一、婆が来る
本書の一番手を飾る短編、ということで「小説家になろう」等のWEB掲載版でもご好評をいただいていた「婆が来る」が選ばれました。
テンプレート的ではありますが、掴みは王道で。
これは私が高校二年生の時、構想が浮かんで「いける!」と思って最初に書いた五編ほどの短編の中のひとつでした。
それが何度かの加筆修正を経て現在の形になっています。
最初が一番いいってどうなのよ? と思う反面最初からこのクオリティの短編ができれば「いける!」って考えにもなるよなぁと自画自賛してしまったり。
自分と一番趣味が合う作者は自分ですからね(笑)
ところで、読者の皆さんは「婆」の正体がおわかりでしょうか?
白くてぼさぼさの髪に鬼のような表情。
そう。昔話にも登場する「山姥」です。
山姥が子供を拾って育てるお話は民話でもあったりします。ただし、この話の場合は実母という設定ですが。
時代が移り変わるの中で、生き残っていた妖怪たちは淘汰されるか人間の生活に紛れ込んで生きていくかの道を辿ったのではないかなぁと思うのです。
そして、時おり本来の姿に戻るけれどそれを子供には知られたくない気持ちがあって。
だから彼女は言ったのです。
「早く寝ないと婆が来るよ」
と。
その言葉が逆効果となって寝付けなくなった子供 (主人公)に結果として「婆」の姿を見られてしまうんですけれどね。
お母さんの優しかったところは婆は来るだけで子供をさらうとか食べてしまうとかそういう話はしなかった点でしょうか。
葬式の時に正体がわかったのは、死んで人間に化ける力を失ったために本来の姿に戻ってしまったから。
もしかしたら年を重ねるごとに幼い頃に見た「婆」とお母さんの姿が似てきていることに気付いていたかもしれませんね。
母親の正体が幼い頃に見た化け物だったと知っても主人公が嫌悪する様子を見せないのは、きっと、「婆」が子供から愛される素敵な「お母さん」だったからなのでしょう。