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玉置くんは化け物ではない。  作者: 蛸中文理
第一章『プロローグ』
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第3話 玉置創治郎

 

 赤く燃え上がったような木々が風に揺れ、火の粉のように葉が散っていく。

 目を背けた先の、黒板の端の日付に書かれた11月の文字に思わずため息をついた。


 「もう、あと5ヶ月しかないのか……」


 後ろの席の太田流零がポツリとこぼす。

 机に突っ伏していた体を起こし、流零の方へ振り返る。


 「おいおい、それは言わないお約束」


 言うとどこか嬉しそうに流零は額に手をやった。


 「いっけねぇ言わないお約束だ」


 各々が帰宅した後のあっけらかんとした放課後の教室に俺たち2人の笑い声だけが響き渡る。その違和感にようやく俺たちだけが教室に居座っていたことを思い出す。


 「そろそろ帰るか」

 「そうだな。って創治郎さんよぉ、あんた学級委員の仕事があるから残ってたんじゃねぇのかい?」


 流零が顎に手を添えて俺に見得を切る。でもそれがなんとも言えない。眼鏡のせいかな。

 もう1回やってくれる?って頼むとちゃんとやってくれたのでこの人案外このネタを気にいっているということが判明した。これからどんどん使ってもらおう。

 とネタにハマってしまったせいで忘れていたが質問されていたんだった。


 「で、学級委員の仕事だってか。あのー、それは…」

 「もしかしてお前……」


 流零が目を見開き後退りする。これはよくない。やばい、と思っていたら廊下からバタバタと上履きを鳴らす音が近づいてくる。

 それがピタリと止むと、ドアが怒号とともに勢いよく開けられる。


 「玉置創治郎ぉぉぉ!!!」


 隣の流零がおそるおそる席をたち、窓際へと下がっていく。


 「ひ、ひぃ、内海里香のお出ましたぁ……」


 その様子に怒りに震えていた内海も流石に傷ついたのか、困ったように笑う。感情の激しいやつだ。


 「私ってそんなに怖いのかな……ね、玉置?」

 「え、あ、怖くない怖くない」

 「えーうそだ玉置信用できない」


 おいじゃあなんで俺に振ったんだよ。目だけでそう訴えるが果たして伝わったのかどうか。ともあれ仕事を忘れていたのは俺の責任。この小動物みたいに震えてるメガネ君が才色兼備な内海里香様にご迷惑をかけてしまったのなら謝ろう。


 「いやぁ、ごめん。かんっぜんに忘れてた。もう焼くなり煮るなり天日干しにするなりフリーズドライにするなり好きにしてくれ……」

 「えぇ……なんか調理方法多いから仕事漬けでお願いできるかな?」


 ◆


 一通り仕事を終え、待たせていた流零とともに帰路に着く。学校から俺の家までは歩いて15分ほどの距離。大通りに沿って歩くだけと言う単純な道のりだ。流零もほとんど同じ道だが、俺が曲がる角を通り過ぎて次の角を曲がる。ちなみに言うと内海も同じ方向。俺たちより随分手前でわかれる。

 その内海は、校門で疲れ果てたように鞄を下ろした。


 「だぁー!ただの雑用じゃん!」

 「仕方ないって。学級委員なんてそんなもんさ」


 そう宥めると、内海は深くため息をついた。

 しかしその目は笑っている。


 「相変わらず、玉置は楽観的ね」

 「そりゃそうだって。その方が楽しいに決まってる」

 「まったく……でも、極端にその逆の性格してるよね、太田は……」


 内海が目を向けた方を見ると、怯えた犬のようにガンを飛ばす流零がいた。あーほんとこういう所可愛いんだなぁこいつ。


 「なんでお前がいるんだよ……」


 小さい声で流零は呟く。


 「いちゃだめかな?」


 内海は笑顔で問う。多分その眉毛がぴくりと跳ねるとこなんだよなぁ。

 ともあれもう日が沈んできた。個人的にあまり暗いのは好きではない。早く帰ろう。

 俺がリュックを背負いなおすと、内海も置いていた鞄を「おいっしょ」と言いながら肩にかける。おいおい中学生だろ?

 流零もおそるおそる置いていたリュックを背負うが、1歩引いた距離は変わらない。

 俺は浅くため息をついて流零の肩に手を置く。


 「まぁ、俺たち方向一緒だし、いいだろ?」


 すると流零は、俺と内海とを交互に見て、黒縁の眼鏡を押し上げる。


 「まぁ創治郎がそう言うなら……いいか内海っ!僕は創治郎の護衛だからな!」


 内海にビシッと指を指す。今日1番の声だ。普段からこれくらいの声が出せればこいつもっと色んな人から好かれるだろうに。顔も悪くないし、心優しいやつなのだ。けれど流零には自信がない。自分の思いだとか、感情だとかそういうものを、はっきり伝えて相手を動かす力を信じていない。トライしなかった訳では無い。いつも相手が悪い。


 「あのごめん、私先端恐怖症でさ……ちょっとごめん、やめてもらえる?」

 「え、あ、うんごめん……」


 そうそう、こういうこと。何かしら予想外の失敗の仕方をする。天然というか、不憫というか。まぁ、人に指さすのはそんなにいいことじゃないんだけどね。ちなみに内海は本当に先端恐怖症だ。以前俺がシャーペンの先を向けた時に顔を背けていたのを覚えている。ちなみにその時は全力で謝りました。楽観的だのナルシストだの自己中だの言われる俺だが、その辺の分別はある。伊達に中学3年後期の学級委員をやっているわけではない。今日サボっちゃったけど。

 話を戻そう。

 流零は眉を八の字にまげて肩を落とす。もう落ち込んでいるやつの典型。ちょっと同情する。


 「さぁ、日が沈む。帰るか」


 ここは山かなにかなの?と言う内海のいじりを軽やかにスルーして、再びリュックを背負いなおした。


 ◆


 「バイバイ玉置っ!」


 すっかり機嫌を取り戻した内海と別れ、俺と流零は並んで歩く。すると流零が思い出したように口を開いた。


 「なぁ創治郎。今日暇?」


 「ん、今日は……あ、悪い、なんか予防接種入っててさ」

 「こんな時期に?」

 「そう、こんな時期に。え、何、流零はないの?」


 流零は首を横に振る。


 「あっそ……まぁ、そんなわけで今日はダメだわ」

 「そっか、じゃあ、明後日は?」

 「明後日ならいい」

 「じゃそれで!」


 そんな会話をしているうちに角まで来てしまった。


 「じゃ、今日はとっとと帰るわ」

 「じゃ!」


 互いに半身で手を振った。


次回更新は4月11日(月)午前1時です!


次回 第4話『玉置創治郎(2)』

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