#130 エリックの覚悟
こんばんは。
訪れてくださりありがとうございます。
一人悲しきエリッキュン……。
誰か慰めてあげて……。
リーンゴーンと終礼の鐘がなり、皆帰り支度をはじめた。
よし、居るな。
すぐに何処かへ行ってしまうゲイルを目でおいながら深呼吸する。
授業に参加している時は普通に話すのだが、自分からは何も言おうとしない。皆何があるのか聞きたいが、完全にメンバーに相談するのを避けているとしか思えないゲイルに、どこまで突っ込んでいいのか分からないまま、今日まできた。
今日こそは聞く。
何せライオネルがゲ○ドウポーズをしてまで頼んできた。
それにユリアがのほほんとしてる。
つまりそこまで深刻な事態にならないってことだろ?
よっしゃ、教室を出ていく前に捕まえるぞ!
さっと立ち上がり、ゲイルの所へ駆け足で近寄った。
「「ゲイル、一緒に」」
──えっ、かぶった!?
“帰ろう”と言う言葉を飲み込んだ。
「──エリック」「ユリアちゃん?」
「「「……………………」」」
3人で見つめ合ってしまった。
えー何か気まずいんだけど……二人の顔が困ったなってなってる感じがする……?
なんだ!?この疎外感は!
「…………えーと、3人で帰る?」
とにかく2人の雰囲気が……このままではマズい気がする!
「──あの、ごめんなさいエリック……今日は……その、ゲイルと……」
ユリアが躊躇いがちに、申し訳なさそうに、目を伏せた。
と、ゲイルがユリアを庇うようにすっと肩を抱き、自分の方に引き寄せた。
そしてエリックを見つめ、ポンと肩を叩き、
「エリック、悪いがユリアと帰る。また今度な」
と言った!
「──あ、あぁそっか……うん、分かった……また、ね……」
「ごめんね、エリック……ほんとに……」
ユリアがこちらを見あげた視線には、困惑と同情が入り交じっているようだった。
「……じゃあな。ユリア、行こうか」
と、ゲイルはそのままユリアの手を取り、さっと連れだって行ってしまった。
エリックは呆然と二人を見送ることしか出来なかった……。
「…………あー……大丈夫?エリック……」
その様子を見ていたセリウスが、気遣わしげに言った。
「──二人とも……何か、用事があったみたい。仕方ないよね……」
やばい…………すごい、ショックなんだけど……。
「エリック……一緒に帰ろう」
「そうだよ、僕たちでさ。そうだ、学年会室にミルクを可愛がりに行こう。ね?」
ライオネルとセリウスが慰めるように側に来てくれた。
「……ん……ライオネル……セリウス……ボク……」
うわぁ…………泣きそうだよ……頭の中がグルグルして、何も考えられなくなってきた……。
「うんうん、大丈夫だよ、エリック。タイミングが悪かっただけだと思う」
「ああ、本当に用事があったんじゃないか?」
二人がヨシヨシと頭を撫でてくれた。
その二人の優しさに、また涙が出そうになったエリックだった……。
***
男子寮の自室でベッドに転がり、ぼんやり天井を見つめる。
「──はぁ~~~~~」
俺、ふられたぁ~~!まさか二人にふられるなんて……ダブルショックだぁーーー!!
やっぱりあの二人、このままくっついちゃうのか!?俺、どうなるんだろう?このままずっとこの世界でエリックとして生きていくのだろうか?
「うう……」
ゴロゴロとベッドを転げ回る。
マジで凹む。ユリアの申し訳なさそうな顔が忘れられない。それにゲイルがあそこまではっきり俺を拒否するとは思わなかった。
……少しくらい俺を……好きなんだと、思ってた……。でも本当は、やっぱりアイツにとってのエリックは、ただの揶揄いの対象だってだけだったんだ……。
そうだよな。かわいいユリアの方がいいに決まってる。
「──バカみたいだ……」
バグってるから、憑依者のユリアとエリックが攻略対象に好かれて……てのがあるのかなって思ってたけど、やっぱりユリアが主役なのは変わらなかったんだな。皆がユリアを好きになって、ユリアが誰かを選ぶ……
「俺が、ダメダメだっただけだ……」
ダメだと思いつつ、何も行動を起こさなかった。もともとハイスペックの攻略対象者たちなのに、危機感もなくのほほんとしてた……。
「────あ~あ…………」
目を瞑り仰向けになり、組んだ手を腹に置いた。
腹が暖かくなり、少し落ち着いてくる。
ゆっくり深呼吸を繰り返した……。
……とにかく、皆に頼まれた“ゲイルに何があったのかを聞く事”くらいはしとかないとな……でも、今日みたいに帰りを待っていても、またユリアと出掛けるかもしれない
……そうだ。今から行けばいいんだ。同じ寮に住んでるんだから……
時計を見た。
夜の8時か……まだいいよな?
ゲイルの部屋を訪れる決心をしてムクリと起き上がった。
鏡を見て、身だしなみを整える。
「──うん、エリックはいい男だ。ごめんな相棒……俺が情けないばっかりに……」
なんだか少しふっ切れた気がする。
ゲイルはユリアが好きなんだと分かったら、怖くなくなった。
「──何かされるわけでもないし、話を聞くだけだもんね……」
廊下に出て、少し先のゲイルの部屋の前で立ち止まった。
「──よし……」
すーっと息を吸い、気合いを入れ、ドアをノックした。
『──誰だ?』
ドアの向こうから声がした。
「エリックです。少し話たいんだけど、いいかな?」
ドキドキしながらそう言った。
しばしの沈黙の後、ドアが静に開いた。
「…………話って?」
こちらを探るように見つめ、無表情に聞いてきた。
「……その……入ってもいい?ボクの部屋でもいいんだけど……少し、込み入るんじゃないかと、思うんだ……」
「………………どうぞ」
視線で、中へ入るように促された。
そういや、この寮に来て他人の部屋に入るのって、初めてだな……
そんな事を思いつつ、ゲイルの部屋へと足を踏み入れた。
自分で食われに来るとか……いらっしゃい、赤ずきん……