」

「内海」


 振りかえろうとして呼び止められた。


「小森さんには、怪我はないと思う。けど…」

「けど?」


 そう口にして気が付いた。

 背後で、ガラガラとなにかが崩れ転がるような音がする。

 一度玉置に目をやる。彼はそっと顔を伏せた。


 地面が、えぐれていた。

 プリンをスプーンですくったみたいに、腰をついた小森さんの横に、クレーターみたいなものができている。

 崩れたコンクリートが溝みたいになった底に転がりこむ。

 思わず唾を飲み込んで、そこで喉が渇いてることに気が付いた。一度深呼吸。


「とりえず早田さんに電話しよっか」

「…そうだな」


 そっと彼の手を掴む。

 こんなに暑いのに、真冬みたいに冷たくて、震えていた。


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