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#119 白いカイト

あおはる。


友情以上恋愛未満。

「こっちだ!ほらそのまま引っ張れ!」

「いいよ!」


ユリアとルルカがキャーキャー叫びながらカイトを空高く上げている。


夏の青い空に真っ白のカイトが揺れていた。


「──カイトを上げるなんて、かなり久しぶりだ」


絡まないように一人ずつあげ、まずははじめてになるユリアとルルカのカイトをあげた。


「僕もだよ。子どもの時以来だ。こうして見るとなんだか、イイよね」


はしゃぐ二人を眺め、満足そうにセリウスが言った。



「ライオネルたちはまだ来ないな」


「そうだね。まぁ、いくらライオネルでも見本が無いものを作るのは大変なんじゃない?エリックがいい仕事してくれてるといいんだけど……」


「……エリックにどんな事をさせたんだ?」


「ん?まぁ……ご褒美だね。ほら人間やる気で成果が全然違ってくるじゃない?ライオネルへのご褒美はやっぱりエリックでしょ」


「…………お前……まさか……」


「あ~~大丈夫、大丈夫。大したこと出来ないって。ほら、エリックがアレだからさ~~」


ゲイルに呆れたように見られたセリウスは、目を逸らしながらとぼけた口調でそう言った。



「ゲイルー!これ、どこまで伸ばすの~?なんだか重くなってきたんだけど~~~」

焦ったユリアの声が聞こえた。


「身体が引っ張られるわ~~!ほんとに、これで、合ってる~~?ああっセリーーー!」

ルルカが珍しく大きな声でセリウスを呼んでいる。


「おっと、目を離したすきにお姫様方がピンチだ。あれは高すぎだな。ルルカ、踏ん張れ!」

ルルカの元に駆け出して行った。


「ユリア!少しずつ糸を巻き戻せ!」

こちらも慌ててユリアの側に行く。



「~~~か、風が強すぎて巻けないのよ!」

じわじわ前のめりになるのを耐え、ふるふるしながらユリアが訴えた。


「落ち着け」

ガシッと後ろからユリアごと包み込むように、糸を持つ手を握りしめた。


「!!」

「大丈夫だ。ゆっくり、乗せるようにして……風の弱まる時に少しずつ巻けばいい」

ゲイルがそう言いつつ、うまくカイトを操りながら少しずつ糸を巻き上げていく。


コントロールがきかなかったカイトが徐々に安定してきた。


「──ほら、もう大丈夫だ」

「……うん、ありがと」


ほっとして青空に揺らめくカイトを見上げた。

白いカイトはまるで空を飛ぶ真っ白な海鳥みたいに見えた。


「アレに乗って空を飛べたら、気持ちいいだろうな……」

「……そうだな」

「ゲイルはこの島には毎年来てるの?」

「いや……10年ぶりくらいか」

「そんなに?」

「ああ、わざわざここに来る理由も無い」

「ふーん……」


その時、急な突風が吹いた。


「きゃあ!」

「っと!」

グルルッとカイトが引っ張られ、グラリと体勢を崩した。


ゲイルの手がユリアの腰に回り、倒れないようにだろう、ぎゅっと抱きしめた。


「……ふぁ!」

「今のはちょっときつかったな。手は痛めてないか?」


「う、うん、大丈夫、れす!いたっ」

ドキドキして思わず舌を噛んでしまった。


「くくっ!何だそれ。驚きすぎだろ」

「──からかってる?」

「いや?可愛いと思っただけだ」

「もう!ゲイルってば、やっぱりからかってる!」

「……揶揄ってない」

「ほんとかなぁ」

ぷくっと頬をふくらませた。


「…………ユリア」


照れ隠しのように拗ねた様子がほんとに可愛らしい。


「ん?」


くんっと後ろに引かれた。

チュッと右頬にキスをされた。

続けて左頬にも。


「────!!ゲ、ゲイル!?」

「可愛いって言ってるだろ?」

チュッと今度は額に口づけられた。


「!!わ、分かったよ!ゲイルは私を可愛いって、ちゃんと思ってくれてる!」

「そう言う事だ」

ニヤリと笑った。


「──ぅ……やっぱり……」

「まだ足りないか?」

「!!いい、もう十分……何だか力が抜けちゃうもん……」

「はは!」


──この(ゲイル)はどこまでが親愛で、どこからが恋愛なのか全然わからない。


だから、この行為を勘違いしては、いけない。


今までのエリックに対する扱いからも、かなり際どいところまで親愛枠な気がする。


“特別”はいないと言っていた。


──これがエリックなら、恋愛対象として好かれているんだろうなって、分かる。でもゲイルは……難しいな……ほんとにすごく難しい……


「ねぇゲイル……」

「ああ」

「また、来年もここに来たいな」

「学年会のメンバーで?」


「……そう、皆で、ね。今度はもう少し長く」

やっぱり“学年会メンバーで”になるんだ……。


「分かった。予約を入れておこう」


「やったね。ふふ」

それでも夏休み前よりはゲイルに近い位置にいると思う。



いつの間にか風はそよ風になっていた。


ユリアとゲイルが並んでカイトを眺めていると、ハウスの方からエリックとライオネルがこちらに向かっているのが見えた。


「あ、ライオネルたちだ。こっちよ~~!」

と手を振った。


「……やっと来たな」


何となく不満そうに見えるのは、気のせいだろうか?


エリックが嬉しそうに手を振っている。

ライオネルも軽く手をあげた。


「カプセル、うまく作れたみたいね」

「ああ」


頷くゲイルの整った横顔を眺めた。


幸い、まだまだ時間はある。


この位置をキープしつつ、ゲイルの恋愛ポイントを探っていくぞ!とユリアは改めて誓うのだった。

もうすぐ夏休みが終わる……

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