表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/152

#32 伯爵の庶子……だから?

ユリアが庶子?

そんな事、知ってるわ(ルルカ)


ザザザッと何かが上から落ちてきた音がした。


「くだらないな」

低い、闇から滲むような声がした。


「誰!?」

5人の内の誰かが声をあげた。


暗闇の向こうから人影が現れた。それは──


「──ゲイル・ブラックダイヤ様……」

はじめにユリアに話しかけた令嬢が、狼狽したように呟いた。


「──ゲイル!?」

どうしてここにいるの?

てっきり学年会室にいると思っていた。

……やだ、こんな格好……みっともない!お化粧もはげちゃってるのに……


見られないように首もとを押さえ、コソコソと袖に入れていたハンカチで拭いた。


「────ほら」

ゲイルがさっと上着を脱ぎ、ふわっとユリアに掛けた。


「……ありがとう…………」

……ウソ、ゲイルが……優しい!


「これは、ゲイル・ブラックダイヤ様、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

令嬢達が立派なカーテシーで挨拶した。


「──君らは公爵か、侯爵か……。こんなくだらない事をするとはね……よほど暇をもて余しているようだ」

ふっと呆れたように笑った。


「……お言葉ですがゲイル様。身分制度というものは我々貴族にとって、最も大切なことでしてよ。上の者を下の者が蔑ろにするなんて……そんな不敬、あってはならない事ですわ!」


「話を聞いてなかったのか?ライオネルがいいと言ったんだ。この学園で最も身分の高いライオネルが言った事に逆らう方が、よほど不敬だろう」


「────それは……そこのピンクフィールド伯爵家の庶子の方がおっしゃった事ですもの、信用出来ません」


「なるほど。だが、ライオネルがユリアに対等で話すように言った事は本当だ。俺たち……セリウスやエリックにも、対等で話すようにとも言っていた。本来ならいちいち君らに言うことではないと思うが……俺なら信用出来るだろう。他国ではあるが公爵だからな」

ゲイルが威圧するようなオーラを放ちながらそう言った。


「……………………分かりましたわ。ですが、ユリアさんが“ピンクフィールド伯爵家の庶子”ということは変わりません。ちゃんと自覚なさることね!皆様戻りましょう!」

悔しそうにチラッとユリアを見たが、腕を組み、黙って立っているゲイルの迫力に()されたのか大人しく引き返していった。


騒がしい5人がいなくなり、静寂が戻ってきた。


「──えーと……ゲイルはどうしてここに?」


「会議が終わったからだ」


「学年会室には行かなかったの?」


「ああ。……お前はいつもあんなのに絡まれてるのか?」


「いつもではないかな。まぁ……時々?あの人たちの言ってることは間違いではないし、気にしてないわ。でも……服を汚されたのは……許しがたし……」

ぐっと拳を握った。


……ほんと、このシミとれるかな?全く……せっかく気合い入れた一着だったのに……


「……普通はそこでメソメソ泣くんじゃないのか?“あの人たち酷ーい”とか言って」

ゲイルがおどけた調子で言った。


「……私が伯爵の庶子だというのは事実だもの。でも、ちゃんと試験を受けて5番で入学して、Sクラスになって、学年会メンバーだというのも事実!あーんな身分の事しか言えない輩に凹まされてたまるもんですか!」

ふんす!と握った拳を振り回した。


「くっ……ははははは!お前……やっぱり面白いな」

ゲイルがおかしそうに笑った。


「──ほんとはもっとカワイイ私を見て欲しかったんだけど……」

……そうよ……いつもと違う私を見て欲しかったのに……


「十分かわいいと思うぞ。ユリア」

そう言ってふわりとユリアの髪を撫でた。


「──ゲイル……助けてくれて、ありがとう」

──髪を撫でられた!これ……ゲイルの好感度、急上昇中!?なんだかドキドキする……


「ま……ルルカもいるし、大丈夫そうだな」

スッと手をどけ、ニヤリとそう言った。


「え?あ、そうだね……ゲイルもライオネル達がいるから楽しいでしょ?」


「………………」

と、突然黙ってしまった。


「ゲイル?何かあったの?」


「……別に。そろそろ戻った方がいいんじゃないか?俺ももう行く」

その話題を遮るようにゲイルが踵を返し、その場を立ち去ろうとした。


「あ……うん……」

何だか変な感じなんだけど……。


「じゃあな」

スタスタと歩きだした。


「あ、上着!」


「もう一着ある。適当に処分していい」


「え!?ちゃんと返すわ!」


聞いているのかいないのか、ひらっと手を振って行ってしまった。


「──ゲイル、またね!」

立ち去るゲイルに手を振った。



「ゲイルの上着をゲットしてしまったぁ……」

ぎゅっと上着を抱きしめた。

あ、これ……いい匂いする……。ここに、腕が通ってて……だめ!ニヤニヤしちゃう!



「ユリア!大丈夫だった!?そこで上級生たちとすれ違ったんだけど、一緒にいたの?なんだか様子が変で……」

タタッと向こうから走らんばかりの勢いでルルカがやって来た。


「ルルカ!」

ハッとしてぺしぺしと緩んだ顔を叩いた。


「ごめんなさいね、私……なかなか戻れなくて……!?な、なにコレ!葡萄!?男物の上着……」


ルルカがガシッと肩を持った。

襟に染み付いたシミを食い入るように見つめた。


「あ、うん、その……彼女たち、手元が滑ったらしくてかかっちゃったの。それで、偶然通りかかったゲイルが上着を貸してくれたのよ」


「ユリア……相手が上級生だからって庇わなくていいのよ。ほんとに……私のユリアに……。アイツら……何処の誰かしら……ふふ……私も舐められたものですわ……」


「え?あ、あの、ルルカ……?」

……ルルカの様子が変なんですけど?メラメラと炎が見える気が……


「……行きましょうか、ユリア。そのシミ、きちんと綺麗にしましょうね……」

くっと手を握られた。


「あ、うん。とれるかな?」

手を繋ぎ。歩きながら話した。


「大丈夫よ。いい腕を持ってるクリーニング屋を知ってるわ。きれいさっぱり…………無くしてくれるわ……」

ニコニコとルルカが言った。



「それをつけた存在ごとね……ふふ」

ルルカがぼそりと不穏な事を呟いたが、ユリアには聞こえなかった。


ルルカ……こわひ……ぷるぷる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ