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玉置くんは化け物ではない。  作者: 蛸中文理
第三章『n個の激情』
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第27話 玉置創治郎(8)

 

 その日、学校の廊下には人だかりができていた。

 俺はなんとかその間を縫うようにして進む。

 どうやら皆は掲示板を指さしてなにかひそひそと話している。


「なんか起きたのかな」


 隣で流零が興味なさげにつぶやく。というか少し諦めたような口調だ。


「だな、肩車してやろうか」

「僕の足で絞殺してやる」


 怖いこといいすぎだろ。

 他愛もない会話のなか、俺だけはわかっていた。

 壁に刻まれた損傷の痕跡。爪でひっかいたような形状。そしてその破損部分から漏れ出るような暗い感情の瘴気。

 これは、異妖の仕業だ。


 ♦


「今夜、合宿をします」


 相談室に俺たちを集めた早田さんは薄い笑顔を崩さずにそう告げた。俺たちが5人、口をそろえて「は?」としか反応できなかったのはもはや言うまでもない。さすがの早田さんもここまでの「なに言ってんのこいつ」的反応が来るとは思っていたかったのか、ため息をついて後ろ首を掻いた。


「あ、冗談じゃないよ?」


 あ、冗談じゃないんだ。

 また5人口をそろえてそう言った。


「今朝の掲示板の損傷については知っているのかな」


 5人がそれぞれの反応を取る中、俺はひとり嫌な汗をかいていた。あれは間違いなく、異妖によるものだ。俺にはわかる。なぜかはわからないが、俺は異妖の探知ができる。異妖の残影みたいなものも感じることができる。萩野先輩の依頼のときに、教室で矢羽根を守ることができたのはこの能力があったからだ。ただどうやらこれは俺にしかない能力らしい。俺にだけ感情がある状態で異能が宿っていることとなにか関係があるのだろうか。


「僕はあれを、異妖の仕業だと考えている」


 どきりと心臓が跳ねた。


「一晩で学校の掲示板3つがやられたとなると、それなりに強力な異妖だろう。もしこれが人にも及んだら……少しでも早く対処したほうがいいと思ってね」


 (ひかる)がうむむと唸って手を挙げた。


「早田さんはなんで異妖だって思ったんです?」


 見れば内海・上条・流零・矢羽根の4人も激しく同意と言わんばかりに首を縦に振っている。


「昨日、みちゃったんだよね」


 深夜の調査、学校、獣のような傷。それらのワードが導き出す答え。早田さんが見たものとは。


「ひ、私心霊はちょっとだめで…ひ、光…」

「安心しろ、俺がそばにいるから」

「光…」

「早田さん、続けてください」

「安心してくれ玉置くん。僕は慣れが速いのが取り柄なんだよ。まぁともかく何か見たのは冗談だが、被害は実際に出ているからね」


 そうこうしているうちにとんとん拍子で予定が決まっていき、早田さんの提案通り今夜早速正門前集合が決定した。しかしよく各家庭がOKだしたものだ。うちはそういうのルーズだからいいものの、ちょっと間違えれば問題になりかねない。近頃は泊りがけの行事なんかも少ない。特にそれが学校にとなればなおさらだ。ただもし、あらかじめOKをもらえることを知っていて早田さんがこの提案をしているのだとしたら。

 考えすぎだろうか。

 正直早田さんの奥行きの無さが以上だ。依頼や教育はたしかに原異形のもので、早田さん自身もそれは公言している。それでも、それ以上は何も口にしない。まるで、異妖と異能力に関することをすべてこの対異研で完結させているような。

 …ま、考えすぎかな。


「さて、これで全員かな?」


 街灯が照らす正門。空はすっかり黒に染まっている。部員の確認を取るグレーの背広が、闇に溶け込んで水墨画のように浮き上がる。佐戸高校正門前は、まるで異世界のような不気味さと洞窟のような高揚感を抱かせる。夜の学校は、はじめてだ。


「早田さん、まだ流零が…」

「入るの?この中、入るの?」

「葵、俺の手、握ってろ」

「あ、来たみたいですよ早田さん」

「君もずいぶん慣れたね、玉置くん」


 俺もどうやらそれなりの順応性があるみたい。


「あ、そうだそうだ君たちに言い忘れてたことがあるんだ」


 早田さんが手を打った。


「僕の知り合いの原異形の人が助っ人で来てくれます」

「おお~」


 内海がなんとも言えない反応を示す。興味ないなら反応しなくてもいいんだぞ。


「さ、待たせてるからさっさと入ってしまおう」

「待たせてるのに言い忘れてたんだ…」


 ダメだぞ流零。突っ込んでいいことといけないことがあるんだ。


 ♦


 夜の校舎は初めてだ。

 同じ明るさの電灯がついていて、歩く俺たちの足幅も横幅も変わらない。だがどうしてかやけに廊下が小さく感じる。コツコツと足音が反響するからか、それとも廊下の先が暗くて見えないからか。薄暗い廊下が不気味なのは、ここを知らない景色であると錯覚してしまうことからくるのかもしれない。なじんだ構造に全体的な違和感があることの恐怖感は、きっと大きい。

 警戒しながら階段を上がり、3階の相談室へと向かう。


「早田さん、その助っ人の方はどこにいるんです?」


 もくもくとグレーの背広が前を進んでいく。


「ああ、相談室で待機してもらっているよ。校舎内の対異妖結界を先に貼ってもらっていたんだ」

「いいんですかそんな大役のこと忘れた扱いして…」

「よし、ついたね」


 無視かよ…

 早田さんが適当に俺たちのことをあしらうのはいつもの事だ。もう気にも留めない。俺は慣れるのが早いんだ。

 がたがたと音を立てて開かれた相談室には、灯りがともっていた。

 やはり夜の教室も小さく感じる。

 その小さな空間の中で、少し小柄な男が1人、教卓に手をかけて立っていた。

 白のシャツに防弾チョッキのようなベストを羽織った中年くらいのその男は、俺たちに気が付くと仏のように微笑んだ。


「やぁ、初めまして」

「初めまして」


 一同が軽く頭を下げる。


「うん、早田さんあんた俺の事嫌いか?」


 笑顔を崩さず、ちゃっかり初めましてを言っていた早田さんをチクりと刺した。なんだこの人、早田さんにこんな口調で煽れる人がいるなんて。


「まさかまさか」


 なんでちょっと仲悪いんだよ。

 しかし二人のやり取りはそこまでで、助っ人の男は俺たちを見渡す。


「まぁ早田さんとはこんな関係だよ」


 気さくな小太りのおじさん。それが最初の印象だ。しかしそのベストにはナイフがストックされていて、腰のホルスターには早田さん同様拳銃が入っている。


「君たち佐戸高校対異妖活動及び研究部の補佐をすることになった、徳山英雄(トクヤマヒデオ)だ」


 ほんの小さく早田さんから舌打ちが聞こえた気がした。


「よろしく」


次回更新は8月4日です!


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